2021.07.01
【高齢者の介護食】選ぶときは種類や形態、区分に要注意!
介護食とは口から物を摂りづらくなった人が、安全に食べられるよう調理方法を工夫した食事のことです。
最近では各メーカーからも多くの介護食が販売されています。
今回は、実際に介護食を選ぶときに知っておきたい種類や区分について紹介します。
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介護食とは、どんな食事?
国立長寿医療研究センターの調べによると65歳以上の在宅療養患者のうち3割は“噛む”ことに問題があり、さらに“飲み込み”については5割程度の人がなんらかの障害があるという結果が出ています。
よく噛んで食べることは健康の基本といわれていますが、高齢者になると咀しゃくがしづらい、嚥下(えんげ)機能が低下するなど、なんらかのトラブルを抱えている人も多いようです。
そのまま放っておくと、食欲不振につながり低栄養状態や、BMI(ボディマス指数・体重と身長から算出される肥満度を表す体格指数)が低くなるなどの障害が出ることもあります。
さらに進むと健康を維持することが難しい状態に陥る人も少なくありません。
また高齢者の食欲不振は多くの病気や、認知機能の低下などにもつながります。
「食が細くなったかな?」と感じたら、まずはその原因を探りましょう。
そしてその状態でも食べることができる適切な介護食を上手に取り入れて、必要な栄養を摂取するよう心がけましょう。
高齢者の食欲不振の原因については、以下の記事も参考にしてください。
➡高齢者の食欲不振の原因とは?栄養補助食品の使い方や、対策レシピまとめ
普通食と介護食の違いはなに?
咀しゃくや、嚥下に問題がない人の食事を「普通食」といいます。そして噛むことが難しい、飲み込む力が弱くなっている人が、安全、安心に食べられるよう“調理方法を工夫”した食事が「介護食」です。 「介護食」の形状や種類はいろいろあります。どのようなものがあるかくわしく見てみましょう。
流動食やソフト食など、高齢者の状態に合わせた食事
最近では各メーカーから「介護食」として、レトルト食品、冷凍食品、調理済食品などが販売されています。
しかし一言で「介護食」といっても、種類や形態はさまざまです。
どのようなものを指すのでしょうか?
きざみ食
食材を細かくして調理する「きざみ食」は、義歯が合わない、噛み合わせがスムーズにいかない、また口の開閉が困難な人におすすめの調理法です。
なお、義歯が合わない場合は義歯の調整が最優先です。かかりつけの歯科医に相談しましょう。
ソフト食
歯がなく、さらに義歯などを入れることが難しい高齢者の多くは、舌や歯ぐきなどで食材を噛んで砕きます。そんな人に向けて、食材を簡単に潰せるぐらいの柔らかさに煮たり、蒸したりするのがソフト食です。
ミキサー食
噛むことが困難で、さらに飲み込む力も弱くなった高齢者は、食材をミキサーにかけてペースト状にしてあげると、飲み込みやすくなります。とろみをつけて、のど越しをよくするのもおすすめです。
流動食
ミキサー食よりもさらにペースト状にした流動食は、口から栄養をとり入れて胃腸で消化しやすくするため、さらに液状に加工したものです。
スープなども流動食に含まれます。
嚥下食
飲み込む力が弱くなった人が、誤えんしないよう配慮した食事が「嚥下食」です。
食品をミキサーにかけ、ゼリーなどでまとめて口の中で食材がバラバラにならないような工夫がされています。
農林水産省が制定した「スマイルケア食」ってなに?
表1 参照:農林水産省 「スマイルケア食の取り組みについて」を元に作図
介護食は煮たり、つぶしたり、ミキサーにかけたりするため、家で毎日作るのは大変です。
最近では市販の介護食も多く販売されているので、上手に利用するとよいでしょう。
そのときに気を付けなければいけないのが、介護食に設定されているマーク。
この区分は「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013」、「嚥下食ピラミッド」、「高齢者ソフト食」、「ユニバーサルデザインフード(UDF)」など、民間団体が独自のルールで表記しているので、共通ではありません。
2014年以降は、農林水産省が介護食の区分をわかりやすく分類しようと「スマイルケア食」という取り組みをはじめました。
スマイルケア食にも独自のマークがあり、2015年の「スマイルケア食普及推進会議」で、既存の民間規格を統一的に分類したのです。
これを把握しておけば、体の状態にあった介護食品を簡単に選ぶことができます。
まずはスマイルケア食について詳しくみてみましょう。
スマイルケア食の分類と選び方
スマイルケア食は3種類の色に区分されています。以下のチャート式からご自身、あるいは介護される方に合ったスマイルケア食の区分を見てみましょう。
表2 参照:農林水産省 「スマイルケア食の取り組みについて」 P23スマイルケア食の選び方
大きく3つのカテゴリーにわかれるスマイルケア食
スマイルケア食のマークの色と、概要は以下の通りです。
- 1. 青マーク
普通に食事はできるが、食が細くなり必要な栄養を補給するのが難しい人向けの食品です。栄養補助食品的な要素が強く、青マークは1種類しかありません。
- 2. 黄色マーク
「咀しゃく」が難しい人に向けた介護食品です。義歯などがあわず、噛むことに問題がある人は、黄色マークがついている食品を選びましょう。レベルは5~2まであります。
- 3. 赤マーク
「嚥下」が難しい人に向けた介護食品です。飲み込む力が弱くなった人は、赤マークがついた食品を選びましょう。レベルは2~0まであります。
咀しゃくに配慮された介護食品の区分
