2021.08.26
【例文付き】介護記録の目的とは?書き方の基本と注意点
介護記録は介護の現場において必要不可欠なもの。
ですが現場では「介護記録の書き方がよくわからない」「何を記載して何を割愛すればよいのかわからない」といった声を聞くことも少なくありません。
この記事では介護記録の概要や目的をまとめ、各場面別の例文をご紹介します。
介護記録に携わっている人、悩みをお持ちの人は、ぜひ参考にしてください。
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介護記録とは?義務付けられているもの
介護の現場で記録を求められる介護記録。
そもそも介護記録とはどのようなものなのか、その概要をあらためて確認しておきましょう。
介護記録は法律で義務付けられている
介護記録とは、利用者さんの変化や行なったケアの内容を記載するものです。
サービス提供の記録・ケア記録・介護日誌・業務日誌などとも呼ばれることもあります。
介護保険制度では、サービスを利用する上で、記録を残すことが義務付けられています。
介護記録は介護に携わる関係機関、利用者さん・ご家族などが閲覧するものです。
保存期間は2年 開示義務もある
厚生労働省は、介護記録の保存期間を厚生労働省令で「介護保険サービスが終了してから2年間」と定めています。
ただし、2年間という保存期間は国が定めたものです。
自治体によってはさらに長い期間の保存を義務付けているケースもあります。
また介護記録は、開示請求があった場合は、事業者側に開示義務があるため、該当する記録を提示しなければいけません。
万が一事故が発生した場合などは、ご家族などからの開示請求が可能です。
また介護保険事業者には、自治体による実地指導や監査が義務付けられており、適切な運営が行なわれているのかを確認する際には、介護記録もチェックされます。
作成する目的は?
介護記録を作成する目的は大きく4つあります。
目的を理解して記録を行なえるようにしましょう。
どんな目的のために介護記録を残さなければいけないのか、ひとつずつ詳しく解説していきます。
1.スタッフ間で利用者の情報を共有
介護記録を残す最大の目的は、スタッフ間の情報共有のためです。
介護施設・在宅介護など、どの場面でもひとりの利用者さんには多くのスタッフが関わります。
勤務の時間帯が異なれば、直接申し送りができないことも珍しくありません。
自分の得た情報、感じたこと、気になったこと、必ず申し送りをしたいことなどを記録しておくことで、ほかのスタッフによるサービスの提供を円滑にします。
継続的なサービス提供・スタッフの介護・ケア技術向上のためには、介護記録は欠かせないものなのです。
2.ケアプラン作成の情報源
介護記録は、ケアマネージャーの作成するケアプランの情報源となります。
状態の変化をとらえることは、適切なケアプラン作成のために不可欠な情報です。
日頃のケアの詳細や、状況の変化などを知ることができる現場の人間が残す情報は、何よりも貴重なのです。
介護記録は、適切なサービスが提供されているのかを確認できる方法のひとつといえるでしょう。
3.利用者さんご家族とのコミュニケーション
介護記録は、利用者さんご家族とのコミュニケーションツールとしての役割も果たします。
利用者さんは施設でも在宅でも、ご家族と離れた状態でサービスを受けていることが多いものです。
ご家族は、どのようなケアが行なわれていたのか、どんな状態だったのかを知り、利用者さんがどのように過ごしていたのかを知りたいと考えます。
たとえ直接顔を合わせることがなくても、きちんとした介護記録を残しておくことは、ご家族に利用者さんの状態や過ごした時間を伝える、コミュニケーションのひとつになるのです。
4.いざというときのトラブル回避のために
介護記録は、万が一事故が起きた際に必要になります。
介護の現場で事故が起きたときに大切なことは、事実をきちんと理解して対応することです。
裁判などになった際は、介護記録が法的根拠となって、職員や施設を守る証拠となります。
一緒の時間を過ごしていないからこそ、ご家族も不安になり、ちょっとした事故やケガなどが、介護現場への不信につながります。
