2021.05.27
QOL(クォリティオブライフ)とは? 幸せな老後の考え方
医療や介護の現場で注目を集めている“QOL(Quality of Life)”という言葉をご存じでしょうか。
ここでは、QOLの意味や定義をはじめ、高齢者の「生活の質」を高め、どんな環境であっても自分らしく長く幸せに暮らすための具体的な施策やおすすめのアイテムをご紹介します。
index
1.QOL(Quality of Life)の意味とは?
QOL(Quality of Life)とは、「生活の質」「命の質」「人生の質」などと翻訳される言葉です。
介護の現場においては、高齢者のQOL=「生活の質」を高めることで、幸せな老後を過ごすことを目標に、このQOLという言葉が重要視されています。
当初は、欧米のがん患者などの臨床評価のなかで行われていたQOLの研究ですが、日本では、1980年代から慢性疾患のある患者を対象に研究が行われていました。
近年では、2000年以降の厚生労働省の取り組みもあり、医療現場のみならず、介護現場や高齢者施設でも、QOLを大切にした取り組みが行われています。
これにより、要介護者本人はもちろん、その家族や関わる人たちみんなで、“高齢者の幸せな老後”について、考える機会が増えてきているのではないでしょうか。
2.世界保健機関(WHO)・厚生労働省での定義は?
お気づきの通り、QOLという言葉が日本に浸透してからの歴史はまだ浅く、現在も各分野におけるQOLの調査・研究は日々進化しています。
ここでは、世界保健機関(WHO)や厚生労働省で定義されているQOLについてご紹介します。
WHOの定義とQOL調査票「QOL26」とは?
世界保健機関(WHO)では、1947年に発表された健康憲章の中で、“健康とは、疾病がないというだけでなく、身体的・心理的・社会的に満足のいく状態であること”と、定義しています。
これが現在のQOLの概念に相当し、生活の質を高めることは、健康で幸せな生活を送る上でとても大切であるとされています。
また、WHOにより発表された調査票「WHO QOL26」には、26の質問が掲載され、身体的領域・心理的領域・社会的関係・環境領域の4つの領域から、幸福感や生活の質を測定することができます。
これは、世界各国で使用されており、日本においても、各自治体の「生活の質」向上への取り組みや調査の重要な指標となっています。
参照:日本WHO協会「WHOとは」
厚生労働省で定められている定義
厚生労働省では、2000年以降、国民の健康づくり対策として、「健康日本21」運動を推進し、健康寿命を延ばし、「QOL=生活の質」の向上を目指した以下の9つの分野の目標を掲げています。
- ・栄養
・食生活
・身体活動
・運動
・休養
・こころの健康づくり
・たばこ
・アルコール
・歯の健康
・糖尿病
・循環器病
・がん
健康におけるQOL指標としては、“健康障害により日常生活に制限がなくとも、生き甲斐を持って自己実現を果たせるような日常生活を過ごしているか否かを評価する“としています。
言い換えれば、病気や身体的障害の有無に関わらず、生きがいや目標をもって充実した生活を送れることこそが、QOLの向上であると示されています。
WHO・厚生労働省の定義や指標を参考にし、要介護者本人やその家族が、QOLの向上を目指して、日常生活で意識したいポイントや目標を定めてみるのもおすすめです。
参照:厚生労働省「健康日本21(総論)」
3.評価指標 評価方法は?
