2020.09.18
“運動会が地域に支え合いの精神をもたらす” 高齢者と地域コミュニティをつなぐ「運動会屋」の挑戦
運動会を通して、みんなが協力し支え合える社会を実現したい。そんな強い想いを胸に、運動会をコミュニケーションツールとして取り入れる活動を行っている株式会社運動会屋。
これまでに会社や地域、施設などに向けた数々の運動会をプロデュース。「地域交流運動会」や「やさしい運動会」などの活動も行い介護施設や地域コミュニティ活性化の一助を担ってきました。
今回は運動会屋のこれまでの活動と今後の展望について、代表取締役CUO(Chief UNDOKAI Officer)の米司隆明さんとイベントプロデューサーの鈴木絵里子さんにお話を伺いました。
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スポーツの力で人間関係の課題を解消したい
――まずは、代表取締役の米司さんにお伺いします。御社の取り組みについて、簡単にお聞かせください。
米司 隆明さん(以下、米司さん):株式会社運動会屋は、企業や団体向けの運動会をプロデュースしている会社です。お客様のニーズに合った運動会を提供し、企業や地域、福祉施設などで年間200件以上の運動会を実施しています。さらに、海外で運動会の普及活動も行っています。
――なぜ、運動会を提供する会社を作ろうと思われたのでしょうか?
米司さん:私は大学を卒業してから2つの会社で働いたのですが、そのなかで現代社会の人間関係の希薄さに課題を感じたんです。
最初に就職した金融会社では、営業を担当しました。ノルマが厳しく周りはみんなライバル、仕事について相談しても「根性がない」と責められる環境で、とても人間関係が良いとは言えなかったんです。
その後IT企業へ転職しましたが、こちらでは社員全員がずっとPCに向かい、会話がほとんどありませんでした。2つの会社を経て、人とのつながりやコミュニケーションについて考え始めたのです。さらに、当時は子どもの引きこもりが社会問題化し、世の中全体で人間関係が希薄化していると感じていました。
そんなとき、自分が学生時代野球に熱中していたことを思い出しました。同じ目標に向かって頑張る仲間との関係はとても強かった。そこで、スポーツが人間関係の課題解決に役立つのではないかと考えたんです。
スポーツの力で人間関係を変えたい、企業や社会を変えたい。そう思い、2007年5月にNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズを創業しました。その後2010年、新たに株式会社を設立し、現在に至ります。
――創業当初は、どのような活動をされていたのでしょうか?
米司さん:当初は運動会を行っておらず、人とのつながりを作ってもらうためにフットサルの試合を主催するなどしていました。本質的に会社を変えていきたいと思ったので、そこから会社で取り入れられるスポーツについて考え始めます。
組織は人数が多く、性別や年齢、体力もバラバラなので、誰でもできるものでないとみんなが楽しめない。そう考えた結果、運動会にたどり着いたんです。そして2008年4月から、運動会をプロデュースする事業を始めました。
――運動会事業を始めたときの企業や社員の反応はいかがでしたか?
米司さん:金融会社で営業をしていた経験を活かしてさまざまな企業に運動会を提案したのですが、「会社で運動会をやる時代はもう終わっているから、諦めた方が良い」と諭されてしまいました。
その後IT企業で身につけたスキルを活用し、ホームページを作ったところ、問い合わせが来るようになったんです。初めて運動会の開催が決まったのは、事業をスタートしてから1年後のことでした。
そこから年々依頼は増え続けているのですが、運動会の開催が決まった会社の社員さんに事前アンケートを行うと、「やりたくない」という声がとても多いのです。運動会って大変なイメージがあるので、人気がないんですよね。
でも、実際に参加したあとは「人間関係が変わった」「会社の雰囲気が良くなった」と、良い効果を実感する声が多く寄せられます。運動会は、ほぼ間違いなく満足してもらえるイベントだと思いますね。
行政機関の事務担当者が運動会屋に惹かれた理由
――続いて、鈴木さんにお伺いします。運動会屋へ入社するまでの経緯をお聞かせください。
鈴木絵里子さん(以下、鈴木さん):社会人になってから印刷業界で営業を担当し、その後行政機関で事務をしていました。
勤務先が3回変わり、最後の3年間は文部科学省の初等中等教育局にある進路指導や生徒指導をする部署で働いていたんです。国の仕事だったため当事者である児童生徒や先生方の顔を直接見る機会がなく、次に転職するときは直接人を笑顔にできる仕事をしたいと考えていました。
その後転職先を探していたとき、たまたま運動会屋と出会い、米司と話しておもしろい会社だと感じたので入社したんです。
――入社後は、どのような仕事をされてきたのでしょうか?
