2021.04.08
廃用症候群とは?寝たきりになってしまう原因と予防方法を正しく理解しよう!
日本は長寿国といわれていますが、実は寝たきりになる高齢者は多いのです。
家族にはできるだけ長く寝たきりにならずに、自立した生活を送って欲しいものです。
この記事では、寝たきりになる原因と予防策、日常のことができなくなってしまったときに、どのような対策を講ずれば良いかを解説します。
早く対処すればするほど回復の可能性が望めます。迷わず対処することで将来が全く変わってしまうこともあるので、しっかりと理解し実践することが大切です。
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1.廃用症候群とは何?寝たきりになる原因を知る
廃用症候群をご存知でしょうか。寝たきりになることを防止するために、ぜひ知っておきたい事柄をまとめました。
廃用症候群とは?
廃用症候群とは病気やケガによる長期の安静や活動の低下により、二次的にあらわれる全身の障害のことをいいます*1。
例えば筋肉が衰える「筋萎縮」、骨がもろくなる「骨萎縮」、関節が動かしにくくなる「関節拘縮」、精神的に落ち込む「うつ状態」、床ずれといわれる皮膚の傷「褥瘡(じょくそう)」などが廃用症候群にあたります*2。
寝たきりになる原因
寝たきりになる原因は、身体と精神の両面から考える必要があります。
身体的要因
骨折などのケガ、またはがんや脳血管疾患などの病気で長 期間の入院または安静を求められますが、その間身体を動かさないので、筋肉が低下し骨も弱くなります。
高齢者は特に、けがや病気から回復するまでに時間がかかりますが、その後は筋肉や骨の衰えを回復するために、身体を再び動かさなければなりません。
それが高齢者にとってはかなりの負担になり、そのまま寝たきりになるケースがあります。
精神的要因
病気やけがはなくても高齢になると外に出る機会が減り、人と合って話しをするなど、脳への刺激になる活動が少なくなってしまいます。
そのため認知機能が低下し、さらに外に出る機会が減るようになるため、寝たきりの原因になります*3。
特に寝たきりになりやすいきっかけやタイミング
寝たきりになるまでは、少しずつ症状が出てくるというのではなく、寝たきりになるきっかけは突然やってくる可能性もあります。
高齢になると、足元がふらついて転倒することがあります。
女性は特に、骨がもろくなる傾向があるため、 転倒による骨折がきっかけで、寝たきりになる可能性もあります。
寝たきりになるきっかけや予防策については、後ほど解説します。
寝たきりになった後の平均寿命
日本は男女ともに平均寿命が長く、長寿国といわれていますが、同時に認知症・要介護・寝たきりの高齢者もたくさんいます。
長く生きたいと願うのが自然なことですが、他人の世話にならずに人生を楽しみたいと多くの人は考えると思います。
そこで平均寿命とは別に、元気で自立して過ごせる期間として「健康寿命」という指標が、WHO(World Health Organization世界保健機関)により提唱されました。
健康寿命は平均寿命から認知症や寝たきりなど、要介護の期間を差し引いたものです。
次のグラフは、平成13年から28年までの平均寿命と健康寿命を表したものです(図1)。
図1 出典:厚生労働省「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会 資料1−1」6p
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000166296_7.pdf
長寿国といわれる日本ですが、健康寿命となると平成28年では男性が72.14歳、女性が74.79歳です。
寝たきりになった後の平均寿命に関するデータはありませんが、平均寿命と健康寿命の差から、寝たきりなど自立困難な状態になっている期間がわかります。
上の線グラフの中で、平均寿命から健康寿命を差し引いた値(緑矢印線の差分)が自立困難な状態の期間です。
平成22年から男女ともに緩やかに改善しているようですが、それでも平成28年の寝たきりなど自立困難な状態にある期間は 男性が8.84年、女性が12.35年でした。
寝たきりを示す尺度(寝たきり度)の見方
ところで自立が困難な状態であることを、客観的に判断する基準「日常生活自立度判定基準」があり、「寝たきり度」ともいわれます。
以下は、日常生活自立度判定基準を示す表です(表1)。
生活自立 | ランクJ | 何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する。 |
準寝たきり | ランクA | 独内での生活はおおむね自立しているが、介助なしには、外出しない |
寝たきり | ランクB | 屋内での生活は何らかの介助を要し、日中も別途上での生活が主体であるが、座位を保つ |
ランクC | 一日中ベッド上で過ごし、排せつ、食事、着替えにおいて介助を要する |
日常生活自立度判定基準
表1 健康長寿ネット 公益財団法人 長寿科学振興財団「障害高齢者の日常生活自立度とは」より作成
https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-hoken/shougai-jiritsu.html