(健康関連QOLの概念図)
青森県立保健大学 健康科学部 理学療法学科「本邦における高齢者の QOL(Quality of Life)研究の潮流と今後の展望 -健康関連 QOL と主観的 QOL を中心に-」よりオリジナル作成
幸福感や満足度といった「QOL=生活の質」は、それぞれの感じ方で大きく異なってきます。
では、どのような指標で評価しているのでしょうか。
ここでは、QOLの評価方法についてご紹介します。
QOLの評価スケール
QOLの評価では、「健康関連のOQL」「健康に関連しないQOL」「生きがい・幸福・人生の満足」と、大きく分けて3つに分類されています。
疾病・医療の介入・社会や環境、特性、宗教や人生観など、さまざまな要因が個人のQOLにどのように影響をしているのかを評価します。
特に、高齢者の「健康関連のQOL」を評価する上では、疾病の種類に関わらず一般的な状態を評価する「包括的(汎用的)尺度」と、疾病の特異症状などを評価する「疾病特異的尺度」の2つの尺度から評価されます。
QOL値を算出する質問票
先に紹介した「WHO QOL26」のほか、世界中でさまざまな算出法が用いられており、厚生労働省では、QOLの指標評価に「the short form 36(SF-36)」や「EuroQol(EQ-5D)」を含む9つの算出法を紹介しています。
ここでは、「EuroQol(EQ-5D)」について紹介します。
厚生労働省では、QOLの調査法は、国際的に標準化された方法を推奨しており、ヨーロッパで開発された「EuroQol(EQ-5D)」は、その条件を満たした調査法といえます。
専門知識がなくても、医療機関でなくても記入ができるのが特徴で、評価の項目属性は、「移動の程度」「身の回りの管理」「ふだんの活動」「痛み╱不快感」「不安╱ふさぎ込み」の5つから評価します。
参照:青森県立保健大学 健康科学部 理学療法学科「本邦における高齢者の QOL(Quality of Life)研究の潮流と今後の展望 -健康関連 QOL と主観的 QOL を中心に-」
4.QOLが低下する原因とは?
QOLが低下する原因は、その人の価値観や幸福感によって変わります。
日常生活において、活動がうまくできないことだけがQOLの低下につながるとはいい切れないのがこの問題の大きなポイントといえるでしょう。QOLが低下する原因を探り、高齢者のQOL低下の要因を減らしましょう。
- <食生活>
食生活の乱れは栄養状態を悪くし、結果として生活習慣病などを発症するリスクが高まります。健康状態を損なうとQOLの低下の原因となります。
<体力と運動量>
体力が落ち、活動量や運動量が減ると、身体的・認知的機能が低下し、QOLの低下の原因となります。
<ADLの低下>
「ADL (Activity of Daily Life)」とは、日常生活に必要な基本動作を表します。食事や着替え、排泄や入浴、移動など、日常生活での可能な動作が低下すると、QOLの低下へとつながりやすくなります。日常生活の自立を促すことで高齢者の生活の質を高めるという考えがある一方で、過度な自立支援は高齢者の楽しみである自分の活動の時間を奪ってしまい、結果としてQOLが低下する原因にもなります。
<疲労とストレス>
心身ともに負担がかかると、高齢者の疲労とストレスにつながり、日常動作の質が低下する原因となり、結果としてQOLの低下の原因にもなり得ます。
5.生活の質の向上を目指す
食生活や体力、ストレスやADLの低下など、さまざまな要因で個々のQOLは低下します。
高齢者のQOLを向上させ、幸せな老後を過ごすためにはどんなサポートが必要なのでしょうか。
ここでは、QOLと密接な関係にある食事や睡眠、健康寿命を延ばすためのポイントについてご紹介します。
QOLと食事の関係
厚生労働省の健康対策でも、QOL向上の指針として掲げられている「栄養」や「食生活」の分野。
食事とは、単に栄養を摂るためのものではなく、食事をすることで得られる美味しい・楽しいといった満足感や幸福感、ともに食卓を囲むことで家族や社会とのつながりを実感するなど、QOLの向上にとても大きな意味を持っています。
中でも五感を刺激する食事は、特にQOLを高めるのに有効であるとされています。
見た目の美しさ、食事の香り、季節を楽しむ食材や調味料など、栄養面だけでなく、精神面においても幸福感を得やすい献立を意識することが大切です。
睡眠はQOLと密接にかかわる
睡眠は、身体機能を正常に保ち、充実した日常生活を送る上で重要な役割を担っています。
また、睡眠の質の高さとQOLには密接な関係があり、生活の質を向上させるなら、「睡眠時間」より「睡眠の質」を大切にすることが重要です。