責任の有無だけではなく、記録が整備されていることは利用者さんと、そのご家族との信頼において重要です。
また整備されていることで、手続きなどで必要になる関係各所への書類提出なども、スムーズに行なうことができます。
介護記録書き方の基本
介護記録は、介護に携わる人にとって避けては通れない業務のひとつです。
多くのスタッフが目を通すものなので、書き方の基本や注意点はきちんと押さえておかなくてはなりません。
書くべき4つの項目と注意点
介護記録には書くべき4つの項目があります。
- 1. 発生したこと(利用者さんの訴え・行動など)
- 2. 心身の状態
- 3. 自分の対応
- 4. 結果
このほかに通常と異なった点や感じたことがあれば、補足として記録しておくことも大切です。
また介護記録の各項目を書くときに注意したい、いくつかのポイントがあります。
- ・客観的事実を記録
- ・聞いた話の場合は情報源を明確にする
- ・主観によらない
- ・具体的な場面をイメージできるように書く
介護記録は作文ではありません。
主観に偏ることなく、事実を客観的に記載することが、もっとも重要なポイントと言えます。
具体的には、主観(自分の思ったこと、感じたこと)を書くのではなく、客観的事実(見たことをそのまま)書くようにします。
5W1Hを明確にして書く
また介護記録は5W1Hを明確にして書くようにするとわかりやすくなります。
- ・Who(だれが)
- ・When(いつ)
- ・Where(どこで)
- ・What(なにを)
- ・Why(なぜ)
- ・How(どのように)
5W1Hを意識して記録することで、時系列や原因がはっきりと見えてきます。
特にWhen(いつ)・Where(どこで)・What(なにを)に関しては、できるだけ詳細に記録するようにしましょう。
だ・である調で、年月日は表記を統一
文末や表記を統一することもポイントです。
- ・文末は「~だ」「~である」調で書く
- ・年月日は和暦・西暦、〇/〇・〇月〇日を統一する
- ・時刻は24時間制で書く
これは記録者以外の誰が見ても端的で、読みやすく、わかりやすくするために必要です。
施設や事業所ごとでルールを定め、ルールにしたがって記載しましょう。
医療看護記録で使われるSOAP形式とは
SOAP形式とは、医療看護記録でカルテを記入するときに用いられる記入方法のことです。
- ・Subjective(主観的情報)利用者さんと接したことで得られた情報
- ・Objective(客観的情報)医師の診察や検査などから得られた情報
- ・Assessment(評価)診断結果などの総合的な評価
- ・Plan(計画-治療-)評価に基づいて作成された方針やプラン
を記載します。
施設や事業所によってはこの形式で記載しているところもあります。
医療看護記録と聞くと難易度が高いと感じるかもしれませんが、SOAP形式で記載することで、よりわかりやすく詳細な介護記録を作ることができます。
介護記録の禁止用語
介護記録には使ってはいけない禁止用語があります。
多くの人が見る記録なので、最低限使ってはいけない言葉は知識として覚えておくようにしましょう。
使ってはいけない言葉 侮蔑を含むもの
利用者さんの人格を否定するような表現など、侮蔑を含む言葉は絶対に使用してはいけません。
「しつこい」「勝手に」「わがまま」などの表現は、介護者の主観的な感情も含まれています。
これらの表現は、例えば「しつこい」は「何度も」、「勝手に」は「自発的に」と表現を置き換えることができます。
利用者さんは我々より先輩です。
敬意を持って書くことを心がけましょう。
医療用語は使わない
医療現場で使用される用語は使わないようにしましょう。
介護記録を確認する経験の浅いスタッフやご家族からすると、体の部位を示す「頸部」や「拇指」は専門的でどこを示しているのかわかりにくいです。
また難しい漢字を使用することも多いので、誤った漢字を記載してしまうことも考えられます。
報告などでは専門用語を使用することもありますが、介護記録には適していません。
言葉遣いは?敬語は使う?