介護保険制度の要介護認定を受けるには、認定調査員による聞き取りと、主治医が被保険者の疾病や負傷の状態をまとめた主治医意見書が作成されます。
その際にこの日常生活自立度判定基準が用いられるのです。
2.寝たきりや廃用症候群で見られる症状
次に寝たきりや廃用症候群になると現れる症状について解説します。
拘縮など運動器障害
動かない期間が長くなると、筋肉や骨が新しく作られたり、分解されたりする働きが滞り、その結果筋肉がやせて、筋力が低下します。
骨も同様にやせ細り、もろくなります。関節は周りの皮膚・筋肉・靭帯などが弱くなることで、可動域が狭まります*4
むくみ(浮腫)などの循環器障害
身体を動かさない期間が長くなると、酸素運搬機能が低下して疲れやすくなり体力が低下します。
また足の筋肉が萎縮することで、静脈血が心臓に戻す力が弱くなり、血液が滞るためむくみや血栓が生じやすくなります*4。
嚥下機能低下などの摂食障害
寝たままの状態が続くと、副交感神経の働きが弱まるため交感神経が活発になり、消化器系にも影響を及ぼします。
腸の活動が弱まり体重減少・便秘を生じます。
寝た状態では消化管を食べ物が通過する時間が長くなることも影響して、食欲がなくなり嚥下機能も低下します*4。
うつなどの精神障害
寝た状態が続くと、脳への刺激が減るために脳の機能が低下します。
その結果、意欲・集中力が低下し、感情も鈍くなります。
同じ空間にいるために時間の感覚も鈍くなり、他者との関係も制限されるので、社会的に孤立することでうつ状態になりやすく、長期にわたると認知症に進む危険性が高まります*4。
褥瘡(床ずれ)
寝たきりになると、体圧が長時間ひとつの部位にかかります。
圧迫された部分に血液が十分いかなくなると、酸素や栄養分が行き渡らなくなる結果、皮膚が赤くただれたり傷ができたりします。
これが褥瘡で、床ずれともいわれます*5。
3.寝たきりと廃用症候群を予防する方法
高齢者は病気やケガの治療で必要な安静期間が長くなりがちなことに加え、衰えた身体を元に戻すのも時間がかかります。
そのため廃用症候群から寝たきりへと移行しやすいので、注意が必要です。
予防方法①寝るより座るを意識する
寝たきりになるかならないかのボーダーラインは「座れるか」または「食べられるか」といわれています。
座ることができれば、体幹と呼吸に必要な筋力がつきます。
座位を維持する訓練はバランス感覚を取り戻すためにも有効です*6。
予防方法②筋力を保持増進させる
座る・立つ・歩くなどの基本的な動作から、日常生活を送るために必要な動作を行うためには、筋力が必要です。寝たきりにならないためには、自立した生活に必要な動作ができるよう、筋力を保持・増進するトレーニングが必要になります*6。
予防方法③噛む力を維持させる
寝たきりになるかならないかは、自力で食べることができるかがボーダーラインになります。
そのため食べ物を噛む力を維持することがとても大事です。
経管栄養の期間が長くなると、噛む必要性がないため顎の筋力が弱ります。
噛む力を増進するためには、食品が柔らかすぎても硬すぎても効果はほとんどなく、最大筋力の35〜50%程度使うと、使った筋力に応じて筋力が増進されることがわかっています*7。
予防方法④精神的安定を保つ
長期にわたる療養生活で、他者との交流など外からの刺激が少なくなりがちで、精神的にも不健康な状態に陥ります。
この状態が続くと意欲低下やうつ、やがて認知症へと進む危険性があります。
筋力を高めるリハビリテーションは、医療スタッフや同様にリハビリテーションを受ける人たちとの関わりも生まれ、精神面でも良い作用を及ぼします。
4.寝たきりと廃用症候群の対処法、効果的なリハビリ
寝たきりになった場合の対処法は、基本的に寝たきり及び廃用症候群の予防策として行う内容と共通しています。
ここでは、寝たきりと廃用症候群の対処法と注意点、並びにリハビリの重要性について解説します。
対処法①身体を動かす機会を作る
筋力が低下した状態を改善するには、着替えや身支度などの日常の動作を自力で行なってもらうことが重要です。
筋力が衰えてしまうと、以前は当たり前にできていたことでも億劫になってしまうものなので、自分から身体を動かしてもらえるようなモチベーション作りをすると良いでしょう。
対処法②褥瘡の対処も重要
同じ姿勢で長時間過ごしていると、褥瘡が発生するリスクが高まるため、褥瘡の予防が必要になります。
対策としては大きく2つあり、身体が動かせる度合いにより対処法も異なります。
◆体位を変える
車椅子で過ごす時間が長い場合、椅子に座り続けることがないように、自力または介助して立位になるか、腰を浮かせて圧がかかっている部位を解放します。
寝たきりの場合は数時間おきに体位を変えます。
上向き、右向き、左向きなど、こまめに体位を変えることで、圧迫部位を解放し血流を促します。
介助することで座位ができるのであれば、時々座って腰の圧迫を取るようにします。
あまり長時間座ったままの姿勢にならないように、気をつけましょう。
褥瘡を見つけたら、できるだけ早く診察を受けて悪化を防ぎます。
◆クッションを利用する
体位を変えるときには、クッションを利用すると便利です。
寝たきりのため自力で身体を動かすことができない場合には、側臥のポジションを取るときに腕や足の下にクッションを置くと、身体が安定します。
