2021.09.27
文句ばかり言ってしまう認知症の方への対応方法とは?
認知症の方を介護していて、ときに文句を言われたり、怒りや暴言を投げつけられたりしてストレスを感じるケースは少なくありません。
「これだけ一生懸命介護をしているのに、どうして文句ばかり言われるのだろう」と辛い気持ちを抱えたまま悩んでいる方もいます。
認知症の症状が進行すると、感情をコントロールできず怒りっぽくなることがあります。
文句ばかり言う、すぐイライラするという症状が現れたとき、できるだけ冷静に適切な対応をしていかなければなりません。
文句ばかり言ってイライラしてくる認知症症状への対応方法をお伝えします。
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1.文句ばかり言ってしまうのは認知症が原因?
認知症の介護をしている方から、こんな悩みを聞くことがあります。
一人暮らしをしているのですが、薬の飲み忘れや間食ばかり食べてしまっているようで、健康面でも心配です。
注意するとすぐにイライラして話ができません。
また、毎日のように「泥棒が入って財布を盗っていった」と時間を気にせず電話してきます。
母が警察に直接電話をして、家族が呼び出されたこともしばしばです。
きちんと順序立てて説明しようとしても、「私の気持ちをわかってくれない」とすぐに泣きわめいてしまいます。
身体面はまだ元気で一人暮らしもできると思うのですが、会うたびにケンカばかり。
母の家まではそれほど遠くはないのですが、足が遠のくようになりました。
認知症の症状がひどくなるまではできるだけ母の希望通り、住み慣れた家で一人暮らしをさせたい。
でも、このままでは私たち家族だけではなく、ご近所などへも迷惑がかかりそうで心配です。
こうした認知症の親ヘはどう接すればよいのでしょうか。
認知症の方は、なぜ感情的になりやすいのでしょうか。
まず、認知症と感情との関係を知っておきましょう。
文句ばかり言ってしまうのは認知症の症状によるもの
認知症の症状のひとつとして怒りっぽくなる、今までできていたことができなくなってイライラしてしまう、といったものがあります。
認知症は脳細胞がダメージを受けて、その働きが衰えて症状が進行するため、感情コントロールが難しくなるのです。
文句ばかり言ってしまうのも、本当はどこまで本人が怒りの感情を持っているかはわかりません。
あれだけ怒りをぶつけていたかと思ったら、しばらくすると急に大人しくなってそのこと自体を忘れている、という場合も多いからです。
したがって、認知症を発症する前には考えられなかった、思いがけない怒りの出し方をされることもあるでしょう。
今までできていたことが認知症が原因でできなくなってしまったり、認知症は脳の働きが関係する病気であるため感情コントロールが効きにくく、その結果イライラが募り、文句ばかり言ってしまう。
文句ばかり言ってしまうのは認知症の症状によるものなので、仕方がありません。
2.対応方法を知るために、まず認知症の症状を理解しよう
認知症の症状によって文句ばかり言う、イライラするといったときにうまく対処するには、まず、認知症の症状を把握することが大切です。
中核症状
中核症状とは、認知症の原因が直接引き金となって見られる症状です。
過去の記憶に影響がでる「記憶障害」、時間や場所の感覚が失われていく「見当識障害」、それまでできていた動作や言葉づかいができなくなる「理解判断力の障害」、そして計画的に物事を進めたり、論理的な判断ができなくなる「実行機能障害障害」があります。
たとえば、記憶障害が進んで注意している相手が自分の子どもだとわからなくなっていたら、赤の他人が自分の行動をあれこれ注意してくると感じてしまいます。
また、家事や趣味といった当たり前にこなせていたことも脳機能の低下でできなくなれば、イライラが積もって急にイライラしてしまう場合もあります。
このような中核症状が原因となって、文句ばかり言ってしまったり、不穏状態になってしまうのです。
行動心理症状
行動心理症状とは周辺症状(BPSD)とも呼ばれていて、中核症状がきっかけで起こる二次的な症状です。
徘徊や暴言、暴力などの「行動症状」と物取られ妄想やうつ、無気力などの「心理症状」とがあります。
行動心理症状で暴言や暴力が出やすい症状がそのまま文句ばかりを言う、イライラするという表現につながります。
また、他人の物を盗まれた妄想がひどくなったり、急に感情の起伏が激しくなったりするのも、認知症の症状のうち行動心理症状が影響していると考えられます。
3.認知症の方の文句にはパターンがある
認知症の方で文句ばかり言う症状には、いくつかのパターンがあります。
ひとつずつ見ていきましょう。
A.物取られ妄想が背景にある場合
認知症の代表的な症状のひとつに、物取られ妄想があります。
<言動例>
- 誰かが勝手に家に入ってきて鍋を盗んでいった
- 家族が財布のお金を抜いていった
- ご近所さんが玄関前の植木鉢を持って行っている
認知症の症状で記憶障害が進むと、自分が覚えていることと忘れていることの区別がつかなくなり、その不安から他人が盗ったせいにして文句を言うようになるのです。
B.被害妄想が背景にある場合
認知機能が低下して、自分の置かれている環境や週費の状況がよくわからなくなるため起こります。
<言動例>
- 家を出ようとするといつもお隣が見張っている
- 病院の先生がいつも悪口ばかり言ってくる
外出する時間に、たまたまお隣は玄関の花の水やりをする時間で外にいるだけなのに、常に見張られているような妄想を起こしてしまいます。
