2021.05.17
ご老人のちょこちょこ歩き。高齢者の歩き方がおかしい原因と病気との関係性を解説します。
皆さんは、高齢者の「ちょこちょこ歩き」や「よろよろ歩き」をみて、「歩き方がおかしいな、病気かな? 」 と不安に思ったことはありませんか?
年齢を重ねると筋肉が衰えて歩行が困難になってしまいます。
今回は、高齢者の歩き方の特徴や、おかしな歩き方の原因についてご紹介します。
また、「歩き方がおかしいな」と思ったときの病院の受診先など、高齢者の歩行に関する注意点を解説します。
ぜひ参考にしてください。
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1.高齢者の歩き方の特徴5つ
高齢者になると筋肉が衰えるため、歩く速さが遅くなったり、歩幅が狭くなったりと歩き方が変化していきます。
ここでは、高齢者になると変化する歩き方の特徴を5つご紹介します。
歩く速さが遅くなる
まず、高齢者の歩き方の特徴として、歩行がゆっくりであることを想像しますよね。
高齢者と一緒に歩くと、ついつい先に行ってしまう方もいるのではないでしょうか。
高齢者では、加齢に伴い歩行速度が低下することがわかっています*1。
また、下記の表で、成人に比べ歩行速度が低下していることもわかります*2。
さらに、歩行速度が横断歩道の青信号を渡りきれない(秒速1メートル未満)状態にまで低下すると、「サルコペニア」という、筋力の低下が生活に支障をきたす病気と診断をされる場合もあります。
20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | 60歳代 | ||
男性 | 3分間の歩行距離(m) | 375 | 360 | 360 | 345 | 345 |
歩行速度(m/分) | 125 | 120 | 120 | 115 | 115 | |
女性 | 3分間の歩行距離(m) | 345 | 345 | 330 | 315 | 300 |
歩行速度(m/分) | 115 | 115 | 110 | 105 | 100 |
表1 性と年代別歩行速度
(健康づくりのための運動指針 厚生労働省)
歩幅が狭くなる
次に高齢者の歩き方の特徴として、1歩1歩の歩幅が狭くなることが挙げられます。
高齢者における 歩幅/歩行率 (SL/WR) を検証した結果*1では、(SL/WR)の値が加齢に伴って低下することから、歩行パターンが「ちょこちょこ歩き」といわれる小刻み歩行に移行することが示されています。
ちょこちょこ歩きは、このように歩幅が狭くなることが原因でみられる歩行状態です。
歩行距離が下がる
高齢者の歩き方では、歩行速度や歩幅が減少するだけでなく、歩行距離も減少してしまいます。
歳を取ると、長時間、長い距離を歩くことができなくなります。
また、長距離を歩くことができないことから、外出頻度が下がってしまい、さらに体力や筋力が低下してしまうという悪循環が起きてしまいます。
前のめりになる
高齢者の歩行特徴として「前のめり」が挙げられます。
高齢になると腰が曲がってきて、猫背で歩く姿が浮かんでくるかと思います。
実際に、身近な高齢者から「背中が痛い」や「背が縮んだ」と言われたことはありませんか?
もしも数日経っても背中の痛みが治らない場合は、「椎体骨折」の可能性もあるため、「前のめり」で歩く特徴には注意が必要です。
足が上がりにくくなる
高齢になると、足を上に持ち上げる筋肉である「腸腰筋」が衰えてきます。
足が上がりにくくなった結果、ちょっとした段差でつまずたり、踏ん張りがきかないためによろけてしまいます。
現在、在宅高齢者の転倒発生率は年間20%程度と報告されており*3,転倒恐怖心が芽生え、閉じこもりからくる身体活動量の低下につながるなど、さまざまな弊害をもたらす社会問題ともいえます。
2. 歩き方がおかしい。こんな歩行が見られる際は要注意
上記では、高齢者の歩き方の特徴をお伝えしましたが、歩き方次第では、病気の前兆である可能性もあります。
ここでは、歩き方と病気の関係性について解説します。
ちょこちょこ歩き(パーキンソン歩行)
特徴
- ・歩幅の狭い「ちょこちょこ歩き」(小刻み歩行)
・直線歩行は容易に行うことができるが、歩き回ることや障害物を避けながら歩くことが困難
・手足が震える
原因
- ・随意運動や眼球運動、学習や記憶のようなさまざまな機能を司る、大脳基底核が機能不全に陥るため、運動が困難になり、動作が過度に遅くなったり、動作が小さくなったりする*4
考えられる病気
パーキンソン病 | 進行性神経変性による運動機能障害を伴う疾患 |
脊髄小脳変性症 | 小脳の神経変性疾患、遺伝性と非遺伝性がある |
線条体黒室変性症 | ふらつきや排尿障害を伴うパーキンソンと類似した障害 |
ウィルソン病 | 肝臓や脳など全身の臓器に銅が蓄積する障害 |
表3 考えられる病気と概要
(歩行障害 香原内科クリニック より作成)
よろよろ歩き(失調性歩行・酩酊歩行)
特徴
- ・ふらふら、不安定でぎこちなく歩く(千鳥足)。
・足元を見ながら両足を開いて、かかとを打ちながら歩く。
原因
- ・脳のバランスをとる機能である小脳が機能不全に陥るため、お酒を飲み過ぎてふらふらと歩くような状態になる*5。
考えられる病気
アルコール中毒 | アルコールの多量摂取による中毒症状 |
脊髄癆(梅毒) | 制感染による梅毒に起因する中枢神経疾患 |
小脳炎、小脳腫瘍 | 小脳の炎症、潰瘍、梗塞などによる疾患 |
糖尿病性仮性脊髄癆 | 糖尿病による末しょう神経障害 |
悪性貧血 | 萎縮性胃炎による内分泌による貧血 |
メニエール病 | めまい・難聴・耳鳴り・耳閉感を伴う内耳疾患 |
