2020.11.27
高齢者が気軽に旅行を楽しめる世界へ――旅介が提案する介護旅行の新しいカタチ
福祉車両を使用した少人制の介護旅行を提案する「旅介」と、施設にいながら旅行の楽しさを実感できる「旅介オンライン」のふたつを主軸とし、介護施設に旅行サービスを提供しているのが、東京トラベルパートナーズ株式会社です。
今回は、介護旅行のサービスを始めた経緯やオフラインとオンラインそれぞれの魅力について、代表取締役の栗原 茂行さんにお話を伺いました。
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オフラインとオンラインの両方で介護施設に旅行サービスを提供
――まず、「旅介」というサービスの概要を教えてください。
(旅介公式HPより)
栗原 茂行さん(以下、栗原さん):旅介は、介護施設向けの旅行サービスです。外出が難しい介護施設の入居者の方々を、旅行にお連れしています。2018年に誕生し、2019年には100以上の施設でご利用いただきました。
(旅介オンライン公式HPより)
また、「旅介オンライン」と称したオンラインツアーを2020年3月から始めました。身体的な理由で旅行へ行くことができない方でも気軽に旅行の楽しさを味わえるよう、観光地の景色を高画質な生中継で見ていただくサービスです。旅介オンラインも好評で、2020年8月に実施した長野県善光寺を参拝するツアーでは、約240の介護施設で3,000名の入居者の方が視聴してくれました。
――栗原さんは2016年に東京トラベルパートナーズを立ち上げたそうですが、そこから旅介をリリースするまでの経緯についてお聞かせください。
栗原さん:会社を立ち上げる前は、大手旅行会社に10年ほど勤めていました。そして2016年、当時お客様だったシマダグループに出資してもらい、グループ会社として旅行会社を立ち上げました。前職でBtoBの法人旅行を取り扱っていたこともあり、起業当初も同じようなことをしていましたが、売上が良くても仕事がおもしろくないと感じたんです。
そこで、グループ会社で介護施設を運営していたこともあり、介護旅行サービスを始めることにしました。
最初は事業の一部として介護旅行を提供していましたが、2018年からは法人旅行をほぼやめて介護旅行をメインとし、旅介をリリースしたんです。そこから2年間で、関東を中心に旅介を使ってくださる介護施設は増えていきました。
収益化の難しさと施設スタッフの要望、ふたつのギャップから誕生
――介護施設向けの旅行サービスを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
栗原さん:グループ会社で介護施設を運営していて、スタッフの方から「入居者の方々を旅行に連れていきたい」という要望を聞いたことがきっかけでした。
前職時代から介護旅行をビジネスにすることに興味があったんですが、「うまくいった会社がほとんどないから、やらないほうがいい」といろいろな人に言われてしまったんです。確かに介護旅行は、かかる工数に対して対価が回っていないという印象がありました。例えば入居者のなかには車椅子の方がいたり、きざみ食しか食べられない人がいたりするので、旅行を企画する際に特別な手配が必要です。個人でオリジナルプランを組んで旅行に連れて行く方はいますが、企業がビジネスとして介護旅行を提供するのは難しいのが現実なんですよね。
一方で、グループ会社の介護施設入居者400人にアンケートをすると、71%の方が「旅行に行きたい」と答えていました。しかし、過去3年以内に旅行をした人は、わずか8%。つまり、63%の入居者は、旅行に行きたいけれど実際には行けていないということがわかったんです。
施設スタッフの方からも、なかなか入居者の方々を外へ連れて行くことができないから、介護旅行のサービスがあれば嬉しいという話を聞きました。「やめたほうがいい」と「やってほしい」というふたつの意見のギャップを見て、やり方次第でビジネスとして成立するのではないかと感じたんです。
そこで、会社設立後の2年間は、介護旅行をビジネスとして成り立たせる方法を模索しました。そして、この形にすれば成り立つだろうというモデルが見えてきたので、旅介ブランドを作ったんです。
――旅介のサービス対象者を、介護施設の入居者にした理由は何ですか?
