2021.02.18
【高齢者の食事】摂取したい栄養とおすすめの献立、食事量の目安を解説!
人の体は高齢になると、新陳代謝が遅くなる、内臓の機能が低下するなどの変化が起きます。
また、人によっては食が細くなるということもあるでしょう。
しかし健康維持のためや要介護のリスクを低減させるために、必要な栄養素は摂取しておきたいものです。
高齢になると体にはどのような変化が起きるのか、どのような栄養素を意識的に摂る必要があるのかをご紹介します。
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1.高齢者が食事から摂取したい栄養
高齢者が食事で意識したいのは、まずはエネルギー源になる炭水化物とたんぱく質をしっかり摂取することです。
これらが不足すると様々な悪影響が生まれます。
高齢者とBMI
BMI(ボディマス指標)とは、身長と体重から肥満度を計測する指標です。
高齢者の目標とするBMIは、
・60歳代で20.0~24.9
・70歳以上で21.5-24.9
となっています。
高齢になると食が細くなりがち。
その結果、目標とするBMIを下回る高齢者は歳とともに増えています(図1)。
目標とするBMIを下回る者の割合 | ||||||
男性 | 女性 | |||||
年齢 | 60歳代 | 70歳代 | 80歳以上 | 60歳代 | 70歳代 | 80歳以上 |
割合(%) | 9.5% | 23.1% | 32.7% | 21.3% | 37.3% | 44.2% |
図1 目標BMIを下回る人の割合
(出所「栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防」消費者庁資料)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180402_0005.pdf
目標BMIに達していない高齢者の割合は男性では70歳代で2割、80代では3割、女性では70歳代近くで4割近くにのぼります。
BMI低下の要因の一つは、筋肉量の減少です。
筋肉量の減少は身体機能の低下だけでなく疲れやくなる、活力がなくなる、といった現象につながりますので、食事では筋肉量を維持する栄養素を摂取するよう意識しましょう。
低栄養のリスク
食事量が減り低栄養になると、体のなかで悪循環が始まってしまいます*1。
筋肉量の減少
⇓
活動量の減少
⇓
エネルギー消費の減少
⇓
食事量の減少
⇓
低栄養
⇓
活動量の減少
⇓
身体機能の低下
こうした具合により、多くの悪影響を体にもたらします。
つまり、低栄養状態が続くことにより、要介護や虚弱のリスクが高まってしまうのです。
最も意識する必要があるのはたんぱく質
そこで、高齢になってくると意識的に摂取しなければならないのは、筋力を維持するためのたんぱく質です。
もちろん、バランスの取れた食事はいくつになっても必要ですが、高齢者の場合はたんぱく質の摂取量を強く意識しましょう。
厚生労働省が示しているたんぱく質の必要量は、年齢や活動量に応じて以下のようになっています(図2)。
図2 たんぱく質摂取量
(出所「食べて元気にフレイル予防」厚生労働省パンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/000620854.pdf p8
① 1日を座って過ごすことが多いか
②日頃は座っているが買い物や軽いスポーツなどをしているか
③立ち仕事が多い、あるいはしっかりスポーツをしているか
によって必要量は変わります。
たんぱく質を含む食品と一人前あたりのたんぱく質量の一例は下のようなものです。
・主食
食パン1枚 ⇒ 5.6g
ごはん普通盛り ⇒ 3.8g
・主菜
鮭一切れ ⇒ 5.6g
豚肉ロース ⇒ 11.4g
卵1個 ⇒ 7.4g
豆腐1/4丁 ⇒ 80g
・牛乳と乳製品
牛乳 ⇒ 6.6g
プロセスチーズ ⇒ 3.4g
ヨーグルト ⇒ 3.0g
日常生活で多く摂られるもの、スーパーで簡単に手に入れられる食品をご紹介しました。
ぜひ参考にしてください。
2.高齢者の食事量と目安
さて、体力維持のために適量を維持したい食事量ですが、食べ過ぎもいけませんし、食塩量にも注意することが重要です。
加齢に伴う食欲低下は誰にでも起こりうる
「あまりお腹がすかない」
「なんだか食が進まない」
ということは、ある程度高齢になれば誰にでも起きうることです。
というのは、加齢による身体機能の低下は実に多岐にわたるからです。
食事に関する具体的なものとしては、
・内臓機能の低下:腸の働きが鈍くなったり消化吸収の能力が低下したりすることで便秘ぎみになる
・味覚、嗅覚、視覚の低下:食欲を刺激する要素が薄くなってしまう
・口腔の変化:咀嚼や嚥下(飲み込んで食道から胃へ送り込む力)が低下してものを食べにくくなる、唾液の分泌が減ることで味を感じにくくなる
といったものがあります。
こうした問題に対して、食欲不振への対策を取ることが非常に重要となります。
食事量の目安
高齢者の必要エネルギーの推定値は、このようになっています(図3、4)。