鈴木さん:入社後、半年経たないくらいで独り立ちし、今は5年目です。
主に企業に対して運動会の提案をしていますが、それとは別に地域の運動会へ参加させてもらったり、障がい者と健常者が一緒に参加する運動会に携わったりしました。障がい者スポーツを体験するイベントに関わらせていただいたこともあります。
運動会は、コミュニティを活性化させる手段のひとつ
――運動会がもたらす良い効果とは何でしょうか?
鈴木さん:運動会は、さまざまな面からコミュニティを活性化させます。
例えば、会社や地域で異なる世代間のコミュニケーションが生まれにくい理由として、“何を話せば良いかわからない”という点があります。
しかし、一緒に運動会へ参加することで自然とお互いを応援したり、自発的に作戦会議を行ったりします。小さな子どもから高齢者まで、みんな「やるからには勝ちたい」という思いが自然と湧きあがってくるので、コミュニケーションが生まれるんですよね。一見気難しそうに見える上司が楽しそうに参加している姿や、普段関わりのなかった部署の人の意外な一面を見ることができます。
その結果、今まで交流がなかった人とも仲良くなり、運動会が終わったあともコミュニケーションを取るようになったなど、コミュニティの活性化につながったという報告が多く寄せられます。
運動会は、年齢や性別、運動の得手不得手などを超えてみんなでできるコミュニケーションツールのひとつです。非日常感や達成感を味わい、交流を深めながら運動会後のコミュニティ活性化につなげられると良いですね。
地域の強みを活かした運動会をプロデュース
――御社のプロジェクトのひとつに「地域交流運動会」がありますが、こちらについて詳しくお聞かせください。
米司さん:地域の運動会の多くは伝統的に行われていますが、マンネリ化や運営の大変さを理由としてやめてしまう地域もあるんですよね。一方で、一度やめてしまった運動会を復活させたいという相談もいただきます。
どちらの場合も、まずは“何のために地域で運動会をやるのか”という目的をよく考える必要があります。明言されているわけではありませんが、地域の運動会は住民同士が交流しコミュニティを育むという役割を担っていたのではないかと思うんです。
異なる世代間で交流することでお互いに支え合える関係性を築き、それが住みやすさや生きやすさにつながっていたと思うんですよね。
だから、住民が交流しながらコミュニティを育むことができれば、伝統的な運動会の形にこだわる必要はないんです。
少子高齢化が進んでいるのに昔と同じくリレーや綱引きなどをするから、けが人が出たり運営に負担がかかったりする。その結果、運動会という素晴らしい文化が嫌われ者になってしまうんです。
そうではなく、“自分たちの目的にかなうような運動会をみなさんで作りましょう”と話をします。そうすると、これまでの運動会と大きく異なるものができますね。
――地域交流運動会をやりたいと相談があったときは、どのように企画を進めていくのでしょうか?
鈴木さん:まずは相談者の方にヒアリングして、運動会を開催する目的を聞きます。目的に合わせつつ地域の強みを活かした運動会を考えられるよう、アイデアを引き出していくのが私たちの役割です。
はじめは目的が漠然としすぎていることが多いので、紐解くようにしています。特に強みは地域ごとに大きく異なるので、私たちが「これが良い」と決め付けるのではなく、実際にやっていただく方に寄り添うことを心がけています。
――地域の強みが活かされた運動会の事例を教えてください。
鈴木さん:会津の方からご相談いただき、真冬に雪上運動会を行いました。若者から高齢者まで、3、40人の方が参加してくれたんです。
雪合戦や雪だるま作り、雪玉入れ、雪の中に隠した野菜や果物を見つけ出す宝探しなど、雪が多い地域ならではの種目を行いましたね。
米司さん:運動会って、特別な道具を使って決まった種目をやるものだと思われがちですが、その必要はないんですよね。
あるものを使って、目的が達成されれば良い。だから雪の多い地域で雪を使った種目をするのは、地域に合った新しい運動会の形といえます。
新型コロナウイルスの流行で見直した、運動会の在り方
――2020年は新型コロナウイルスの流行によって変えざるを得ないこともあったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
鈴木さん:そうですね。大前提となる考え方が、大きく変わりました。
今までは、“スポーツはみんなで集まらないとできない”と思い込んでいたのですが、配信をつなげるなどやり方を変えれば遠くにいる人も参加できます。運動会の在り方を見直す良いきっかけになったので、今後もさまざまな手段を取り入れながら歩み続けたいと思いました。
ただし、実施方法を変えていくなかでも、運動会が楽しくみんなをつなぐものだという軸はブレないようにしなければなりません。運動会によって生まれるコミュニケーションなど良い効果はそのままに、運動会の幅を広げていきたいと思います。
――幅を広げた結果生まれたプロジェクトが「オンライン運動会」だと思うのですが、こちらはどのように行われるのでしょうか?