表3 参照:日本介護食品協議会「ユニバーサルデザインフードとは」
咀しゃくに問題がある高齢者には、スマイルケア食の「黄色マーク」が該当するのですが、この「黄色マーク」を表示するには、「そしゃく配慮食品の日本農林規格(JAS)」の認定を受ける必要があります。
また、「日本介護食品協議会」によって制定された「ユニバーサルデザインフード」にも、独自のマークがあります。
「スマイルケア食」と、「ユニバーサルデザインフード」、両方の分類を確認しておくと、状態にあった正しい介護食を買う目安になるので覚えておきましょう。
区分1:噛みづらさがあるが咀しゃくに問題のない人
かたいものや大きいものには噛みづらさや飲み込みづらさがあるものの、柔らかいものや小さくきったものは違和感なく摂ることができる人は“スマイルケア食・黄色マーク5”、“ユニバーサルデザインフード・容易にかめる”のマークがついている食品を選びましょう。
食品の一例 あじのハンバーグ、柔らかいチキンボール、柔らかく煮た筑前煮
区分2:歯ぐきでつぶして食事をする人
歯がなく、食材を歯ぐきに押し付けて噛み砕く高齢者は、ソフト食などの柔らかい食事を好みます。
さらに時々飲み込みづらさがある人は“スマイルケア食・黄色マーク4”、“ユニバーサルデザインフード・歯ぐきでつぶせる”などの介護食を選択しましょう。
食品の一例 麻婆豆腐、ゼリー、豆腐ハンバーグ
区分3:舌でつぶして食事を食べる人
咀しゃくする力が弱くなり、歯よりも舌で軽くつぶしてから飲み込む高齢者や、主食は全粥という人は、“スマイルケア食・黄色マーク3”、“ユニバーサルデザインフード・舌でつぶせる”区分に相当します。
食品の一例 牛肉のムース、海老フライ風ムース、ごま豆腐ムース
区分4:嚙まなくてよい食事なら摂れる人
咀しゃくをすることが難しくなった高齢者は、ペースト状に加工された食品を口に入れて、少しずつのどに流し込んであげると安全に食事を摂ることができます。
“スマイルケア食・黄色マーク2”、“ユニバーサルデザインフード・かまなくてよい”を利用してみてください。
食品の一例 イワシ梅煮(ミキサー食)、かぼちゃの煮物(ミキサー食)、きんぴらごぼう(ミキサー食)
嚥下困難者用の分類
表4 参照:農林水産省 「スマイルケア食の取り組みについて」 P20えん下困難者用食品の新分類
嚥下に問題がある高齢者には、スマイルケア食の「赤色マーク」を選んでください。
この「赤色マーク」を表示するには「特別用途表示許可制度」の許可を受ける必要があります。
スマイルケア食の、嚥下区分のレベルは2~0。
民間団体もそれに応じて区分を設けているので、該当するところはどこなのかを確認しておくと便利です。
少し咀しゃくして飲み込める
少し噛めば、飲み込むことができる状態の人は“スマイルケア食・赤色マーク2”の区分に該当します。
ソフト食が多く、生クリームや油脂などを食材に加えて柔らかくしているものが多いです。
食品の一例 ペースト状の食品 水ようかん 卵料理 ゼラチン粥
口の中で少しつぶして飲み込める
主に歯ぐきや舌で押しつぶして飲み込む人は“スマイルケア食・赤色マーク1”の区分に該当します。
赤色マーク2よりも、とろみ剤などを使い、より粘性、付着性を高くした食品です。
ミキサー食をゼラチンで固めた食品や、スープなどの流動食があります。
食品の一例 ムース状の食品 フォアグラムース 重湯ゼリー 具材のない茶碗蒸し
そのまま飲み込める
噛むことが困難な人は、そのままのどに流し込める食品“スマイルケア食・赤色マーク0”の区分に該当します。
重力だけで咽頭内を通過させるため、食材はミキサーなどで滑らかにしてさらにゼラチンなどで固めるものが多いです。
食品の一例 ゼリー状の食品
介護食は食べる人の状態にあったものを選ばないと誤えんなどを引き起こすリスクが高いので、表1を参照し、民間規格と、スマイルケア食、どちらも区分を確認しておきましょう。
嚥下と食事についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
➡【むせる高齢者への対処】|嚥下障害の関係性と食事がうまく飲み込めない原因を解説
美味しさと栄養、両方を考慮した献立を
(ドーミー城北公園のイベント食)
食事は命を維持していくうえでとても大切なものですが、栄養面だけに注視すると、つい「おいしい」という要素を忘れてしまいがちになるので気を付けましょう。
また栄養は食事から摂るだけでなく、おやつなども上手に取り入れて足りない部分を補う工夫も必要でしょう。
手作りの介護食は、高齢者の好みにあったものを提供しやすい反面、介護する側は三度の食事を作るのが負担になることもあります。
最近はドラッグストアやスーパーなどで、加工食品や冷凍食品など市販の介護食が簡単に手に入るので「スマイルケア食」のマークなどを確認して上手に取り入れましょう。
また同じメニューでは飽きてしまうことも。
そんなときには通販を利用して、新しい食品を購入してみるのも、食が細くなった高齢者の味覚や視覚を刺激して箸がすすむこともあります。
栄養はもちろん大切ですが、おいしくてバラエティ豊かな食事を提供することが、高齢者には必要です。
ただ「飲み込むとむせて食事を吐き出してしまう」、「食が細くなってきた」などの問題が生じたときは、まずドクターや言語聴覚士に相談しましょう。
またホームヘルパーや言語聴覚士の派遣依頼なども活用しましょう。
それでもなかなか難しい、介護負担が大きくなってきたという場合には、栄養の管理や、食事の介助をしっかりやってくれる介護施設への入居を考えてみるのも良いかもしれません。
食事は高齢者の楽しみでもあり、そして健康を維持していく上でとても大切です。 高齢者の食事については、こちらの記事も参考にしてみてください。