2021.08.19
激しくなった親の物忘れ。セルフチェックリストを活用して認知症早期発見に努めよう。
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「そういえば親の物忘れが前よりひどくなった気がする」「さっきと同じことを何度も聞いてくる」
など、認知症ではないかと心配になる言動が増えた家族の方はいないでしょうか?
今回は「親の物忘れが激しい」「もしかしたら認知症かも?」とご心配の方に向けて、そもそも認知症とはどんなものか、加齢による物忘れと認知症の違い、認知症の前段階である軽度認知機能障害とは何かを解説します。
気をつけるべき症状、認知症かどうかの簡単なチェックポイントや適切な受診のタイミングについてもご紹介しますので、認知症の進行を少しでも遅らせるように、ぜひ早めに手をうちましょう。
1.親の物忘れが激しい…もしかして認知症?
親の物忘れが激しくなりつつあり、認知症なのかもしれない。
いちど認知症の特徴をここで簡単におさらいしましょう。
認知症とは、病気の名前ではなく症状の名前です。
厚生労働省によると「いろいろな原因で脳の細胞がしんでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態がおよそ6ヶ月以上継続すること」と定義されています。
認知症の原因となる病気はたくさんあります。
<認知症の原因となる病気一覧>
- 甲状腺機能低下
- ビタミンB12低下症などの内科的な病気
- HIV感染やプリオン病などの感染症
- パーキンソン病などの神経疾患
- 統合失調症やうつ病などの精神疾患
さらにアルコールや薬剤などの影響で認知機能が低下することもよく知られています。
この中には適切な治療をすれば治る病気も含まれるため、早い段階で一度物忘れ外来など専門医へ受診することが望ましいです。
物忘れと認知症の違い
老化による物忘れ (想起障害) |
認知症による物忘れ (記憶障害) |
体験の一部を忘れる 例:食事をとったことは覚えているが、メニューは思い出せない。 |
体験そのものを忘れる 例:食事をとったこと自体を思い出せず、ご飯を催促してしまう。 |
忘れたことを自覚している 例:買い物から帰った際に、買い忘れに気づく。 |
忘れたことを自覚できない 例:買い物に行ったこと自体を忘れ、また買い物へ行く。 |
生活に支障はない 例:日付や曜日、場所などを間違える。 道に迷うことはあるが、目的日にはたどり着く。 |
生活に支障がある 例:日付や曜日、場所などが分からなくなる。 自宅に帰ることができない。 |
探し物に対して 自分で努力して見つけようとする。 |
探し物に対して 誰かが取ったなどと、他人のせいにすることがある。 |
症状の進行 きわめて徐々にしか進行しない。 |
症状の進行 進行する。 |
政府広報オンライン 暮らしに役立つ情報 もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン
加齢による単なる物忘れを「生理的健忘(けんぼう)」と言います。
これは病気ではなく、歳を取ると誰しも普通にみられるものです。
生理的健忘と認知症による病的な物忘れの最も大きな違いは、「体験の一部分を忘れるか?それとも体験全体を忘れてしまうか?」という点です。
また生理的健忘の場合は「忘れたことを覚えている」のに対し、認知症による物忘れは「物忘れをしたこと自体を忘れる」という特徴があります。
例えば、「お昼ご飯に何を食べたか、献立を思い出せない」のは、加齢による単なる物忘れの中でも比較的よくあるものの一つです。
この場合、お昼ご飯を食べたことはきちんと覚えており、「献立」という一部分だけを忘れているのが特徴です。
ところが認知症による病的な物忘れの場合は、お昼ご飯を食べたこと自体を忘れてしまうのです。
軽度認知障害とは?
