2020.12.25
介護士からみる“介護施設・老人ホームでの幸せな入居生活の秘訣”とは
今回は、介護施設・老人ホームでより幸せ暮らすヒントについて介護士としてご活躍されているスタッフのかたがたとオンライン座談会を実施しました!
ご入居者と最も近い存在であり、理解者であるために彼らはどのようにご入居者と関わっているのでしょうか?また、入居後も幸せに暮らしているご入居者ってどんなかたでしょうか?
現場を知る介護スタッフのリアルな声をお届けします。
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座談会メンバーの経歴
今回、ご協力いただいた介護士さんたちをご紹介します。(※すべて仮名です)
ナナコさん
介護職歴8年目で4年前に沖縄へ帰郷。今は介護施設とデイサービス、二足の草鞋で活躍中。
タカシさん
9年間介護士として従事し、住宅型や有料老人ホームなどホーム長としても計3施設を経験。
フミさん
福祉専門学校で介護福祉士の資格を習得したのち、リハビリ型有料老人ホームに勤務8年目。
ご入居者との会話こそがもっとも重要な情報源
早速ですが、みなさんが日ごろ心がけていることはありますか?
僕は、入居者さんの話をしっかりと聞くこと。それと、ご本人が大事にしていることや、当たり前にしている習慣などを知るようにしています。入居後も入居前の生活スタイルを持続できるようにするためです。例えば入れ歯の扱い方や、お箸や器の並べ方、朝食のルーティーンが決まっているなどなど、出来る限り対応するよう心がけています。
私の施設も、起床時間や朝食時間、部屋食など可能な範囲でご希望に合わせるようにしています。あとは積極的にコミュニケーションをとっていますね。施設内は常に室温が調整されていて肌で四季を感じる事が少ないので、「今朝は寒かったよ~」など外の情報を意識的にお伝えしています。朝の挨拶や食後のタイミングなど、挨拶だけでなく+αを加えることで会話になりますから。
私も入居者さんのお部屋へ遊びにいったりして積極的にコミュニケーションをとっています。自分が担当しているかた以外でもお邪魔してますよ。入居者さんのお話を聞きながら、私の話も聞いてもらっています。
あと、話をするときは入居者さんと目線を合わせて話すこと、常に笑顔でいるように心がけています。
素敵な関係性ですね!
大事にしていることや習慣を施設内でも維持するというのは、一人ひとり内容も違いますよね。それぞれの情報はスタッフ同士どのように共有されているのでしょうか?
施設では多職種がチームとなって連携しています。担当者・医師・理学療法士・言語聴覚士など、さまざまな角度から最善のケアを話し合って決定し、常に情報共有をしています。
施設の設備や環境、病気や転倒のリスク回避、限られた時間と稼働人数という条件の中では、正直ご本人の希望をすべて叶えることは出来ません。ですが、“施設だからできる”ことってたくさんあるんですよ!
やりたいことができなくなってきたから施設に入るかたが多いですけど、逆にできることが増えたときや希望が叶ったときの顔を見ると、こちらも嬉しくなります。
自分のやりたいと行動と身体機能のギャップが生じているから“やりたいことができなくなってきた”と感じるんですよね。でも、それは“やれない”とは違います。なによりご本人は”やりたい”んだと思うんです。なんでもケアといって手伝えばいいって訳ではないですし、入居者さんは自由を制限されたり拘束されている訳でもありません。だから「車イスに乗りたい」と言われると、つい私は転倒リスクを考えてしまうけど、あえて手を出さずに見守ります。
なるほど、見守ることもケアのひとつということですか。万一のことがあってもサポートできる環境だからチャレンジすることができる。施設に入居することによって我慢することが増えるのではなく、諦めていたことが復活できる可能性がある環境ということですね。
「ありがとう」を伝えることが大切
先ほどタカシさんが「幸せそうな顔を見るとこちらも嬉しい」と仰っていましたが、他にも嬉しい瞬間ってありますか?
やっぱり「ありがとう」と感謝してもらえたときです。日常のことですが、言葉にしてもらえると本当に嬉しい気持ちになります。
一度、以前の入居者さんからお手紙をいただいたことがあるんです。「元気?沖縄には行ったことがないから写真を送って欲しいわ」と。実は個人情報なのでダメなんですけど、手紙が届いたときは嬉しくて嬉しくて。後日、写真を持って会いに行きました。今でも関東へ行くときは前の施設へ立ち寄って遊びに行ったりしています。
私も言葉ですね。「頑張ってるね」とか「あなたが一番頼りやすい」などと声をかけてくれる入居者さんがいます。そう言ってもらえると、すごくモチベーションが上がります。
担当スタッフじゃないのに私の名前を覚えてくれるかたもいて、「フミちゃん! フミちゃん!」と呼ばれると、距離が縮まっているように感じて嬉しいですね。
前に、3年ほど担当させていただいた入居者さんの看取りをしたんですが、そのときご家族の配慮で葬儀を私のシフトに合わせてくださいました。そして娘さんから「フミさんに看取ってもらえてよかった」と言ってもらえたんです。私も最期まで担当することができて、心からよかったと思いました。
僕もおふたりと一緒で、言葉をかけてくれることですね。
以前、フロア制の施設ではたらいていたとき、認知症のあるお客さまを担当していたのですが、お客さまの介護度が上がり別フロアへ移動になったことがありました。なかなか会わない環境になると、そのかたが「タカシくんは元気か?」と他のスタッフに聞いていたそうです。それを知ったとき、認知症の方なのに自分のことを覚えていてくれたことが 嬉しかったですね。
聞いてるだけでちょっと泣きそうになりました・・(感動)。
やっぱり人と人ですもんね。感謝の言葉を相手に伝えることがこんなに大事なんだと、改めて思いました。いつもご入居者のことを考えているスタッフのかたがたが、ご入居者のお礼ひとつで幸せになるんですね!
