2021.10.19
【専門家が解説!】その人らしく穏やかに最期を過ごせるターミナルケアとは?
「ターミナルケアという言葉は知っているけれど、詳しい内容がわからない」
「緩和ケアやホスピスケアなど、似たような単語との違いは?」
このような疑問を抱えている方は、多いのではないでしょうか。
本記事ではターミナルケアの基礎知識、具体的なケアの中身、どんな場所でターミナルケアを受けることができるかといった点を中心にターミナルケアについて解説します。
今回取材させていただいたのは、一般社団法人日本終末期ケア協会・代表理事の岩谷さんです。
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1.ターミナルケア(終末期ケア)とは
医師より余命宣告をされた方が、どのようにしたらその人らしく残りの人生を過ごせるかを考え、医療・介護・メンタル面などをトータル的にサポートするのがターミナルケアです。
あらゆる苦痛を軽減できるよう医療ケアを行いますが、延命を目的とせず、生活の過ごしやすさを重視するのがポイント。
苦痛を取り除いて精神的に安心した状態で、最期の時間を過ごしてもらうために必要な治療を行います。
「ターミナルケア」、または「終末期ケア」と表現されますが、一般的にはどちらも同じ意味です。
緩和ケア・看取りケアとの違い
ここからは、ターミナルケアと少し似ている2つの言葉の意味についてお伝えします。
・緩和ケア
・看取りケア
どの言葉も「最期まで心身共に苦痛なく過ごすためのケア」という考え方は共通しています。
基本的にはどのケアにも大きな違いはありませんが、それぞれケアの内容やケアを行うフェーズが少しずつ異なります。
以下、言葉の違いについて確認しましょう。
緩和ケアとは?
緩和ケアは、抱えている苦痛に対する医療ケアとメンタル面のサポートを通して、苦痛緩和を目指します。
病気によって生じている体の痛みを取り除くのはもちろん、今後の生活や人生に不安を覚えている方の心に寄り添い、心身の痛みを取り除けるよう努めるのが緩和ケアです。
ガンや認知症などの病気と診断されたそのときから、どのように症状を緩和し、またご本人とご家族にとって最善のケアは何かを考え、実行していきます。
緩和ケアは、日本においてはガンを中心に広がってきたものであり、保険が適用されやすいので経済的にも安心して受けることができます。
しかし、WHOが定める緩和ケアの定義では、どの病状に対するかの定義は決められていません。
緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。
引用:特定非営利活動法人 日本緩和医療学会「WHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義(2002)」定訳
現時点で日本ではガンと心不全の2つを中心に保険適応が整っていますが、他の病気に対してはサポートが不十分な部分もあります。
けれども、病気の種類や時期に関わらず、どなたにも必要なケアであるということは押さえておきましょう。
看取りケアとは?
看取りケアは、いよいよお別れが差し迫ってきたという時期に、ご本人が苦痛なく、そしてご家族がなるべく安心して傍で過ごせるように環境を整えるケアです。
また、本人を見送ったあとのご家族の精神的なケアも、看取りケアの大切な要素です。
死別の悲しみを抱きながらも、一歩前へ進むためのケアを「グリーフケア」と呼びます。
死別後に、日常生活を取り戻すまでにかかる期間は人それぞれです。
2.ターミナルケアの内容とポイント
ここからは、ターミナルケアの内容とポイントをお伝えしていきます。
ターミナルケアは、人生の終末期を迎えた時期にその人らしく穏やかに過ごせるようにケアを行います。
病気の種類、苦痛の有無も問いませんので、いわゆる自然に眠りにつくような認知症や老衰の終末期も含まれます。
ガンや認知症をはじめとした病気を患うこと、また加齢に伴う体の変化から、人は全人的苦痛(トータルペイン)と呼ばれる4つの痛みを感じやすくなります。
<全人的苦痛(トータルペイン)>
- 身体的苦痛 (病気による体の痛み)
- 心理的苦痛 (不安やうつ状態など)
- 社会的苦痛 (仕事や家庭への不安)
- スピリチュアルペイン(人生の意味や死生観への悩み)
ターミナルケアではこれらの悩みや不安を解消し、本人にかかるあらゆる苦痛を丸ごとケアします。