椎骨脳底動脈循環不全 | 椎骨動脈の血流悪化による疾患 |
有機水銀中毒 | 有機水銀による構音障害 |
表4 考えられる病気と概要
(歩行障害 香原内科クリニック より作成)
ひきずり歩き・はさみ歩き(痙性歩行)
特徴
- ・つま先を引きずるように歩く
・両脚をハサミのように組み合わせて歩幅を狭くして歩く
・上体が飛び跳ねるように歩く時もある
原因
- ・脳からの命令の刺激を筋肉まで伝達する機能が障害されるため、うまく足が動かすことができず、歩く時に下肢がつっぱってしまう*6
考えられる病気
脳卒中 | 脳血管が破綻した障害 |
脳梗塞 | 頭蓋内に発生する腫瘍 |
脊髄腫瘍 | 脊髄内に発生する腫瘍 |
頚椎脊髄症 | 頚椎の加齢による椎間板の変性疾患 |
筋萎縮性側索硬化症 | 筋肉が痩せていく進行性神経疾患 |
家族性痙性対麻痺 | 痙性麻痺が脚に徐々に起こる遺伝性疾患 |
脊髄炎 | 精髄における炎症疾患 |
表5 考えられる病気と概要
(歩行障害 香原内科クリニック より作成)
3.対応方法と注意点
高齢者の「歩き方がおかしいな」と感じた場合は、医療機関の受診をおすすめします。
例えば、歩き方の変化だけでなく、痛みやしびれ、排尿障害、発熱、性格の変化など他の症状を伴う場合などです。
また、高齢者の治療中の病気により、摂取している薬の副作用から、歩きにくさが出ることもあるため、体の状態についても日頃から確認しておく必要があります。
上記に挙げた、ちょこちょこ歩き(パーキンソン歩行)、よろよろ歩き(失調性歩行・酩酊歩行)、ひきずり歩き・はさみ歩き(痙性歩行)は、どれも脳神経疾患に多い歩行障害です。
これらの歩行障害が確認された場合は、神経内科もしくは脳神経内科で受診して検査してもらうと良いでしょう。
また、総合病院など複数科の受診ができる医療機関の整形外科に相談してみるのもおすすめします。
歩行障害には、心因性のもの*7や原因不明のものもあるため、一概に病名を決めることは難しいですが、身体の変化に気づき、早めに診察を受けることをおすすめします。
歩きはじめや歩行中の転倒に注意する
高齢者の歩行をサポートする際は、両手をとって歩行を促す、階段の昇り降りを介助してあげるなど、歩きはじめや歩行中の転倒に注意をする必要があります。
また、その際に大切なことは、高齢者に歩幅と歩行速度を合わせてあげることです。
無理にリードをしてしまうと高齢者がバランスを崩し、転倒してしまう可能性もあるため、歩調を合わせてあげましょう。
高齢者は長距離を歩くことが難しくなるため、休憩を入れつつ、適度な距離に設定してあげることも重要です。
周りに障害物がないことも確認しておきましょう。
4.まとめ
人間は、年齢を重ねるにつれて、身体機能が徐々に衰えてきます。
身体が前のめりになったり、足が上がらなくなったりするだけでなく、歩行速度や歩行距離が低下したりと高齢者の歩き方は、次第に変化していきます。
また、歩き方次第では、病気の前兆である可能性もあります。
高齢者の歩き方の変化には、高齢者自身だけでなく、周りがいち早く気づき、病院の受診や、介助を率先することが大切です。
さらに、高齢者自身の立ち上がる機会を増やす、歩行器具を使用し訓練をしてあげるなど、習慣的に足腰を鍛える筋トレをしてもらうことも高齢者の生活の質の向上につながります。
自宅で足腰を簡単に鍛える筋トレを以下の記事でご紹介しております。
ぜひこちらも参考にしてください。
*1高齢者の歩行速度、歩幅、歩行率、および歩行パターン 理学療法学 第21巻
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/1994.21.2/0/1994.21.2_417/_pdf/-char/ja
*2 健康づくりのための運動指針 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0719-3c.pdf
*3 平成25年国民生活基礎調査の概況 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/index.html
*4 A. Berardelli, J.P.R. Dick, J.C. Rothwell, B.L. Day, C.D. Marsden, (1986) Scaling of the size of the first agonist EMG burst during rapid wrist movements in patients with Parkinson's disease, Brain, 49:1273-1279.
https://jnnp.bmj.com/content/49/11/1273
*5 Susanne M. Morton & Amy J. Bastian, (2007) Mechanisms of cerebellar gait ataxia, The Cerebellum, 6
https://link.springer.com/article/10.1080/14734220601187741
*6 J Jankovic, J G Nutt, L Sudarsky, (2001) Classification, diagnosis, and etiology of gait disorders, Adv Neurol, 87:119-33.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11347215/
*7高齢者のうつの基礎知識 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/dl/tp0501-siryou8-1.pdf