栗原さん:個人ではなく施設の方とのB to Bに特化することで、費用も手配の手間も抑えられる仕組みを作れたため、介護施設スタッフの方と当社、双方の負担を押さえながら入居者の方に喜んでもらえる旅行を提供できると考えたからです。
介護施設は基本的に、旅行へ連れて行く場所ではありません。ホスピタリティのある方が介護旅行を企画してくれることもありますが、それはあくまで特別な例です。介護施設の人手不足は深刻ですし、休日返上で旅先の下見に行ったり計画を立てたりするのは大きな負担となります。そのため、入居者の方を旅行に行かせてあげたいけれど、現実的には難しいという介護施設は数多くあります。
高齢者の方に喜んでいただくだけでなく、施設スタッフの方にも喜んでもらうことが大切だと思い、旅介は介護施設を対象とした旅行サービスとしてリリースしました。
低価格かつ安心な介護旅行で、高齢者の心の元気が向上
――旅介の具体的なサービス内容について、教えてください。
栗原さん:まず、気軽に参加してもらえるように価格を抑えました。一度きりの思い出として10万円かけるのではなく、1人1回1万円前後で何回も参加してもらいたいと考えたんです。価格を抑えても利益を出せるようにするため、ツアーには自社車両を使っています。そして当社のスタッフ1人が、ドライバー・添乗員・ヘルパーの3役を兼任することで、施設スタッフの方が1人加わればツアーが実施できるんです。
https://youtu.be/hFfDEsXLiR0
当社のスタッフは旅程管理主任者資格や介護ヘルパー資格、自動車2種免許を取得していて、自社車両を病院送迎などには使わず、全てツアーに使っています。一般的な旅行会社のようにバスを手配すると、手数料などがかかってほとんど利益は出ません。しかし、自社車両を丸1日貸し切りにすると利益率が高いので、価格を抑えても無理なくサービスを継続させられます。
また、オーダーに合わせてコースを決めると企画に相当な時間がかかってしまうので、あらかじめ100以上のコースを作って選んでいただく形式をとっております。日付とコースを選んでもらえば、明日にでも旅行に行けるという手軽さがポイントです。
コースの9割は日帰りで、東京都と神奈川県を中心に無理のない範囲で片道1時間~2時間程度で行ける場所へお連れします。都内の水族館や鎌倉の海など、観光と食事を楽しめるツアーを高齢者の方の体力に配慮しながら作っています。多いときだと、月に約30本のツアーを実施しました。ほぼ毎日、車両4台が稼働していた形です。
車両が足りないときは外部の介護タクシー会社に依頼することもありますが、その場合は介護業界を引退された方にサポーターをお願いして、ツアーについて行ってもらいます。元介護福祉士の方が有償ボランティアとしてサポートしてくれることで、介護旅行に慣れていない外部のタクシー会社に依頼した場合も安心してツアーができます。
サポーターの方がついてくれると、ドライバーと2人で車椅子を押すことも可能です。一般的な介護旅行では施設スタッフの方が3人ほどいないと回らないケースもありますが、旅介では1人で良いことも多いんです。負担を抑えられるから、施設の方にも利用してもらいやすいんだと思います。
――実際に旅介を利用して旅行された方には、何か変化がありましたか?
栗原さん:普段あまり外へ出られない方が多いので、海や紅葉などの景色ひとつとっても、すごく噛み締めながら見てくださるんです。そして、皆さん目に見えて元気になります。施設では全然ごはんを食べないけれど、旅先では全部ぺろりと平らげる方も多いです。違う環境へ行くことで、解放感を得られるんですよね。
私たちと同じで、高齢者の方も旅行で間違いなくテンションが上がります。医学的にどうだというデータはまだ持っていませんが、高齢者の方のQOL向上につながっているのは間違いありません。
「旅行がやってくる」発想から生まれたオンラインツアー
――新型コロナウイルス感染症の流行によって、提供されているサービスはどのように変化していったのでしょうか?
