2020.11.11
なぜ、GDPは低いのにラオスの村人はしあわせそうに見えるのか? 「主観的幸福感」を高く持って生きるコツ
GDPは世界の181カ国中107位(2013年)と日本に比べ、決して経済が発展しているとは言えないアジアの途上国ラオス。
このラオスの村人たちが持つ高い「主観的幸福感」を日本人にも広めるために、幸せを創るプロジェクトを行なっている株式会社Share Re Greenという会社があります。そしてラオスでの調査や経験から学んだことをプロジェクトに反映させ、これまでにない新しい事業をいくつも生み出しています。
今回は、主観的幸福感を向上させるためにShare Re Greenが行なっている活動や、高齢者を含む人々が主観的幸福感を高く持って生きるためのポイントについて、代表の瀬戸山匠さんにお話を伺いました。
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ラオスに魅せられ、幸せを創る事業をスタート
――まずは、御社の取り組みについて簡単にお聞かせください。
瀬戸山 匠さん(以下、瀬戸山さん):株式会社Share Re Greenは、畑の生態系や農村のあり方から学び、人と人との関係性に注目してコミュニティ単位の幸せを創ることを目指して活動しています。
主に食育や関係性構築につながるプロダクトを開発したり、ラオスで学校の改築や主観的幸福感に関するヒアリング調査をしたりしています。
弊社のプロダクトとして、「やさいクリーム」があります。私はラオスへ行ったことがきっかけで農業を始めたのですが、ラオスの農村で採れた農作物はすべて村の中にある市場に出されているんです。
村の中でしかお金が回らないので、いつまでも経済が活性化されません。そこで、村の人が育てた野菜を使い、村の外からお金を稼ぐ方法を考えました。
村には農作物を保存し流通させる術がないので、加工品を作ることにしたんです。まずは日本で加工品を作って流行させ、東南アジアの主要都市でも販売する。
その商品の製造拠点をラオスの農村に置けば、村の外どころか外国からお金を稼ぐことができます。現在はラオスでのやさいクリーム製造に向け、動いています。
また、ラオスの農村に学校を建てるプロジェクトも行なっています。こちらは私が大学生の頃から10年ほど続けており、これまでに小学校を改築して中学校と高校を建てました。そして学校の改築とともに、ラオスで「主観的幸福感」の質的調査も進めています。
――なぜラオスで活動を始めようと思われたのでしょうか? 会社設立に至る経緯とあわせてお聞かせください。
瀬戸山さん:私が大学生の頃、海外ボランティアが流行していたんです。そこで私も海外で何かしたいと思い調べたところ、ラオスに出会いました。
ラオスは世界でもトップレベルで国民の幸福感が高いにもかかわらず、GDPはとても低い。その違和感が気になり、ラオスで活動することにしたのです。実際にラオスへ行ったところ、現地の人々が家族の一員のように接してくれて、強い幸福感を感じることができました。
そして大学3年生になり就職について考え始めたとき、ラオスの農村で食べた野菜の美味しさが忘れられず、農家になろうと思ったんです。そこからご縁があり、畑を持っていた会社のインターンに参加し、そのまま就職しました。
3年間勤めた後に独立し、再び農業に従事したのですが、一度失敗してしまったんです。そこから立て直し、2019年に畑で採れた野菜を使ったやさいクリームを商品化しました。そして2020年7月、Share Re Greenとして法人化した形です。
ラオスの人々から学ぶ主観的幸福感
――御社が調査されている「主観的幸福感」とは、どのようなものなのでしょうか?