鈴木さん:オンライン運動会ではZoomを使い、参加者の方々に自宅からつないでいただきます。司会進行画面を表示しながら種目の説明を行い、その場でできて少し体を動かせる運動を種目として行います。
自宅ではあまり大きな音を出せない方もいるため、なるべくバタバタと音を立てない種目を考えています。例えば、家にあるものを持ってきてしりとりをしたり、お題に合わせて同じポーズを取れるかに挑戦したりしますね。
オンライン運動会は、2020年8月時点で3社に正式なサービスとして提供しました。今後も種目を考えたりアプリを開発したりしながら、サービスを向上させていきたいです。
運動会のように、みんなが思いやりを持って協力し合う社会の実現を目指す
――最近は「やさしい運動会」として福祉業界にも運動会を提案されているそうですが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
鈴木さん:さまざまな企業や地域に携わるなかで、多くの人が「運動会は元気な若者がやるものだ」と認識していると感じたんです。しかし、運動会は誰でも参加できるものなので、もっと裾野を広げたいと考えました。そこで注目したのが、福祉業界です。
実際に障がい者と健常者が一緒に行う運動会に携わったり、介護施設で運動会を実施して、参加者の方が笑顔で楽しんでくれたという経験がありました。
事務局の方からお声がけいただいて、2020年2月「東京ケアウィーク2020」という高齢者施設向けのイベントに出展したことが本格的に福祉業界へのサービス提供に力を入れるきっかけになりました。
――東京ケアウィーク2020に出展されて、何か得られたことはありましたか?
鈴木さん:来場者の方から、貴重なお話を伺うことができました。福祉施設向けのコンテンツはたくさん開発されているけれど、そのほとんどが少人数向けのものであり、みんなで集まって何かをするときはスタッフさんが一生懸命考えているのが現状だそうです。
だからこそ、私たちが運動会というサービスを福祉業界へ提供すれば、みなさんに価値を提供できるのではないかと手応えを感じました。まだ実施数は少ないですが、機会があったときにはぜひ運動会をプロデュースさせていただきたいと思っています。
――運動会事業を行うことで、見えてきたものはありますか?
米司さん:徐々に運動会が自分たちの哲学になってきました。運動会は誰にでもできますが、周りと協力しなければ良い結果を出せません。
だから、みんなで協力してゴールを目指します。僕は、そういう社会を作っていきたいんです。運動会というイベントを実施しておしまいにするのではなく、お互い手を取り合える社会に変えていきたいと思います。
――御社の今後の展望をお聞かせください。
鈴木さん:運動会をなくしたくないという気持ちは大前提としてあるので、みなさんができる運動会を少しずつ広げていき、多くの地域に根付くように活動を続けていきたいです。
最終的にはみなさんに楽しく元気に過ごしていただくことが目標なので、高齢者に限らず大人も子どもも周りの人と協力し、お互いに支え合う環境で思いやりの心が根付いていくと良いなと思います。
そのために歩みを止めず、手を尽くしていきたいです。そのひとつが福祉業界へのサービス提供だと思っているので、力を入れていきたいですね。
米司さん:支え合いの精神をみんなが持つようになれば、平和な世の中になると思います。支え合いの意識を持ったコミュニティを育むために、運動会を取り入れていただきたいですね。
福祉業界にサービスを提供するときも、福祉だけを分断して考えるのではなく、地域とのつながりを作れるような活動として展開していけたらと思っています。
――若い方だけでなく、高齢者の方もみんなで楽しみながらつながりを作れる運動会。これからも、たくさんのコミュニティに取り入れられることを期待しています。
米司さん、鈴木さん、本日はありがとうございました。
企業や地域、施設で運動会を実施し、コミュニティを活性化させませんか?
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文=相良海琴
Twitter:@mikoto_write