2021.10.21
【専門家が解説!】介護うつとは?予防方法から対処法まで徹底解説!
介護をする方が気をつけなければならないものの一つとして、「介護うつ」があります。
大切な両親に恩返しをするため、介護が必要になったときに自分の手で世話してあげたいと考えるかたも多いですが、在宅介護をする場合は自らが介護うつを発症してしまうおそれがあるのです。
しかし、介護うつは原因や症状を理解したうえで正しい予防法や対処法を学んでおけば、対策可能です。
本記事では、介護うつの原因や症状、介護うつになりやすいタイプについて解説し、予防する方法やなってしまった場合の対処法について紹介します。
今回取材させていただいたのは、精神保健福祉士の高橋さんです。
すでに在宅介護に行き詰まりを感じているかたや、今後在宅介護を検討しているかたは参考にしてみてください。
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1.介護うつとは?改善や回復が期待できるうつ病
介護うつとは、介護が原因で発症してしまううつ病のことです。
必要とされる介護が介護する家族の許容量を超えてしまったときに、介護うつが発症します。
高齢化が進む日本では、75歳以上の人口割合が増加し続けると予想されています。
そこで逼迫する社会保障の問題をかかえるなかで高齢化対策を進めるために、厚生労働省は地域包括ケアシステムの構築と在宅介護を推進しているのです。
デイサービスや訪問介護など、在宅介護を支援するサービスも整備されていますが、在学介護が増えたことで介護を行なう場が自宅へ移ったことに伴って介護うつも増えてしまっています。
ただし、介護うつは改善や回復が期待できるうつ病であり、回避できる可能性もあります。
介護うつを改善したり予防したりするためには、原因や対策をきちんと知ることが大切なので、これから学んでいきましょう。
2.介護うつの原因
介護うつは介護が原因のうつ病なので、介護にまつわるさまざまなことが発症の原因になります。
ここでは、介護うつの原因を確認しましょう。
要介護者の症状に対する理解がない
介護うつは、要介護者(介護されるかた)の症状に対する介護者(介護するかた)の理解が不足していることが原因になり得ます。
例えば要介護者が認知症であれば、介護者が何度言い聞かせても頑張っている姿を見せても、介護者のことを理解してもらうのは困難です。
認知症に対する理解が足りないことで、介護者は要介護者が自分の言うことを聞いてくれなかったときに「自分はこんなに頑張っているのに、なぜわかってくれないんだ」と感じ、ストレスがたまってしまうのです。
認知症に対する理解があれば、何度言い聞かせても完全に理解してもらうのは難しいことだとわかり、過度な期待を抱かずストレスをためずに済むでしょう。
協力者や相談者がいない
周りに協力者や相談者がいない場合も、介護うつを招きやすいといえます。
ひとりで介護の愚痴や悩みを抱え込んでしまい、誰にも相談せずにいるとストレスもたまっていく一方です。
孤独な状況でひとりで頑張ろうとすることで、頑張りすぎて疲れてしまうこともあります。
身体的な疲労がたまっている
介護うつは、身体的な疲労がたまることでも発症します。
多くの場合、在宅介護を行なう家族は介護のプロではありません。
介護の技術が不足している状態のまま介護をすることになるため、腰痛にならないよう要介護者をサポートするテクニックなどがわからないのです。
最小限の労力によって安定した姿勢で要介護者を支えるボディメカニクスが身に付いていないことから、身体的な疲労がたまりやすくなってしまいます。
また、日本では近年ヤングケアラーも増えています。
ヤングケアラーとは、通学や仕事をしながら介護をする18歳未満の子どもを指す言葉です。
ヤングケアラーが学校に通いながら、あるいは会社員が仕事をしながら親や祖父母などの介護をしなければならない場合は、心身の疲労がたまってしまいます。
経済的面での不安がある
経済的な不安がある場合も、介護うつを発症しやすいです。
経済的な不安は精神をむしばみ、ストレスを招いてしまいます。
介護はいつまで続ければいいかわからない、終わりの見えないものです。