一つ一つの苦痛症状が、本人の精神面や生きづらさにどう影響しているのかを総合的にとらえてケアをしていきます。
また、ご本人だけでなく、家族にかかるトータルペインもケアします。
ターミナルケアの中身をひとつずつ確認していきましょう。
身体面に対するケア
身体的ケアは、体の痛みを取り除くことを目的としています。
具体的な内容は、大きく分けて、医療と介護面の2つです。
医療面では、投薬治療や栄養管理などの治療を通して、苦痛や問題を取り除くよう努めます。
特に、身体にかかる負担を取り除くことによって、これまでできなかったことができるようになったり、苦しむ本人を間近で支える家族の苦しみを解消したりすることができます。
例えば、痛みがなくなったことでトイレに行きやすくなる、お風呂に入れるようになると、本人の生活環境は大きく変化します。
痛みから、ベッドへ寝たきりになってしまっていた方が座った姿勢を維持できるようになると、お食事が食べやすくなり、食べられる形態も変化します。
身体的な痛みを取り除くケアは、こうした好循環を生み出すことからも非常に重要です。
痛みを取り除くケアに加えて、身体面のケアでは、快適な日常生活を過ごせるように排泄や入浴などの身体介護も行います。
精神面に対するケア
体の変化や身近になりつつある死に対する恐怖などの、精神的なケアが求められます。
精神面でのケアでは、ひとり一人に親身に寄り添いサポートすることがポイントです。
孤独感や不安感が強いと、苦痛を感じやすくなってしまいます。
お腹が痛い際に、一人で痛みに苦しむ場合と、痛みに寄り沿ってくれる人がいる場合とでは、痛みの感じ方に違いがあります。
寄り添ってくれる人がいることで、痛みが軽減するという経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように精神面から苦痛を取り除くケアもターミナルケアでは実施されます。
また中には、自宅で生活できなくなり、病院や介護施設での生活を余儀なくされる方もいます。
その場合は、なるべく自宅でずっと使っている寝具や飾りなどを持ってきて、これまでと近い環境をできる範囲で作るなどの工夫も行います。
社会面に対するケア
社会面に対するケアとは、病気になったことで本人にかかる精神的負担や、ターミナルケアを進めるにあたって生じる生活や仕事、家庭の変化に対する精神的負担へのサポートです。
具体的には次のような不安に対するサポートを行います。
・治療費や介護費などの経済的負担
・仕事を失う不安
・家族と離れて生活する不安
・環境変化に伴うストレス
たとえば、経済的負担が不安な方に対しては、ソーシャルワーカーに相談し費用負担を軽減できる保険や支援を紹介することもあります。
また、仕事での立場が変わってしまう、ご家族と離れて生活することなどの、自分の立場に対する不安に寄り添うこともターミナルケアでは行われます。
また、本人の状況によっては、療養場所やケアの方針が変化していくことがあります。
在宅から病院、あるいは病院から在宅へ療養場所が変わることで、今まで信頼関係を構築してきた医師や看護師、介護スタッフからのケアを受けられなくなる場合があります。
こうした本人を取り巻く環境変化へのストレスにも、ターミナルケアはアプローチします。
家族に対するケア
ターミナルケアでは、本人を支えるご家族へのケアも欠かしません。
ご自宅で介護を行う場合、一番身近にいるご家族が食事や入浴などの介護全般、また投薬管理を行うケースがほとんどです。
ターミナルケアの効果を評価し、本人の変化を一番把握しているのはご家族です。
そのため、ご家族もターミナルケアを行うチームとして参加してもらうという考え方を大切にします。
その際は、ターミナルケアを行う専門職が持っている家族像を押し付けないように細心の注意を払います。
家族にもそれぞれの形があるため、どのくらいケアに関わりたいかという度合はご家族によって異なるのが当然です。
ご家族がどんな気持ちなのか、どういう状況や立場に置かれているのかということを把握したうえで、支援を行います。
また、本人と同様に家族も次のような不安を抱えやすくなります。
・介護の負担
・医療サポート
・介護や治療の経済的負担
・本人に代わって行う意思決定の負担
慣れない介護に戸惑い疲れるなど、介護は身体へ大きな負担をかけます。
また、病気で苦しむ本人を間近でケアすることで家族は精神的なつらさも感じます。
