2021.06.29
誤嚥(ごえん)とは?その予防法といざというときの対処方法
国内外の有名人にまつわるニュースで話題となり、誤嚥や誤嚥性肺炎という言葉を見聞きする機会が増えました。
ただ、誤飲と混同していたり、誤嚥=必ず誤嚥性肺炎になると勘違いをしているかたも、実は多いのではないでしょうか。
そこで、今回は誤嚥の意味やメカニズム、予防法と対処法についてご紹介します。
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誤嚥とは?
日本食道気管科学会のサイトによれば、「食物などが、なんらかの理由で、誤って喉頭と気管に入ってしまう状態」と記載されています。
誤飲とは違うもの?
誤飲と誤嚥は混同されやすいですが、別物。
誤飲は、飲み込んではいけないものを間違えて飲んでしまうこと。
例えば、入れ歯やボタン電池など本来飲み込むべきでないものを誤って飲んでしまった場合などのことです。
対する誤嚥は、異物が気道に入ってしまうこと。
通常は気道に入るべき唾液や口にした飲食物が、誤って気道に入ってしまうことをいいます。
誤嚥のリスクとは?
誤嚥をそのまま放置してしまうと、さまざまなリスクにつながり非常に危険です。
短期的視点
- ・「窒息」 高齢者の場合、飲み込む力が低下しているため、飲食物が気道をふさいでしまったままになっていた場合、窒息で死亡する危険性が高まります。
- ・「肺炎」 誤嚥によって異物が肺に入ってしまい、それを足がかりに重症の肺炎につながることがあります。
長期的視点
- ・「脱水」 水分を取りたがらなくなる傾向が強くなり、水分摂取量が不足しがちとなります。
- ・「低栄養」 飲み込みやすいものばかり食べることで栄養がかたよりがちになります。
日本人の死因第7位が誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは、誤嚥を起こしたことにより肺に細菌が入り、肺に炎症が起きる肺感染症のひとつです。
誤嚥性肺炎が原因による死亡者数は年間4万354人(「人口動態統計月報年計(概数)」・2019年/厚生労働省⦆にも上ります。
性別や年代別でみると、80歳以上の男性と85歳以上の女性から徐々に増えており、高齢者にとって身近な病気であることがわかります。
参照:日本気管食道科学会
厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
第54回日本老年医学会学術集会記録 「1.超高齢化社会における誤嚥性肺炎の現状」大類 孝
誤嚥が発生する原因
誤嚥のメカニズムを調べると、今まで病気とは無縁だった人にも起こる危険性があることがわかります。
嚥下機能(えんげきのう)といわれる飲み込む機能が落ちることにより、誤嚥は発症しやすくなります。
飲み込む筋力は40代から徐々に衰えがはじまるので早いうちから対策を考える必要があります。
病気につながる誤嚥、その症状は?
誤嚥は死亡リスクもある非常に怖いものであると同時に、誤嚥性肺炎やほかの病気に罹患(りかん)する可能性も否定できないものです。
窒息
誤嚥が起きた場合、まず心配になるのが、窒息です。窒息してしまった場合、窒息死に至る時間はどのくらいなのでしょう?
気道がふさがっている状態が5分以内での死亡率は6%。
そして、気道がふさがった状態が6~10分になると、死亡もしくは意識不明状態が42%まで一気に急上昇するという調査結果があります。(日本医科大病院など8施設データ)
5分以内で気道を確保できるかが大事ですので対応はまさに時間との勝負です。
また、誤嚥により窒息を起こして、内臓などに損傷を負う可能性もあります。
データ情報・参照:https://www.asahi.com/articles/ASMBZ52H1MBZULBJ009.html
嚥下障害
嚥下障害とは、飲み込む力が弱くなっている状態です。
嚥下障害が慢性的に起きていることも考えられます。
食事をしていて、むせることが多いと感じたら要注意。
嚥下機能が低下している可能性も疑いましょう。
嚥下障害については、こちらの記事も参照ください。
➡嚥下障害の関係性と食事がうまく飲み込めない原因について知る
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎とは「雑菌を含む唾液などの口腔・ 咽頭内容物,食物,まれに胃内容物を気道内に吸引する ことで,結果として生じる肺炎」のこと。
70才以上の肺炎の70%が誤嚥性肺炎といわれています。
誤嚥性肺炎が起きている際の代表的な症状として、発熱、喉・胸・肺などの痛みや、嘔吐、呼吸音の異変があげられます。
このような症状に気が付いたら、すぐに医療機関へ相談しましょう。