瀬戸山さん:主観的幸福感は、「健康」、「精神性」、「関係性」の3つが保たれることで高まる幸せであると考えています。特にアジアでは、個人の内面だけでなく友人や家族との関係性において感情が発生するケースが多く、これが主観的幸福感に大きく関わります。
ラオスの農村で暮らす人々は、主観的幸福感がとても高いんです。それは、一緒に食事をしたときにも強く感じました。
日本は核家族化が進んでおり、共働き家庭では子どもが1人で食事することもめずらしくありません。
一方、ラオスでは特にイベントがなくても、隣近所の人々とみんなで食卓を囲むことが非常に多いんです。それは、家族か否かの境界線がぼんやりとしており、日本でいう拡張家族の概念が文化として根付いているからだと思われます。
地域の中にいるとみんなが家族という認識があるので、そこに入れてもらうと安心感があります。
僕もラオスで家族の一員として接してもらったとき、高い幸福感を得ました。そのため、主観的幸福感を学ぶためにはラオスの農村での暮らしを研究するのが近道だと思い、調査研究をしています。
――主観的幸福感の調査は、どのように行なっているのですか?
瀬戸山さん:年に1〜2回、ラオスの農村でヒアリング調査をしています。家族や健康、経済、関係性などの項目に沿った質問をして、項目ごとの相関を出します。これまで約200名に調査を実施したほか、インタビューをしたこともありました。
約4年ほど調査をして驚いたのは、暮らしが変化しても人々の主観的幸福感は高いままであることです。
スマホの登場によって手軽に世の中を知れるようになったことから、ラオスの農村で生まれた子どもたちの進路は大きく変わりました。都心に出て働き、家族と離れて暮らすケースも増えています。
家族と一緒に暮らさなくなったことで主観的幸福感に変化があるかと思い調査を進めましたが、特に影響はありませんでした。
会えなくても家族という存在に感謝しているから仕事を頑張れるという、感情のつながりがとても強いんです。そのような話を聞くと、家族や友人との関係性は主観的幸福感に直結しているとよくわかります。
主観的幸福感を高めて生きるために必要な3つのポイント
――主観的幸福感を高めるためには、何が必要だとお考えですか?
瀬戸山さん:大切なのは、「関係性」、「役割」、「心理的安全性」の3つです。これらが密接に関わることで、主観的幸福感を高められます。
今の日本はこの3つが自然にできていないので、不自然な社会で生きていかなければなりません。自然に戻すためには、まず何かを教えるという役割が発揮できる場を作ってあげる必要があります。役割を持つことで新たな関係性が生まれ、そこから心理的安全性が生まれるのです。
そのためには、これまでのように同世代とだけ関わるのではなく、世代間交流を促進することが大切です。今は子育てなど価値観の多様性や、責任問題、リスク回避などもあり、高齢者と子どもが交流するイベントが行なわれる機会も少なくなりました。
しかし、高齢者と子どもの交流はとても重要です。世代を超えた関係性を作ることで、血のつながりはなくても拡張された家族のような安心安全の場ができると思います。だから、今後地域の高齢者向け施設も、そのような役割を担っていくと考えられます。
――関係性・役割・心理的安全性が主観的幸福感の向上につながると実感した具体的なエピソードはありますか?
瀬戸山さん:ずっと通っているラオスの農村の話です。数年前、村に新しい人が来たんですが、彼は足を怪我していました。
その村では8〜9割の人が農業で生計を立てているので、足を怪我していて畑も持っていない新参者となると、生きていく術が限定されてしまいます。そこで、村長や有識者が会議をして、彼に与えられる役割を話し合いました。
その結果、彼には農業の繁忙期にお祈りに行きたい村の人々に代わって、お寺で全員の名前を読み上げるという役割が与えられました。そして、村の人々はそのお礼として、農作物を彼に分けてあげることにしたんです。
そのように、自分が住んでいる世界で役割を持つことは、とても大事です。役割を持つことでその人の幸福感が高まるだけでなく、コミュニティ全体の幸福感も高まります。サポートしてもらうだけでなく、自分も何かしてあげることが、主観的幸福感の向上につながるのです。
役割を与え関係性を深めるプロダクトやサービスを展開
――現在御社で行なっている事業は、主観的幸福感向上にどう関わるのでしょうか?