65-74歳の推定エネルギー必要量 | ||||||
男性 | 女性 | |||||
身体活動 レベル |
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
エネルギー (kcal/日) |
2,050 | 2,400 | 2,750 | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
75歳以上の推定エネルギー必要量 | ||||||
男性 | 女性 | |||||
身体活動 レベル |
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
エネルギー (kcal/日) |
1,800 | 2,100 | - | 1,400 | 1,650 | - |
図3、4 高齢者の推定エネルギー必要量
(出所「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586580.pdf p421、422
また、農林水産省の「食事バランスガイド」というものがあります。
ここでは、主食や主菜の量について「SV(サービング=食事の提供量」という単位を用いて何をどのくらい食べる必要があるかが示されています。
詳しい計算方法は、ガイドを確認してください。
(参考)「食事バランスガイド」
https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/b_sizai/pdf/korei_all.pdfp4
食塩量には注意が必要
食欲低下を解消するために、高齢になると味付けが濃くなるということがあります。
食塩の摂取量は、60代で最も多く、70代になっても1日の目標値である8gを大きく上回っています*2。
塩分は減らしすぎてもいけませんが、取りすぎると様々な病気のリスクが高まります。
近年は減塩を意識した調味料が販売されていますから、上手に活用しましょう。
3.高齢者にとっておきの献立
高齢者が心がけたい日々の献立とはどのようなものでしょうか。
基本はいろいろなものを食べること
基本の献立は、「主食」「主菜」「副菜2種」です。
厚生労働省が示す一例はこのようなものです(図5)。
図5 食事の構成の一例
(出所「食べて元気にフレイル予防」厚生労働省パンフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/000620854.pdfp7
多くの食品を普段から食べるようにすることは、ビタミンミネラルといった栄養素も摂取できるだけでなく、食欲がない時でも「食べたいと思えるもの」の選択肢を増やすことにつながります。
また、視覚的に飽きないといったメリットもありますので、心がけたいところです。
スープがメインの献立
咀嚼や嚥下が低下してきたと感じる場合、あるいは唾液量が減ってパサパサしたものを食べにくい、と感じるようになった場合には、汁物・スープで栄養を補うようにしましょう。
また高齢者は若者と比べて脱水症状に陥りやすくなっております。
参考:高齢者の脱水症状には要注意!厚生労働省が基準とする水分摂取量の目安とは?
食事からも積極的に水分を摂取することが大切です。
加えて、注意が必要なのは、見た目や味に変化をつけること。
じゃがいも・かぼちゃ・枝豆などのポタージュ、トマト、コンソメ、など飽きにくい食材を用いたり、好みに合わせることが食欲につながります。
また、ものを噛めるうちは、舌で崩せる程度の柔らかさにした煮物なども良いでしょう。
4.まとめ〜食事中の飲み込みに注意しよう〜
ここまで、高齢者の食事で意識したいことについて紹介してきました。
なお、食事中の嚥下には細心の注意が必要です。
高齢になると、口の中で舌を使って食べ物をまとめることが苦手になります。
その結果、飲み込んでも喉に残り、食べ物が気道に入ってしまうことがあります。特に咀嚼しやすいようにと細かく刻んだもの気道に入りやすくなってしまいます。
こうした「誤嚥」をしてしまうと咳き込んでも食べ物を吐き出せず、食べ物が残ったままになってしまい、肺炎が起きうることがあります。
誤嚥性肺炎と言います。
若いうちは食事をする時にそう多くのことを意識することはありませんが、高齢になると胃腸だけでなく様々なところに変化が起き、食事をしにくくしている要素はたくさんあります。
身体機能低下のひとつひとつに注意し、好きなものを長く食べ続けられるよう心がけましょう。
また、食事を「楽しいもの」だと意識し続けられることが重要です。
単に栄養を摂取するというだけでなく、見た目を楽しむ、季節感を感じるといったことも食事には必要な要素です。
*1消費者庁「栄養成分表示を活用しよう⑤高齢者の低栄養予防」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180402_0005.pdf
*2厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586580.pdfp421、422