こうしたさまざまな負担、本人が病気になったことで生じる、家族のトータルペインに対するサポートもターミナルケアでは行います。
押さえておきたいポイント
ターミナルケアで重要になるポイントは、「本人にかかるあらゆる苦痛を丸ごとケアする」という考え方です。
ターミナルケアは残った時間の中で、いかに本人や家族が納得しながら看取りまでのプロセスを進めていけるかを大切にしています。
治療は行いますが、目的は病気の完治ではなく、心身ともにできる限り負担がない状態にすることです。
病気よりも、生活の質を優先して関わります。
急性期医療でのケアは、疾患への処置を行うことが中心で、緊急度も高いことから、医療者が先導することが多くなります。
一方、ターミナルケアや終末期ケアでは、ご本人やご家族とともに伴走するという双方向でのつながりそのものがケアになるのです。
納得のいく残りの人生の過ごし方は人それぞれです。
必ずしもこのように対応すればいいという正解はありません。
そのため、本人が望んでいることだろうといった思い込みでケアを行うことは避けるべきです。
ご本人とご家族、医師や介護スタッフとたくさん話し合い、関係職種がそれぞれの価値観や優先順位でケアを行うのではなく、ケアの目標を共有することが重要です。
その際には、次の視点で話し合いをしてみましょう。
<話し合いのポイント>
- これまでどのような生活をしたか
- 譲れないものは何か
- 何を大切にしてきたか
- いま困っていることは何か
- これからどのように過ごしたいのか
ご本人が形成された過去、また現在困っていることなどを把握することで、ひとり一人に応じたケアの目標を決めることができます。
このように、ケアの目標をご本人・ご家族と話し合って決めていくという双方向での関わり合いがターミナルケアのポイントです。
ご本人はもちろんのこと、ケアをするご家族とスタッフが連密な関係を構築し、みんなでつながってご本人を支える。
ある価値観を押し付けない、誰一人孤立させない関係性を、ケアを通じて紡いでいくという点もターミナルケアの大切な要素です。
場合によっては、ご本人を含めて話し合いができないケースもあるので、可能であれば早いうちから家族間で希望を共有しておくことが大切です。
本人が譲れない希望を把握しておくことで、ベストな選択肢を考えやすくなります。
このように、ターミナルケアにおいては、「本人にかかるあらゆる苦痛を丸ごとケアする」「誰一人孤立せず、みんなでつながってケアする」という考え方を重要視します。
身体面・精神面・社会面での苦痛を分離せず、本人が抱えている困りごとは何かをみんなで考えて、ターミナルケアは実施されるのです。
3.ターミナルケアはどこで行う?場所ごとのメリット・デメリット
ターミナルケアを行う場所は、在宅・介護施設・病院の3つです。
どの場所でターミナルケアを行うのが最善かは、その人やご家族の希望、またその都度の状況によって、それぞれ異なります。
ここからは、ターミナルケアを受けられる代表的な場所として在宅・施設・病院を取り上げて、それぞれの特徴を解説します。
在宅でのターミナルケア
在宅でのターミナルケアは、慣れ親しんだ自宅で家族と過ごせるのが最大のメリットで、ご本人にかかる精神的な負担を軽減しやすくなります。
最期をどこで迎えたいかという質問を調査した統計をみても、在宅と希望する人が全体の約6割を占めており、多くの人が最期を迎える場所として自宅を希望しています。
参考:日本財団 人生の最期の迎え方に関する全国調査
特に看取りの時期は、家族が24時間体制でケアをすることになりますが、制度を利用することで負担を軽減することができます。
訪問介護をはじめ、訪問看護、訪問診療など在宅でも安心してターミナルケアを行える環境が近年整備されつつあります。
終末期の場合、これらのサービスは保険適用され、コストがはっきりわかるというので安心です。
人生の最期は病院でという時代が長く続きましたが、現在は、どこで最期を迎えたいか希望を実現できる環境が整いつつあります。
こうした時代の変化や在宅での医療環境が充実されているという事実も押さえておきましょう。
介護施設でのターミナルケア
介護施設の場合、食事や入浴など、生活全般のサポートをプロが行ってくれる安心感があります。
看護師常駐の施設であれば、投薬管理などの医療ケアも対応してもらえます。
さらに介護スタッフは、生活をみることに長けている職種です。
介護施設は生活の場。
