2021.04.23
プライドが高い言動が出てしまう認知症のかたへの5つの対応。プライドの高さには個人差が出る原因とは?
できないことが増えていってしまう認知症高齢者の介助をするときに、どうサポートをすればよいかと頭を抱えていませんか?
プライドの高い言動が出てしまう認知症のかたをケアするには、コツがあります。
行動の原因を知ることで、双方のストレスを減らせます。
ここでは、5つの対応のコツと本人に寄り添ったコミュニケーション法を紹介します。
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1.「プライドの高さ」は認知症のうち行動心理症状が原因
まずは、認知症のかたがどうしてプライドが高くなってしまうことがあるのか、原因を知ることが大切です。
認知症を理解し、原因を知ることで効果的な対応をとることができます。
まずは認知症について知ろう
認知症と聞いて、あなたはどのような症状が思い浮かびますか?
厚生労働省によると、認知症の症状は、「さまざまな原因で脳の細胞が死ぬ、または働きが悪くなることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、意識障害はないものの社会生活や対人関係に支障が出ている状態(およそ6か月以上継続)」をいいます*1。
症状には、下記図1のように、中核症状と行動心理症状があります。
厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」をもとに作図
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000519620.pdf
行動心理症状とは
認知症の症状としては、主に2つの症状が出ます。1つが中核症状で、もう1つが行動心理症状です。
中核症状とは、その名前の通り、認知症のコアな症状のことです。
今日が何日なのかがわからなくなったり、ひとの名前が思い出せなくなったりなどの症状が出ます。
これらは程度の差はありますが、認知症の進行によって多くのひとが経験する症状でもあります。
もう1つの行動心理症状は、そのひとの生活習慣や性格などによって個人差があります。
それまでおくってきた人生などが影響して、出る症状と出ない症状があるのです。
行動心理症状の出方としては、あるひとはそわそわと家の中を動き回る「せん妄」や泥棒がいるように感じる「妄想」などが出ます。別のひとは見えないものが見える「幻覚」や気持ちが落ち込む「抑うつ」が出ます。
つまり、中核症状やこれまで送ってきた人生経験、生活や周囲の環境などによって、副次的に現れるのが行動心理症状なのです。
プライドの高さと認知症の関係性
認知症の症状に最初に気づくのは本人。
いわれても思い出せないといったことが多くなると、認知症になったのではないかと、本人は不安になっています*2。
考えていただきたいのですが、これまで通りに着替えをしようとしたのに、着替えのやり方が思い出せない、いきなり着脱ができなくなると、強い不安を感じませんか。
あるいは目の前に置いたはずのものが急に消えれば、盗まれたのでは?泥棒が入ったのではないか?と感じる方もいることでしょう。
それらの言動は行動心理症状の抑うつや妄想として出ます。
介助者には行動心理症状が見えるかもしれません。
しかし本人なりの理由や心境もあるのです。
本人からすれば、今まで何も考えずにできた着替えや料理などの行動が、いきなりできなくなってきた焦り、認知症になった悲しみを素直に認めるのは勇気がいります。
ときには不安や恐怖が高まりすぎて、強めの言葉が出てしまうこともあるでしょう。
心を守るために、プライドが高いかのような言動を取ってしまうのです。
プライドの高さとは、自衛反応なのです。
別の言い方をすれば、自分が認知症だと認めたくない本人の意思の現れともいえるでしょう。
2.プライドが高い認知症のかたへの対応と5つポイント
認知症介護では、つい目に見える行動から注意したくなる部分もあるかもしれません。
たとえば深夜に徘徊している認知症のかたを見つけた場合、「夜は家から出ないで」と注意したくなることもあるでしょう。
しかし、本人が「家に帰るためだ」と主張したら、どのように感じますか。
介助者としては噓を言っているように感じるかもしれません。
しかし、認知症が進んで、自宅の識別ができていないケースかもしれません。
あるいは認知症が進行し始めたことをきっかけに、住み慣れた家から息子夫婦のもとで暮らし始めた場合には、「自宅が替わった」という認識がないかもしれません。
認知症介護は困難か── 介護職員の行う感情労働に焦点をあてて──によると、認知症介護では、
「本人の視点から、「なぜそのような行動を示すのか」、「その背景にある精神的苦痛をキャッチしその痛みに寄り添うこと」など、高齢者の世界観に沿った個別対応を取ることが大切です。」
と記されています*3。
なぜなら認知症は必ずしも脳の病気ではなく、環境や関わり方を工夫することで、症状が解決したり落ち着いたりするからです。
以上をふまえ、プライドが高い認知症の方への対応方法を5つご紹介します。
①発言を否定せず、話を聞いてあげる
発言を否定すると自尊心を傷つけることになるので注意しましょう。
正論を伝えても理解が難しい場合があります。
先ほどの深夜徘徊も「ここが我が家でしょ?何を言ってるの?」と、注意してしまえば本人は深く傷つくことでしょう。
認知症になると、古い記憶は保たれやすいですが、新しい記憶は忘れやすい傾向があります。
すでに新しい家に越してから数年たっていても、認知症の進行によって新しい記憶だけが抜けてしまい、もとの家を住まいと思っている可能性が十分にあります。
はたまた、「自分の発言を否定された」「注意された」「もうこの人とは話したくない」というネガティブな印象が記憶に残ってしまい、行動心理症状を助長して悪影響に陥ってしまうこともあります。
先ほどの例なら、「この人に言っても理解してくれない。自力で帰らなきゃ」と思いこみ、本人の記憶にある家に帰ろうと、徘徊の頻度が増すこともあるでしょう。