仰臥のポジションを取るときには、肩甲骨から肘にかけてクッションを敷き、膝の下にもクッションを置いて膝を立てるようにすると身体の緊張がほぐれて安定します。
体位を変えるときには、クッションの位置だけではなく、シーツがシワになっていないことも確認します。
シーツがシワになっている上に寝ていると、体重がかかることで褥瘡になるリスクが高まります。
対処法③廃用症候群モデルに基づいたリハビリ
これまでリハビリは、衰えた身体の機能回復・機能の維持または悪化防止の目的で行われてきましたが、高齢者人口の増加により、寝たきりの問題も深刻になってきました。
そこで高齢になってもできるだけ長く自立した生活が送れるように、介護予防を目的としたリハビリも行われるようになりました。
それが廃用症候群モデルに基づいたリハビリです。
廃用症候群モデルのリハビリは、生活機能の低下がまだ軽度であるうちからリハビリを開始します。
リハビリを断続的に行うことで、生活に必要な身体的機能の低下を遅らせることが、廃用症候群モデルのリハビリの狙いなのです*8。
➡高齢者が受けるリハビリプログラムについて知る
対処法④リハビリ特化型の施設へ入居
自立した生活が困難になった場合、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門家が在籍しているリハビリ特化型の介護施設に入居すると、専門性の高いリハビリを受けることができます。
実際にリハビリ特化型の介護施設に入居したことのある高齢者のうち、日常生活に復帰できた人が多くいらっしゃいます。
5.まとめ
廃用症候群から寝たきりになる原因・過程をご理解いただけたと思います。
大事なことは早いうちからのリハビリで、日常生活に必要な身体の機能の衰えを取り戻すことです。
リハビリは家族の理解と精神的サポートも欠かせません。
焦らず継続できる環境づくりのヒントにしてください。
ほかの家庭ではどんな風に介護を行っているのか、気になることもあるかと思います。
そんなときに役立つのが介護ブログです。
役立つ情報を収集したり、人々とつながったり、感情を共有することができるなど、活用方法はさまざま。
介護の悩み事やもやもやする気持ちを解消するためにも有効な方法です。
以下の記事で、家族介護をテーマにした介護ブログをご紹介しています。
ぜひご参考にしてみてください。
*1: 廃用症候群(1p 東京都福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/sonota/riha_iryo/kyougi01/rehabiri24.files/siryou242.pdf
*2: 廃用症候群(健康長寿ネット 公益財団法人 長寿科学振興財団)
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/haiyo-shokogun.html
*3: 認知機能(e-ヘルスネット 厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-043.html
*4: 廃用症候群 p1-3(東京福祉保健局)
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/sonota/riha_iryo/kyougi01/rehabiri24.files/siryou242.pdf
*5: 褥瘡について(一般社団法人 日本褥瘡学会)
http://www.jspu.org/jpn/patient/about.html#:~:text=%E8%A4%A5%E7%98%A1%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81%E5%AF%9D%E3%81%9F%E3%81%8D%E3%82%8A%E3%81%AA%E3%81%A9,%E5%BA%8A%E3%81%9A%E3%82%8C%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%84%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
*6: 総説 全疾患を対象とするリハビリテーションの概念-疾患に関わらない早期導入の有効性-(四国医誌69巻3,4号 123~128 August25, 2013)徳島医学会
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/files/public/10/109624/20170929143344335954/LID201606155005.pdf
*7: 咬合力と食事(日本神経摂食嚥下・栄養学会)
https://www.jsdnnm.com/column/%E5%92%AC%E5%90%88%E5%8A%9B%E3%81%A8%E9%A3%9F%E4%BA%8B%EF%BC%88201309%EF%BC%89/
*8: (2)「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」構成(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/kaigi/040219/sankou28.html