介護施設に入居した後も幸せに過ごす秘訣とは?
ご入居者の一番身近にいるみなさんにからみて、入居後を幸せに過ごす秘訣を教えてください。
例えば、スタッフの名前を覚えてくれたりして興味をもってくれるかたは、お互いにコミュニケーションがとりやすい距離感のため、必然的に信頼関係が築きやすいです。私たちは信頼関係をとても大切にしているんです。
ここを家だと思ってリラックスして過ごしていただいている入居者さんは幸せだと思います。
お互い信頼し合うって、簡単ではないですよね。
家族に見放されたと思い込み、強い孤独感で心を閉ざした入居者さんがいました。心を開くことを無理強いすることはできませんので、私は本人の意思を尊重したくて見守りケアを中心にしていました。できる限り好きなように過ごしてもらっていたら、あるとき「自由にしてくれてありがとう」と言ってくれもらえて、それから徐々に信頼していただけるようになりました。施設に対してネガティブに構えていたのかもしれません。
ご本人の納得しているか否かという点も大事だと思っています。入居前にしっかりと“その施設が安心できる場所”であることを理解して、納得して入居をしていただくこと。疑念があるとスタッフがなにを言っても、なかなか受け入れてもらえません。
最初は知り合いもいないし不安でいっぱいですもんね。私だってそうなりそうです。
そんな場合はどうするんですか?
僕はとにかく声をかけますね。
たくさん声をかけて、顔を覚えてもらって、挨拶をして、目を見て話しをします。ここの施設が安心していただける場所であると理解していただけるよう丁寧に伝え続けます。同時に自己開示し、僕自身が信頼してもらえるスタッフになるようにしています。
自宅では難しくても介護施設だから叶うこと
私の経験上、入居者さんでポジティブに動くかたとネガティブに考えるかたといらっしゃいます。
施設内には同じような身体状況のかたが周りにいますので、刺激を受けて「あのひとみたいに〇〇ができるようになりたい!」と目標をつくって励むかたは身体機能が向上したり、中には介護度が軽くなるかたもいます。例えば「最後まで自分の足で歩きたい」といったような目的意識があるかたも、すごくいいですね。
ネガティブな考えになっていると、まず施設への入居自体を受け入れることに時間を要したり、周囲のかたと比較して「自分には無理」だと早々に諦めてしまいます。
自分の身体が誰かのケアを必要とする状況であることを受け入れつつ、前向きにそのエイジングに抵抗するって、正直けっこう難しそうに思いました。。
そうなんです、簡単じゃないから最初はネガティブな考え方のひとが多いですよ。急に前向きにはなれませんし、安心してください。そもそも一人ひとりの身体状況は違うので誰かと比べることではなくて、それぞれのペースでいいんです。周囲の人たちはみんなライバルじゃなくて仲間ですからね。
うちの施設ではこんな入居者さんもいましたよ。そのかたは食事介護が必要で、いつもなかなか食が進まなかったんですけど、ある日とつぜん自分で食べ始めたんです!
聞いたら「みんな忙しそうだったから」と言われました(笑)
それをきっかけに他のことにも積極的に動いてもらえるようになりました。
こちらの手が回っていないのは反省点ですが、ご本人が自ら改善してもらえたことに私は驚きと感激でした。
施設って自宅よりも広いので、必然的に歩く機会が増えます。毎日の積み重ねが少しずつ自立歩行できるようになったり、身体機能が回復したりする事例もあります。
介護施設というのは共同生活なので、周囲の入居者さんに感化されたりしてモチベーションの向上につながりやすいという効果が期待できます。また、他者とのつながりや社会的な交流もありますし、うつを予防できたり活力を見出したり、身体機能を回復することのできる環境が整っているんですよね。
幸せな入居者さんをみていると、趣味や目標をもっていたりして積極的にレクリエーションに参加したり、いろんなひととコミュニケーションをとっているかただなと感じます。友人づくりもホームでの楽しみ方のひとつだと思います。
まとめ
みなさんありがとうございます! 実際に幸せなご入居者と過ごされているみなさんから貴重なお話しが聞けて、大変勉強になりました。
入居後も幸せに暮らすためのポイントは、以下8点です。
・ご本人が納得してから入居しましょう
・自分のやりたいことや希望、意思を伝えましょう
・心を開いて信頼できる介護スタッフを見つけましょう
・感謝の気持ちを相手に伝えましょう
・趣味をもったり、目標をもちましょう
・積極的にレクリエーションに参加しましょう
・イベントを楽しみましょう!
・コミュニケーションを大事にして、友達をつくりましょう!
ということです。
今回の座談会を通して、普段なかなか聞く機会のない貴重なお話しを伺うことができました。
介護スタッフの業務効率・モチベーションの向上や、働きやすさはご入居者の幸せにもつながり、ご入居者の幸せはスタッフの幸せにもつながります。
入居前は不安に思うかた、入居後の馴染み方に戸惑っているかたも少なくないのではないでしょうか。
介護施設・老人ホームへの入居は、ご本人やご家族の人生をより楽しく生きるための選択のひとつです。周りのかたがたとよりよい関係性を築き、今よりもっと笑顔を増やしたい! その想いは、我々ココシニア編集部も介護スタッフも同じです。幸せに生きるためのヒントとして、少しでも参考になれば嬉しいです。
ナナコさん、タカシさん、フミさん、この度はご協力いただき誠にありがとうございました!