とっさに言いたくなる気持ちもあるかもしれませんが、その感情をいったん脇に置きましょう。
本人の発言を否定せず、話を聞いてあげることが認知症介護においては、重要なのです。
②行動を受け入れる
発言だけではなく、行動も同様です。
例えば、異食(食べられないものを食べる行為)などを発見した際は、つい注意をしたくなるかもしれません。
本人を叱責したくなる気持ちを抑えて、「お腹がすいたのかな」「食べたいものがあるのかな」など、安心できる声掛けをしましょう。
そうすることで、孤独感を感じさせず、安心できる環境に身をおいていることを感じてもらえます。
③本人が落ち着ける場所に移動する
「何をやっているの‼」などと注意を受ければ、本人はプライドや自尊心が傷つけられたと感じ、なかなか興奮状態から抜け出せないときがあります。
そんなときは、本人が落ち着ける場所に移動して、心をやすめてもらいましょう。
本人がストレスを感じるものごとを除去することや、太陽の光を浴びるなどして体内のリズムを整えることが大切です。
④伝え方を変えてみる
認知症だから仕方がない、伝わらないとあきらめるのではなく、相手の心を理解し、どんな言い方をすると相手に伝わるか工夫をすることも大切です。
認知症だからなにもできない、わからないのではなく、一連の動作の中でできないことが発生しているのです。
何ができていないかを理解してその部分に対して助言やアプローチを考えることが大切です。
「プライドが高いから、こういう言い方がいいのでは」と試行錯誤したり、あるいは、別の人に伝えてもらったり、コミュニケーション方法を創意工夫してみるのもよいですね。
⑤少しの間距離をおいてみる
本人の気持ちを受容することがどれほど重要だったとしても、介助者のメンタルが耐えられないこともあることでしょう。
そういうときは、本人も含めてお互いの感情の昂りを鎮静化させるためにも、その場から離れて距離をおくことが大切です。
物理的な距離感が感情をクールダウンさせてくれます。
落ち着きを取り戻したタイミングで、状況をリセットし、再びコミュニケーションをとってみるのもひとつの策です。
3.プライドが高い認知症のかたに特におすすめのケアとセラピー
認知症に関する研究がすすみ、さまざまな認知症緩和ケアの効果が報告されていています。
ここでは特におすすめのセラピーを2つ、お伝えします。
タクティールケア
タクティールケアとは、自身の手で相手の手足や背中にやさしく触れる、スウェーデン発症のタッチケア法のことです。
やさしく触れることで、ホッとする安心感を与えられて、「痛み緩和」「ストレス・不安の軽減」などの効果に期待できます。
なぜなら触れることでオキシトシンという幸せホルモンが分泌されるからです。
認知症の本人も、不安や孤独感と闘っています。
やさしく触れることで不安が和らいで、そわそわ動き回る行動が改善されたり、攻撃的な行動が減ってきたりなど、認知症緩和への効果にも役立ちます。
➡タクティールケアについて詳しく知る
ドッグセラピー
ドッグセラピーとは、「アニマルセラピー」と呼ばれる動物介在療法のことです。
動物と触れ合うことを通じて、ストレスや不安が和らいだり、自発的な行動が増えたりなどの効果に期待ができます。
認知症になると、着替えや食事などでケアされることも増えがちです。
しかしドッグセラピーを通じて、積極的な行動が促されやすくなります。
「高齢者に対する犬による動物介在療法の有効性」の実験によれば、ドッグセラピーを通じて活動量が優位に上昇したことが明らかになっています(図2)。
図2 アクティブグラフからみるActivity Countsの比例 川崎医療福祉学会誌「認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用性」太陽好子ら より作成
http://www.kawasaki-m.ac.jp/soc/mw/journal/jp/2008-j17-2/10_futoyu.pdf
これらからわかることは、訓練された犬をなでたり、抱っこしたりなどのふれあいをした高齢者(実験群)は、「活動・動作」「表情」「発言」などが施行前と比べて、上昇したということです。
また、施行後も施行前と比べると、高水準となっています。ドッグセラピーは終わった後にすぐに効果がなくなるのではなく、効果が持続するといえるでしょう。
なお、実験群とは実際にドッグセラピーを受けたひとを指し、コントロール群とは実際に受けていないひとを指します。
➡ドッグセラピーについて詳しく知る
4.まとめ
これまでと違ってイライラすることが増えると、どう接したらいいかと戸惑うこともあるかもしれません。
しかし、急にこれまで通りに行動できなくなった葛藤があることを知ることで、本人の気持ちに寄り添いやすくなるものです。
注意をするよりも、発言や行動を受け入れるように工夫してみましょう。
けれど、介助者にもストレスが付きまといがちです。
家族が疲労困憊にならないためにも、介護でたまってしまいがちなストレスとの付き合い方を知って、対策を打ちましょう。
*1もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン,政府広報オンライン2020年5月19日更新 2021年4月13日閲覧
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html
*2認知症の人と接するときの心がまえ 認知症を理解する,厚生労働省,2021年4月19日閲覧
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/a04.html
*3認知症介護は困難か── 介護職員の行う感情労働に焦点をあてて──二木泉 - 国際基督教大学学報. II-B, 社会科学ジャーナル, 2010
*4認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用性 太陽好子・小林春男・永瀬仁美・生長豊健,川崎医療福祉学会誌, 2008
http://www.kawasaki-m.ac.jp/soc/mw/journal/jp/2008-j17-2/10_futoyu.pdf