さきほど、利用者さんに敬意をもって書くことを心がけるとお伝えしましたが、介護記録に過剰な敬語は必要ありません。
理由は第三者が読みにくくなってしまうからです。
介護記録は一種の報告書です。
- ・~なさっていらっしゃいました
- ・~とおっしゃっておられました
というような表現は、丁寧すぎて読みにくくなってしまいます。
- ・~されていた
- ・~と話していた
で問題ありません。
だ・である調で書くというルールも踏まえて、過剰な敬語は使用しないようにしましょう。
場面別 介護記録の書き方と例文
介護記録をスムーズにわかりやすく記入するには、例文を参考にしたり、テンプレートをあらかじめ用意したりするのも効果的です。
ここでは場面ごとの例文をご紹介します。テンプレートとして利用してみてください。
入浴介助
入浴は介護の現場において、利用者さんの身体全体の様子をチェックできるシーンです。
バイタルチェック・専門職からの指示・結果などを記載するようにしましょう。
入浴介助の介護記録では身体部分を記入するケースがほとんどです。
代表的なものをピックアップします。
頭部 | 前頭部・後頭部・頭頂部・側頭部 |
上肢 | 上腕・前腕・手掌 |
下肢 | 大腿部・腓腹部・足底部 |
腰部 | 仙骨部 |
腹部 | 下腹部・陰部 |
【例文】
「気分は悪くないが右足を上げると痛い。
歩くだけであればなんともない」との訴えあり。
A看護師に報告し、シャワー浴で済ませるように指示あり。
10分程度のシャワー浴を実施する。
「気分に変わりはない。足の痛みも変わらない」という。
食事
食事の記録は、食事量・残したもの・食べるスピードなどを記載します。
食欲や好みなどがわかる重要な情報源です。
【例文】
ほうれん草は嫌いかと尋ねると「食欲があまりない」とのこと。
排泄
排泄の記録は、水分摂取量や、排泄状況や排せつリズムなど、健康状態の把握や支援のタイミングなどをはかるうえで、非常に重要です。
- ・回数
- ・色
- ・便の形状
- ・匂い
- ・量
などを記載します。
普段と異なる点があれば、必ず報告の上、介護記録にも残しておくことが大切です。
【例文】
15:00 トイレ内で水様便がみられる。腹痛はないとのこと。量は中量。
16:00 浣腸後のためオムツ内に多量の泥状便。出血あり。
睡眠
睡眠は健康維持のために欠かせないものです。
「眠れない」と訴えがあったり、日中ウトウトしていたりするなど、明らかに睡眠不足と思われるケースもあります。
起床時の様子に問題がなく、特別な訴えなどがなければ、『夜間良眠』でOKです。
【例文】
2:00巡回時には目を閉じており、寝息も聞かれた。
4:00巡回時には既に開眼しており、「眠れなかった」とのこと。朝食は完食した。
行事・レクリエーション
行事やレクリエーションのときの様子を記録するのは、少々ハードルが高いかもしれません。
利用者さんの様子を客観的に見ることが難しいからです。
行事やレクリエーションに参加している様子を観察し、事実を記載するようにしましょう。
【例文】
飾られたひな壇をニコニコしながら見つめていた。
歌を歌うときは手拍子をしながら大きな声で歌っていた。
効率よく、的確な介護記録をつけるコツ
介護の現場で働いていると、多忙なため介護記録を書く時間が確保できないということもあります。
短時間で効率よく、わかりやすい介護記録を書くためにはどんなことが必要なのでしょうか?
経験が浅い人・書くことがない人はこれまでの介護記録を読む
「何をどう書けばよいのかわからない」という人は、先輩の介護記録に目を通してみましょう。
パターン化されていたり、簡略に書かれていたり、わかりやすかったり……。
できている人の記録を真似することで、疑問が解決することがあります。
特に自分の悩んでいるケースと似た介護記録は、非常に勉強になるものです。
自己流でわかりにくい記録にならないよう、多くの人の介護記録を見てみることも大切です。
介護実施中はメモを携帯
介護実施中はメモを携帯し、記録しておきたいことがあればメモを取るくせをつけましょう。
メモに残しておくことで記録を書くときに、より正確で詳細な内容を書くことができます。
確実に申し送りをしなければいけないことや、利用者さんの訴え、気が付いた変化などがあれば、すぐにメモに残してください。
なぐり書きでもかまいません。
自分がわかる範囲で書けば良いのです。
テンプレートやフォーマットを作成・活用
テンプレ-トやフォーマットをあらかじめ作成しておくこともおすすめです。
テンプレートやフォーマットは表現や表記の統一には絶大な効果を発揮します。
「何を書こう」と悩む時間も大幅に削減されるので、効率的に介護記録を作成できます。
アプリやツール・システムを導入
近年では介護記録をアプリやツール・システムを使って作成している現場も多く見受けられます。
アプリやシステムを導入するメリットは非常にたくさんあります。
- ・リアルタイムで情報の共有ができる
- ・定型文の利用で統一した介護記録が作成できる
導入の際の初期費用や、研修が必要になるなどのデメリットもありますが、介護記録に特化した製品やサービスを利用することで、より的確で効率的な介護記録を作成できます。
利用者さんに合ったお世話を継続するために
介護記録はケアをする側にとっても、利用者さんやご家族にとっても非常に重要なものです。
介護記録の大きな目的は、各利用者さんに合った最適なケアの“道しるべ”になること。
そのためにも、利用者さんの介護計画をきちんと把握しておくことは大切です。
「利用者さんの問題は何なのか」「援助項目は何で、どんなことを観察していく必要があるのか」などの記載があるので、その内容を記録として書く必要があります。
介護計画を参考にすると、介護記録に必要なことをきちんと記録することができます。
多忙な現場ではなかなか時間を確保することも難しいですが、よりよいケアを行なうために、わかりやすく簡潔で客観的な介護記録を目指しましょう。