第54回日本老年医学会学術集会記録 「1.超高齢化社会における誤嚥性肺炎の現状」大類 孝
神経や筋肉の病気の初期症状の可能性も
誤嚥が起きた原因のなかには、喉頭がんや食道がんが関係する可能性も否定しきれません。
喉の腫瘍などが邪魔をしたり、喉の筋肉に影響のある病気によって、ものを飲み込みにくくなっている状況も考えられます。
飲み込む力が弱くなった方が誤嚥を予防するには
誤嚥はポイントをおさえておくと、日頃からちょっとした心がけをするだけでも予防につながります。
ご紹介するのは簡単なものばかりです。
なにか改めて購入する必要もありませんので、ぜひ気軽に試してみてください。
食事の取り方、食事介助の際の姿勢に注意
飲み込みやすさは人それぞれで嚥下機能によって異なります。
例えばご飯の固さなども、ご本人に確認しながら調整するのがいいと思います。
嚥下機能が落ちている場合、食事や汁物の形状はサラサラよりも「とろみ」を付けたほうが良いといわれています。
食材の特性で、パサパサとした水分の少ないものには餡掛けのようなとろみをつけたり、固くて嚙み切れないものは軟らかくしたり細かくするといった、ひと工夫を加えるとグンと食べやすくなります。
また食事は、座って摂るほうが誤嚥しにくくなります。
テレビなどは消して食事に集中しやすい環境を。
食事介助の際は、食事の適切な姿勢を保つため、介助者も座って行うなど同じ目線で行うのがポイントです。
側臥位(そくがい:横向きで寝た姿勢)も、誤嚥しにくい姿勢といわれています。
座っての食事が難しい場合には検討してみると良いでしょう。
口腔のケア マッサージやトレーニング
嚥下機能が弱くなっても、口の中を清潔にすると肺炎のリスクを減らすことができるので、口腔内を清潔に保つよう心がけましょう。
起床後、就寝前、食事後の歯磨きはもちろん、口の中の異変や虫歯を見つけたら「まだ大丈夫」と我慢せずに、できるだけ早く診察を受けましょう。
マッサージやトレーニングといっても構える必要はありません。
舌を出すことや、発声、歌うこと、あくびなど日頃なにげなく行なっていることや楽しんでいる趣味がトレーニングになっていることもあります。
筋力低下前にできる 誤嚥予防体操
出典:浦長瀬 昌宏「のどを鍛えて誤嚥性肺炎を防ぐ! 嚥下トレーニング 1日5分で「飲み込み力」に差がつく!」
飲み込む力、筋力があまり弱ってしまっていない状態の方なら、この嚥下トレーニングで飲みこむ時に使う筋肉を効果的に鍛えることができます。
一般社団法人嚥下トレーニング協会のYoutubeチャンネルに動画を公開しています。
いざというときの対処方法は?
いつ起きるか本当にわかりません。万が一窒息状態になってしまった時のため、対処法を確認しておくと安心です。
強く咳をする
咳ができる状態のときは、まだ異物が完全には詰まってはいない状態と考えられます。
自力で取り除くことができる可能性も高いです。
焦らずに落ち着いて「できるだけ強く咳をする」ように指示をしましょう。
指でかき出す、吸引
「異物が喉に詰まっているのが見える」「異物が口の中にたまっているのがわかる」という状態のときは「指でかき出す」のが即座にできる方法。
「正面から」「義歯は外してから」「ガーゼやハンカチを指に巻いて」の3つのポイントをおさえておきましょう。
タッピング 背部叩打法
まだ異物が動く(固まったり詰まったりしていない)状態のときにはタッピングや背部叩打法がおすすめです。
- ・タッピング
手のひらをお椀の形の様に丸くして、背部や前胸部にリズミカルにトントントンと衝撃を与えます。
- ・背部叩打法
横になるか座った状態になってもらい、左右の肩甲骨の間を、手のひらの付け根で叩きます。
- ・ハイムリッヒ法
①後ろから両腕をお腹に回し抱えこむ
②片手で握りこぶしを作り、みぞおちの下に当てる
③もう一方の手で握りこぶしをつかみ、上方に向かって押すように突き上げる
意識がないならすぐ救急車を
誤嚥が起きて、異物を取り除くことができた/できないに関わらず、意識のない場合は、早急に救急車を手配します。
意識がしっかりとしており、すぐに救急車を呼ぶ必要がなかった場合でも、異物がのどに残っているようなら早めに病院へ。
診察を受ける場合は、気管食道科や耳鼻咽喉科など、喉の診療を専門とする診療科の受診が適切です。
病院によっては、神経内科やリハビリテーション科で誤嚥の検査を行う場合もあります。
誤嚥の危険性を理解して、事故をなくそう
誤嚥は、私たちが生命維持のために欠かせない、1日に3回以上もする食事に伴い起こるケースが多いものです。交通事故などとも違い、自宅など身近で、通常なら一番安心できるといえる場所が事故現場に急変する危険性があります。危険性を正しく理解し、誤嚥による悲しい事故をなくしましょう。