また、診察で「これからもきちんと薬を飲むようにしましょうね」と医師に言われたことを、理不尽に注意されたと勘違いしてしまう場合もあります。
自分の怒りや不安がうまくコントロールできなくなると、周囲のせいにして安心しようとする心理が働いてしまうのです。
C.嫉妬や対人関係への不満が背景にある場合
孤独感や不安が強くなると、人間関係にまつわる妄想が増えてきます。
<言動例>
- 夫が外出するのは浮気のためだ
- 私が寝ている間に浮気相手が忍び込んでいる
できないことが増えてきたことから家事が何もできない。
迷惑をかけてばかりだ。
自分の存在価値がなくなって、家族に見捨てられるのではないかといった不安が引き起こしていると考えられます。
4.文句を言われたときの状況別対応方法
それでは、もし認知症の親から文句を言われたときにはどのように対処すればいいのでしょうか。
物取られ妄想による文句への対応
まずは、相手を否定せずにどんな話でも耳を傾けましょう。
すぐに話を遮ったり、否定してしまうと、ますます物取られ妄想が強まるおそれがあります。
また、物取られ妄想のエピソードの背景に見え隠れしている本人の不安や孤独、本音をくみ取りましょう。
お金への不安で、財布を盗られたという妄想につながっているのかもしれません。
盗られたと訴えている物にも注目してみましょう。
被害妄想による文句への対応
本人の話が本当に妄想なのか、真実なのかを丁寧に吟味していきます。
話している程ではないにしても、実際に受けた小さな被害がきっかけになっていることもあるからです。
被害妄想の場合は、センシティブな問題になる恐れが高いため、ケアマネジャーや地域包括支援センターの担当者に相談して、第三者に入ってもらうのもおすすめです。
自分が「加害者」にされて、問題が大きくこじれるリスクもあります。
一人で解決しようとせず、専門家の力を借りながら対処しましょう。
嫉妬や対人関係による文句への対応
妻や夫、自分の居場所や役割を失うという不安や恐怖をケアしていきましょう。
相手の不安な感情をじっくりと受けとめて、傾聴を続けたり、本人の気持ちに添った対応をしていきます。
危ないからとすべて家事をさせないのではなく、皿を並べる、洗濯物をたたむなど、ちょっとしたお手伝いを積極的に行ってもらいましょう。
少しでも役割が与えられると安心感が持てて症状が落ち着くケースが少なくありません。
5.認知症介護で心掛けたい基本的な姿勢
ここまで、文句ばかり言う認知症の症状の原因や対処法について具体的にご紹介してきました。
ここからは、認知症の方と接するときに大切な基本ポイントを3つに絞ってご紹介します。
①相手の話を否定しないでじっくり聞こう
認知症の介護で大切なのは、被害妄想の話を否定せずに、しっかり聞く姿勢です。
頭ごなしに否定してしまえば、本人の抱える怒りや不安、哀しみは行き場を失ってしまって、ますますストレスが増幅します。
聞く耳を持たないと感じれば、「私は誰にも理解されない」と感情的な混乱に発展して、気持ちをコントロールできなくなるからです。
どんなに荒唐無稽な被害妄想だったとしても、相手と向き合って共感的な姿勢で話を聞くことが大切です。
②本人の気持ちを理解しよう
被害妄想の話で大切なことは、なぜそうしたエピソードが生まれるか、ということです。
「嫁に財布を盗られた」と訴えるとき、なぜ相手が嫁なのか、盗られた物が財布なのかといった理解も大切ですが、本人の抱えている不安や孤独感をくみ取ることのほうが大切だといえます。
③相談できる相手を持とう
親子のように近い距離で家族を介護する中で、文句ばかり言われたり、被害妄想の話が続くと、気持ちの消耗は想像以上に激しいものです。
介護の悩みを一人で抱え込まずに、ケアマネジャーや地域包括支援センター、兄弟や子ども、親戚や家族会など、信頼できる相手に話を聞いてもらうだけでも心身のストレスが和らぎます。
また、より適切な介護をアドバイスしてもらえるチャンスも生まれるでしょう。
ココシニアでも認知症の進行フェーズや、症状の解説をはじめ、認知症ケアに役立つ様々な記事を掲載しています。
ぜひこちらもご参考にしてください。
➡認知症特集の記事一覧へ
6.なんとかしようと無理に収めなくても大丈夫
怒りやイライラなどの感情表現が増えていくのは、人が老いていく過程では自然なことです。
認知症になるとそういった感情面での症状が現れやすくなります。
しかし、一見すべてのことに対して感情的になっているようでも、一時的な場合がほとんどです。
それまで文句ばかり言い続けていたと思ったら、急に落ち着いているというように繰り返すのが一般的。
本人の話を共感的に傾聴する姿勢を基本にしながら、ときにはそっとしておくことも大切です。
介護のストレスをコントロールするためにも、ケアマネジャーや地域で開かれている認知症カフェなどに介護の悩みを相談してみましょう。
よりよい介護サービスを提案してくれたり、うまく息抜きをするにはどうすればいいかアドバイス、相談に乗ってもらえます。
また、将来的にこのまま介護を続ける不安があるようなら、施設の入所を検討する時期に入っているかもしれません。
介護疲れが限界を迎えて、介護する側も介護を受ける側も身動きが取れなくなる前がタイミングです。
よりよい環境で本人が過ごせること、そして自分の人生も大切にすること、このふたつを両立できる道を考えていきましょう。
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アテンダントのご紹介は以下のページで確認できますので、こちらもご参考にしてください。