栗原さん:2020年2月に、旅介のツアー全てを中止しました。介護施設では面会制限が設けられているところもあり、スタッフも入居者も相当ストレスが溜まっている状態だったんです。それでつながりのある施設から、何かしてほしいと要望がありました。
そこで、介護施設向けのオンラインツアーを始めることにしたんです。旅介の旅行で1番人気なのが、桜を見に行くツアーでした。それが中止になってしまったので、施設でお花見ができるよう景色を届けることにしました。
しかし、web会議サービスを利用してスマホで撮影した映像を流すだけでは綺麗な景色を楽しんでもらうことができず、オンラインのお花見ツアーは失敗に終わってしまったんです。そこで、視覚で感動を与えられるよう、最高のオンラインツアーをやろうと考えました。
まず、素人がスマホで撮影するのではなく、映像は映画の制作チームに依頼しました。そして案内役も、話せるプロにお願いすることにしたんです。そうして旅介オンラインのツアーとして2020年6月に実施したのが「アキラ100%と行く 鎌倉・長谷寺 あじさい路」でした。
私たちが旅介オンラインで生中継にこだわっているのは、今この瞬間を共有し生きた映像を見せることに価値があると思っているからです。本当は生中継なんてせずに、1番綺麗な映像を録画して届けたほうが良い。でも、生中継で施設や参加者の名前を呼んであげると、皆さん感激してくれるんです。生中継では「今、現地とつながっている」という感覚を得ることができるので、そこはこれからも大切にしていきたいですね。
――オンラインツアーは、新型コロナウイルス感染症の流行という不測の事態から生まれたものなんですね。
栗原さん:そうですね。でも、もともと旅介のサービス自体は、「旅行が介護施設にやってくる」というキャッチコピーで始めていたんです。
(旅介公式HPより)
私たちが介入したとしても、実際に旅行へ行けるのは入居者全体の20%ほどなんです。身体的や金銭的な理由で、サービスがあっても利用できない方はたくさんいます。そのため、旅行会社として介護施設にサービスを提供するのであれば、「旅行に行く」だけでなく「旅行がやってくる」サービスを充実させようと考えていました。
外出が難しくなる前から、力士やアメフト選手に施設を訪問していただいたり、VRで地域の映像を見てもらったりしていたんです。もともとそのような活動をしていたので、外に出られず施設を訪問することも難しいなかで何かできないかと考えたとき、オンラインツアーが浮かびました。
形にこだわらない気軽な介護旅行の普及を目指して
――介護施設向け旅行サービスの提供を始めて良かったと思えることを教えてください。
栗原さん:競合がいないので、無理のない価格設定をしたうえでお客様に喜んでもらえるサービスを提供できるのは良いところです。旅行にお連れすると直接お客様の顔を見ることができますし、私たちが提供するサービスでこんなに喜んでもらえるんだと実感できます。
誰にでもできる仕事を取り合うのではなく、自分たちにしかできないことを提供して喜んでもらえるので、会社が存在している価値があると強く思えるのもやりがいにつながっていますね。
――御社の今後の展望について、お聞かせください。
栗原さん:長期的な計画になりますが、オンラインツアーを見ることができる介護施設向けのシステムを作ろうとしています。
オンラインツアーは、ユニバーサルツーリズムの良いモデルだと思うんです。車椅子で入れないところにもオンラインなら入ることができますし、移動が不要なので体も疲れません。さらに、同じ時間の同じツアーにみんなで一緒に参加できます。現地で自由に過ごすオフラインの旅行が1番良いとは思いますが、それが難しい方々にとって、オンラインツアーは画期的な形だと考えています。実際に、外へ出られない方がオンラインの参拝ツアーに参加して、涙を流しながらお参りされていたこともあります。
今は月に2回ほどオンラインツアーを提供していますが、システムを作って登録してもらうことで、月に何本もツアーを見られるようにしたいと思っています。さらに、落語など介護施設で楽しめるエンターテインメントもサブコンテンツとして提供したいんです。今は介護施設には無料でオンラインツアーを配信していて、システムはいずれ月額料金を設定しようと考えています。
私たちには、根本的に皆さんを旅行へお連れしたいという想いがあるんです。介護旅行がもっと普及して、全国の高齢者の方々が気軽に旅行へ行けるような世界を目指しています。しかし、さまざまな理由で旅行へ行けない方もいます。そのような方々も旅行を楽しめる可能性はオンラインツアーで広がったと思うので、これからも提供を続けていきたいです。
オフラインとオンラインの両方を推進し、さまざまな形で介護旅行を提供していく。それが、当社の目指すところです。
――ビジネスとして成り立つ仕組みを構築し、オフラインとオンラインの両方で感動的な介護旅行を提供。介護施設の入居者やスタッフの幸せを心から考えていることが、強く伝わってきました。
介護施設を対象とした旅行のニーズは今後も高まると考えられるので、御社の活動にも期待しています。本日はありがとうございました。
旅介オンラインでは、2020年12月18日(金)に新たなツアーを実施します!
「アキラ100%と行く 長崎・軍艦島上陸オンラインツアー」と題し、世界遺産である軍艦島への上陸を生中継します。
開催日時は12月18日(金)14:00-15:00、介護・医療施設の参加費は無料。
一般の方も、2,000円(税込み)でご参加いただけます。
お申し込みは、こちらから。
新型コロナウイルスの流行をきっかけとして、さまざまなサービスが誕生しました。自宅や施設で安全にオンライン観光を楽しめるサービスに関する情報はこちらにまとめています!