最近、正常と認知症の中間である軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)が注目されています。
MCIとは、「認知症ではないものの、年齢相応よりも認知機能が低下している人」のことを言います。
具体的には、「年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない物忘れがあり、本人や家族から物忘れの訴えがあるものの、日常生活に支障がない状態のこと」を言います。
日本の65歳以上の高齢者のうちおよそ400万人以上、割合にしておよそ4人に1人がMCIであると推計されています。
MCIが注目されている理由の一つが、認知症への進行率の高さです。
年間で10〜30%がMCIから認知症に進行します。
ちなみに正常な方の認知症発症率は年1〜2%と言われており、MCIの認知症への進行率が非常に高いことがわかります。
また適切な対処をとればMCIから正常の状態に回復する人もかなり多いため、できるだけ早く診断をつけて治療やリハビリを開始することが重要です。
2.ひどい物忘れ?認知症?こんな症状が見られたら要注意
病的な物忘れの他にも、認知症を強く疑う症状がいくつかあります。
ここでは、認知症を強く疑う症状を簡単にまとめました。
同じことを繰り返して言う
認知症の中核症状の一つである「記憶障害」のうち、特に「近時記憶障害」を疑う症状です。
直前に起こったことを覚えていられないために起こります。
食事をとったことを忘れてしまう
これも「記憶障害」の一つです。
直前に食事をしたこと自体を忘れるため、食べた直後に食事を要求することもよくあります。
頼みごとをしても用件が通じない
理解力・判断力の低下を疑う症状です。
情報処理能力も落ちるため、聞いたことをその場で理解して適切に判断することが難しくなります。
通いなれた場所でも迷ってしまう
認知症の中核症状の一つである「見当識(けんとうしき)障害」を疑う症状です。
見当識とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握する能力のことです。
見当識障害があると、時間や場所の関係がわからなくなります。
重度の見当識障害の場合は、家族との関係も認識できなくなったり、自宅の中のトイレや風呂などの場所がわからなくなったりします。
料理や買い物に手間がかかっている
認知症の中核症状の一つである「実行機能障害」を疑う症状です。
実行機能障害があると、計画や段取りを立てて行動することができなくなります。
買い物で同じものを続けて購入したり、家の片付けができなくなります。
特に料理ができなくなるのは重要なサインです。
料理は複数の工程を同時に順序立てて進める必要があり、高い実行機能が要求される行動です。
これまで手の込んだ料理を作っていたのにいつの間にか簡単なメニューしか作れなくなっていた場合は、実行機能障害を強く疑います。
ニュースなど回りの出来事に関心がない
意欲の低下やうつ状態は、認知症の「行動・心理症状」の一つです。
怒りっぽい・疑い深い・感情の起伏が激しくなった
認知症になると状況を認識する能力が低下し、感情の制御ができなくなり場にそぐわない感情表現をすることがあります。
またもともとの性格や環境などの要素が絡み合って、不安や焦り、怒りっぽさといった行動・心理面の症状が現れることがあります。
3.認知症早期発見セルフチェックシート
Q.1 | しまい忘れ置き忘れが増え、 いつも何かを探している |
Q.2 | 財布・通帳・電話などを 盗まれたと人を疑う |
Q.3 | 料理・片付け・計算・運転 などのミスが目立つ |
Q.4 | テレビ番組の内容が 理解できなくなっている |
Q.5 | 通いなれた道でも 迷うことがある |
Q.6 | 些細なことで怒る、 以前に比べ頑固になった |
Q.7 | このごろ様子がおかしい と周囲の人から言われた |
Q.8 | 外出時、持ち物を 何度も確かめる |
Q.9 | 下着を着替えず、 身だしなみに構わなくなる |
Q.10 | 何をするにも億劫で、 趣味にも興味を示さない |
参考:公益財団法人認知症の人と家族の会 家族がつくった「認知症」早期発見のめやす
認知症を早く見つけるためには、セルフチェックシートを利用するのがおすすめです。
例に挙げているのは認知症の人の家族から見た「認知症ではないか」と思われる言動をまとめたものです。
当てはまる症状があれば、物忘れ外来の受診を検討しましょう。
自分や家族の物忘れが進んでいないか、また病的な物忘れのサインが出ていないかどうかを定期的にチェックすると良いでしょう。
4.認知症が疑われる際はまず物忘れ外来へ
「認知症かな?」と思ったら、早めに専門医を受診しましょう。
早い段階で認知症もしくは軽度認知障害の診断がつけば、治る病気による認知症の場合は速やかに治療に入ることで認知症が改善する可能性があります。
治らない病気による認知症でも、薬やリハビリなどで症状の進行を少しでも遅らせることができる場合も多く、早期受診のメリットはとても大きいです。
受診にあたって必要な情報
物忘れ外来を受診するにあたって、以下の情報を事前に準備しておくと、スムーズな受診と診断に役立ちます。
わかる範囲で構いませんので、受診の前にまとめておくと良いでしょう。
<CHECK>
- 気になる症状はどのようなもので、いつからみられるか
- 現在治療中の病気とかかりつけの病院
- おくすり手帳
現在内服している薬の種類と、処方した病院
- 既往歴(きおうれき)
これまでにかかったことがある病気、受けたことがある手術など
- 家族歴
血の繋がった親子・兄弟姉妹がこれまでにかかった病気
(認知症の身内がいるかどうか、脳梗塞・心筋梗塞・がんなど、高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病など)
- 飲酒・喫煙などの状況
何歳から飲酒・喫煙をしているか、1日どのくらいの量を飲んだり吸ったりしているか、休肝日はあるかなど
困った際は地域包括支援センターへ相談
「もしかしたら認知症かも?」と思ったら、まずは地域包括支援センターへ連絡してみましょう。
地域包括支援センターは、高齢者をはじめ地域の住民の健康及び生活のために必要な援助を行う施設です。
市町村が設置主体となり、保健師や社会福祉士、主任介護支援専門員などの専門家を配置し、住民からの相談に応じて行政機関や保健所など必要なサービスへの橋渡しを行います。
地域の介護情報に詳しい地域包括支援センターは、その地域の独居高齢者の情報を持っていることもあります。
情報収集のついでに、今後の不安について相談してみることもお勧めします。
5.まとめ
認知症の可能性が高い場合は、早めの対処が大切です。
認知症、物忘れ、いずれの症状においてもリハビリを行うことは、認知機能を維持し、場合によっては進行を遅らせることに効果的です。
認知症については以下の記事もご参考にしてみてください。そのほか、認知症の進行や難しい対応方法のコツなどについても理解を深めたい方は、認知症特集記事ページをご覧ください。