終わりが見えていれば「この時期まで頑張ればいい」という希望が持てますが、そうではありません。
いつまでやればいいのかわからない介護を続けることで、経済的な不安も増加してしまいます。
その結果、暮らしにも精神にも余裕がなくなり介護うつを招いてしまうのです。
精神的なストレスを感じている
介護によって精神的なストレスがかかり続けると、介護うつを発症しやすいです。
在宅介護では自宅で介護をしなければならないため、24時間体制で動かなければなりません。
起きているあいだだけでなく、眠っているあいだもいつ介護しなければならない状況が発生するかがわからないため、1日中拘束されてしまいます。
その結果、精神的なストレスがたまり、介護うつにつながってしまうのです。
介護をがんばりすぎて燃え尽きてしまっている
介護を頑張りすぎた結果燃え尽きてしまっているかたも、介護うつになりやすいです。
責任感が強く、親の介護は自分の役目だと強く意識しすぎることで、つい頑張りすぎてしまうことはよくあります。
もちろん、要介護の親のために介護を頑張るのは悪いことではありません。
しかし、頑張りすぎた結果心身の疲労を招いてしまい、介護者自身が燃え尽きて介護うつを発症してしまうのは問題です。
3.介護うつの症状
介護うつの症状は精神的なものと身体的なものの2つに大きく分けられます。
症状は多岐に渡りますが、多く見られる症状として以下のようなものがあります。
食欲が進まない
介護うつの症状として、食欲がなくなってしまうことが挙げられます。
心身の疲労が積み重なることで、食が進まなくなってしまうのです。
その一方で、ストレスによって過食に走ってしまう方もいます。
食欲不振や過食によって健康を害し、さらに介護うつの症状が深刻化してしまうケースもめずらしくありません。
介護中、食欲になんらかの異常が確認できる場合は、介護うつを疑ってみてください。
睡眠リズムが不規則になる
介護うつになった方の多くが、睡眠障害に悩まされます。
在宅介護では24時間要介護者の様子を気にかけなければならないため、どうしても睡眠リズムが不規則になってしまいがちです。
また、精神的なストレスによって寝付きにくくなったり、朝早く起きすぎてしまったりして十分な睡眠がとれないこともめずらしくありません。
慢性的な疲労感がある
介護うつになると、慢性的な疲労感を覚えるようになります。
特に激しい運動をしているわけではないのに、体がすぐ疲れるようになってしまったり、何をしてもだるく感じてしまったりするのです。
人によっては、肩こりや頭痛など特定の部位に症状が出ることもあります。
疲労感があることで何に対しても意欲がなくなり、無気力になってしまうことが多いです。
何事にも悲観的になってしまう
介護うつの症状として、何事にも悲観的になってしまうことが挙げられます。
物事を楽観的に考えることができなくなり、何を考えてもネガティブになってしまうのです。
常に悲観的になってしまうと、正しく物事を判断できず自分自身を低く評価して落ち込んでしまったり、自分の言動に対し強い罪悪感を覚えたりしてしまいやすいです。
その結果さらに気分が落ち込み、介護うつが加速してしまいます。
希死念慮をもってしまう
介護うつの危険な症状として、希死念慮を持ってしまうことが挙げられます。
希死念慮とは死について考えてしまうことで、具体的な死ぬ方法について考えるまでには至っていないものの、死にたいという希望を持っている状態です。
終わりの見えない介護に疲れ切ってしまい、現状から逃れたいと考えたとき、希死念慮を持ってしまうかたもいます。
要介護者への怒りがおさまらなくなる
これまで確認してきた症状の多くは、一般的なうつ病にも見られるものです。
介護うつならではの症状として、要介護者への怒りがおさまらなくなってしまうことが挙げられます。
介護者のなかには、介護を頑張っているのに要介護者には何も伝わらないと感じ徐々に怒りにつながってしまうかたも多くいます。
また、要介護者に1日中呼ばれて自身の行動が制限されてしまう日々が続くため、瞬間的にカッとなってしまいやすいのです。
日々の介護で怒りが積み重なっていった結果、要介護者を殺してやりたいと考えてしまうケースもあります。