「生活の中で本人が抱えている困りごとを見つけて解決していくこと」が介護施設に期待される役割です。
一方で看護スタッフは、医療的な措置、身体的な状況に応じて最適なケアが何かを考えること、リスクを予測することに長けている職種です。
こうした介護スタッフと看護スタッフ、それぞれの長所が組み合わさったケアが提供できるという点が、介護施設で行われるターミナルケアの特徴でしょう。
介護スタッフ、看護スタッフそれぞれが共通した目標をもってケアに取り組んでいること、施設長が看取りに対する理念を持っていること、コミュニケーションが盛んにとられている風土があること。
よいターミナルケアが行われる施設かどうかを見極めるポイントです。
互いの意見を認め合い、誰もが孤独にならないといった価値観が共有されている施設は、ターミナルケアに限らず、よい介護施設を探すうえでも重要な要素になるでしょう。
また、近年は医療知識を備えた介護スタッフの数も増えつつあります。
終末期ケア協会での講習をはじめ、医療知識を学べる研修会が、介護施設で現在盛んに開かれています。
これらの変化に伴って、ご入居者と普段からよく接する介護スタッフが、ご入居者の状態に異変があった際に、すぐ看護師に情報共有できる体制が取れるようになりました。
痰吸引などの医療的ケアを介護スタッフが一部行えるようになった法改正もあり、介護施設でも充実した医療対応を受けることができる環境が整いつつあります。
病院でのターミナルケア
介護施設との大きな違いは、なんといっても、医療的処置が整っているということでしょう。
特に、痛みや呼吸困難、重篤な脱水などで医療処置が必要である場合には、薬剤治療も必要となります。
そのような方にとっては、病院も大切な療養場所になります。
看護、医療職種は問題解決を行うことが非常に得意な職種です。
自宅や介護施設でのターミナルケアに不安が残る場合は、リスクの予測、問題解決が得意な医療職種からケアを受けられる病院でのターミナルケアを選ぶことで、安心感を得ることができます。
4.まとめ
先ほども申し上げましたが、ターミナルケアは残った時間の中で、いかに本人や家族が納得しながら看取りまでのプロセスを進めていけるかを大切にしています。
ターミナルケアの目的である「納得のいく残りの人生の過ごし方」は、人それぞれ違います。
自宅で生活したいという方もいれば、お体の状態、ご家族の事情によって入院を希望される方もいます。
ターミナルケアや終末期ケアを検討する際に、どこまで治療してほしいかという延命治療に関する意思を事前に提示しておきましょうといった目標が設定されることが多くあります。
しかしながら、自分がこれからどんな病気でどんな状態でいつ命が危ない状態になるかは誰にもわかりません。
全く見えない未来のことを想像して、「点滴はしない」「心臓マッサージはしない」などと決めておくことは難しいことです。
その状況になってみないと、「本人にとって最善なケアが何なのか」ということはわからないものです。
例えば状態が悪化しつつある場合、それが脱水症状によって引き起こされているのであれば、点滴をすることで体力が大きく回復することがあります。
はじめから延命治療はしないと決めたのだから忠実に守らなければいけない、ということでもありません。
在宅か、施設か、病院か。
最期の場所を選ぶ際にも通じることがあります。
3日後の人生さえもどうなるかわからないのに、数か月先に起こりうる事態を予想するというのはかなり難しいことでしょう。
しかし、未来は予測できなくても、「今自分が大切にしていること」ならわかりますよね。
例えば、「孫が大好きだから、最期まで孫に会えるようにしてほしい」、「自分で決められなくなったら、妻と息子で話し合って決めてほしい」など。
どんな場所でどんなターミナルケアを受けたいか、希望を伝えておくことと同時に、「なぜそこで最期を迎えたいのか」「なぜそのケアを受けたいのか」を、一度問うてみましょう。
大切にしていることが見えてくるはずです。
話し合うきっかけは、健診結果でも、ニュースでも、なんでもいいのです。
これは、縁起でもない話ではなくて、お互いが大切にしている信念を知るコミュニケーションなのです。
自分のことを身近な人と話しておくことが、将来、家族の負担を減らすことになります。
ご家族ごとの事情もさまざまあると思いますが、まずは本人が大切にしていることや譲れないものは何なのかを話し合い、ターミナルケアについて検討をはじめてみましょう。