瀬戸山さん:まず、やさいクリームから派生した「やさいのキャンバス」という商品を作っています。
こちらはチューブの中にやさいクリームを入れてパンにお絵かきができるプロダクトですが、ただ絵を描くのが楽しいという点では終わりません。食育にもつながりますし、“孤食”をなくしたいという想いも込めています。
ひとりで食事をする孤食は日本の日常に潜んでいますが、本来食事はみんなとコミュニケーションを取って関係性を深める機会でもあります。
1日3回しかない貴重なコミュニケーションの機会を逃してしまうのは、大変もったいないことです。だから、関係性を深めるチャンスを逃さないような商品を作りたいと思い、やさいのキャンバスを開発しました。
新型コロナウイルス感染症の影響によって家での生活が長くなりましたし、当たり前のように人と会えない状況はおそらくこれからも続きます。だからこそ、家で家族とコミュニケーションが取れる機会である食事を通じて関係性を深め、暮らしのなかで一人ひとりの幸福感を上げていくことが大切です。
また、いずれやりたいと考えている事業として、「Share Farm Studio」があります。こちらは、街の中に何でもできる畑のような場所を作ろうというものです。自然について高齢者が子どもに教えるなど人々が役割を持ち、精神的な安全性が保たれるオープンな畑ができたら良いと思います。
ラオスの畑は、みんな役割があるから自由に出入りしているんです。両親が農作業をして、祖父母が近くで料理や農作物の袋詰めをして、子どもたちが畑の中を走り回る。
走り回ることにすら雑草を踏み慣らすという役割があるので、叱られることはありません。一人ひとりが役割を持って、みんなで畑を作っているんです。
一方、日本の畑は土地の所有権などの問題もあり農家しか入ってはいけない空間とされています。それが日本の農業や街をつまらなくしているのでは?と感じているので、みんなで一緒に作り上げる畑のような空間を作っていけたらおもしろいですね。
ラオスの経済活性化と日本人の主観的幸福感向上を目指して
――御社の今後の展望についてお聞かせください。
瀬戸山さん:直近では、やさいのキャンバスのクラウドファンディングを2020年11月から年末まで実施します。そして、年明けからECサイトでの販売を始める予定です。まずは認知を広げ、教育プログラムとして保育園や幼稚園に提供していきたいと考えています。
日本である程度流行したら商品をラオスの農村で作り、東南アジアの主要都市で販売するのが目標です。それができればひとつの事例となり、今後他の農村でも同様に製造・販売することができると思います。
やさいのキャンバスは子ども向けの商品と考えていましたが、高齢者の方にも使ってもらえるかもしれません。たとえば高齢者施設でやさいキャンパスの使い方をレクチャーし、地域の子どもを招待してお絵かきを教えてあげるイベントをしたり、逆に子どもたちが高齢者にやさいのキャンバスの使い方を教えたりもできるでしょう。
そうすることで日常の孤食をなくしつつ、社会における関係性を増やして主観的幸福感の向上につながるプロダクトになっていくと思います。今は子ども向けに甘いやさいクリームを作っていますが、今後高齢者向けに改良し、施設へ普及させていきたいですね。
主観的幸福感は、一方的ではなくお互いに与え合うことで高められます。たとえば施設で高齢者が子どもにやさいのキャンバスの使い方を教えてあげるのは、一見高齢者からの贈与です。
しかし、子どもが楽しく絵を描く様子を見て高齢者も得るものがあるので、双方向の贈与といえます。お互いが役割を果たして贈与することで関係性が構築され、主観的幸福感の向上につながる。それがこのプロダクトの特徴です。
そのように主観的幸福感を高めるための事業を、今後も進めていきたいと思います。
――ラオスの村人から得た学びを活かし、日本でも主観的幸福感を高める。高齢者を含め、今後さまざまなコミュニティで主観的幸福感を高める動きが活発化していくことを望みます。
本日はありがとうございました。
文=相良海琴
Twitter:@mikoto_write
瀬戸山さんのお話から主観的幸福感は「健康」、「精神性」、「関係性」の3つが保たれることが大事だということが分かりました。そして核家族化が進んだ日本ではそれが自然にはしづらい環境だということも。
色んなコミュニティと繋がったり、コミュニケーションを増やしたりするなど、3つの要素を意識ながら暮らすことで、主観的幸福感を維持することができるのではないでしょうか。
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