実際に親の介護をしていた子どもが親を手にかけてしまう悲しい事件も起こっているのです。
4.介護うつになりやすいタイプ
介護うつは在宅介護をしているかたであれば発症する可能性があるものですが、特に介護うつになりやすいかたも存在します。
責任感が強いかた
真面目で几帳面なかた 完璧主義のかた
もともと気弱な性格をしているかた
そのほかにも、体調が優れないかたや孤独でどんなこともひとりで抱え込みやすいかた、経済的に不安があるかたなども介護うつになりやすいです。
5.介護うつの予防方法
介護うつは介護をする多くのかたに起こり得るものですが、予防することも可能です。
まず、介護をするときはひとりで抱え込まないようにしましょう。
自分や家族だけで考えるのではなく、いろいろな人の意見を聞くようにしてください。
例えばケアマネージャーと話したり、市町村の役場や地域包括支援センターなどで専門家に相談してみるのもよいでしょう。
家族会や認知症カフェなど、介護の関連機関に顔を出して相談するのもおすすめです。
相談はハードルが高いと感じる方は、あいさつをするだけでも「自分はひとりじゃない」と思えて気が楽になり、介護うつを予防しやすくなります。
また、睡眠不足や身体的な疲労などによっても介護うつになってしまうので、よく休むようにしましょう。
介護保険サービスを利用し、在宅介護の負担を和らげるのもおすすめです。
ヘルパーや訪問入浴サービスを依頼すれば、負担を軽減できます。
デイサービスやデイケアを利用して出かけることで、要介護者も介護者もともに気分転換するのもよい方法です。
調理がめんどうであれば宅配弁当をたのむのも良いでしょう。
介護する側が倒れてしまっては元も子もないので、要介護者だけでなく自分自身のケアも忘れないようにしましょう。
趣味を大切にしてストレスを発散したり、SNSで同じ悩みを抱える人の集まりに参加して愚痴を吐き出したりするのも効果的です。
6.介護うつになってしまった場合の対処法
気をつけていたとしても、介護うつになってしまうことはあります。
その場合は、まず自力での介護をやめましょう。
介護うつは介護が原因で引き起こされるうつ病なので、原因である介護をやめることで症状の回復が期待できます。
在宅介護で要介護者のお世話をすべて自分で行なうのではなく、施設に入ってもらいましょう。
一度施設に入ると別の施設に移動することはなかなか難しいため、最初によく考えて要介護者に合う施設を選ぶ必要があります。
新型コロナ対策で面会が思うようにできない施設も見受けられます。入所前に事前に確認することをおすすめします。
施設入所が経済的に難しい場合
施設や介護保険のサービスにお金がかかることから無理に在宅介護を行ない、介護うつを発症してしまうケースもめずらしくありません。
経済的に苦しいかたは、生活保護の申請も視野に入れましょう。
無理してうつになってしまうほど節約する必要はありません。
生活保護を申請すると、介護保険も介護扶助で無料になります。
お金の心配からある程度解放され、生活保護で老人ホームに入るかたもいます。
費用がきちんと入ってくるため、生活保護受給者を受け入れてくれる施設も多くあるのです。
在宅介護をやめることができたら、ゆっくり休んで頑張った自分自身を労ってあげましょう。
その後、なるべく早く精神科を受診するようにしてください。
7.まとめ
介護うつは介護するかたの心身を疲労させ、介護されるかたにも負担をかけてしまいます。
在宅介護によって介護うつを招いてしまう前に、予防策をとりましょう。
介護保険サービスを利用したり施設に入ってもらったりすることで、介護うつのリスクは減らせます。
経済的に不安がある場合は、生活保護の申請も検討してみましょう。
育ててくれた親に感謝をこめて恩返しをしたいという気持ちで在宅介護をするかたも多くいますが、介護うつに苦しみながら在宅介護を続けるのが自分や親のためになるのか、改めて考える必要があります。
親が快適に過ごせる施設を選んであげるのも、立派な恩返しなのではないでしょうか。
ココシニアではご入居者に合った施設選びが行えるサービスもありますので、気になる方はチェックしてみてください。