「高齢者の睡眠状況とQOLの関係」を調査した研究によると、睡眠時間の長さでは活動能力に大きな有意差は認められませんでしたが、主観的睡眠感で「よく眠れる」と感じている高齢者と、「よく眠れない」と感じている高齢者とでは、主観的健康観・生活満足感・生きがい感・人間関係に対する満足感といった項目で有意差が認められています。
これは、質の高い睡眠をしていると感じている高齢者のほうが、日常の満足感が高く、QOLが向上していることを表しています。
一般に平均睡眠時間7時間程度が最も死亡率が低いと言われていますが、QOLの向上を目指すなら、睡眠時間を気にするよりも、自身がよく眠れたと感じられる質の良い睡眠を意識して、睡眠環境を整えることが大切です。
参照:白岩加代子/村田 伸/堀江 淳/大田尾 浩/村田 潤/宮崎 純弥 「地域在住高齢者の睡眠状況と Quality of Life の関係」
QOLと健康寿命
「平均寿命」が世界でもトップクラスの日本において、近年注目をされているのが、「健康寿命」です。
身体に何らかの障害などをもって暮らしている期間も含む「平均寿命」と違い、「健康寿命」とは、“健康で自立して暮らすことができる期間”を指しており、この「健康寿命」を伸ばすことこそが、幸せな老後を暮らすための近道であるといえるでしょう。
終末期におけるQOLでは過ごす時間の質の向上を目指す
病気や老衰などで余命が残りわずかになった高齢者が、残りの時間を自分らしく幸せに生きるための医療を「ターミナルケア=終末期医療」と呼びます。
よく耳にする「緩和ケア」が病気などの苦痛を取り除く医療的ケアが主体なのに対し、終末期の「ターミナルケア」は、治療や延命を目的とはせず、身体的な苦痛を和らげ、精神的不安を取り除き、「QOL=残された命の時間の質」を高めて、本人の望む最期を、より満足感のある時間にすることが求められています。
どこで最期を迎えたいのか、誰と最期の時間を過ごしたいのか。本人の意思を尊重し、在宅・介護施設・病院、それぞれの場所でのターミナルケアのメリット、デメリットを考慮し、本人、家族にとって満足のいく終末期を迎えたいものです。
6.QOLを高める家電、グッズは、若者の注目も集める
QOLを高め、一日でも長く健康で自立した暮らしを過ごすためには、暮らしを快適にする家電、支援グッズの導入がおすすめです。近年若者の間で注目を集めている家電のなかにも、高齢者の生活の負担を軽減し、自立支援やQOLの向上を実現できる家電が数多く存在します。
高齢になってからの料理や掃除は身体的負担も多いため、火を使わずボタンひとつで料理ができる調理家電や、日々の掃除負担を取り除いてくれるロボット掃除機などを導入するのも有効です。
家事負担を軽減させ、その分趣味や楽しみに費やす時間を増やすことができれば、QOLの向上に繋がるでしょう。
また、高齢者にとって負担の多い、重たい食材や日用品の買い出しには、運転に不安を抱えながらも、やむを得ず車を利用しているという人も多くいます。
このような状況は、高齢者本人のみならず、周囲の人々を危険にさらしてしまうリスクもあり、QOLの低下に繋がってしまいます。
もし、車の利用を考えるのであれば、踏み間違いや急発進抑制、ブレーキサポートなどが付いている「サポートカー」を検討し、生活の不安を取り除くのもおすすめです。
離れて暮らす高齢のひとり暮らしの見守りには、「見守りポット」も人気です。日々の健康をチェックし、家族からの声掛けも継続しておくと安心です。
7.介護や看護の現場でも 重要視される動き
昨今、介護や看護の現場では、自分らしく、自立した暮らしをサポートする取り組みが進んでおり、「ADL=日常生活動作」の自立支援を行なうことで、以前の「やってあげる介護・看護」から、「できるように支援する介護・看護」へと変わり、高齢者の健康寿命の延伸、QOL向上を意識した介護・看護が主流となってきています。
一方で、“できることを自身で行ないたい”、“苦手だからやってもらいたい”など、介護や看護サポートへの希望はそれぞれであるため、介護者と要介護者、看護者と要看護者同士でコミュニケーションをとり、個々の理想に寄り添ったサポートが求められています。
8.親が、私が、その人らしく長く暮らせるように
高齢になれば、誰もが考える“幸せな老後の過ごし方”。
生活の質を高め、自分らしく、自立した暮らしを一日でも長く過ごせるには周囲のサポートが必要です。病気や身体の障害などの不調を持っていても、考え方や工夫次第で、人生の質を高めることが可能です。
これからの高齢者介護では、本人の意思を尊重した質の高い老後の時間が過ごせるよう、介護をする家族やスタッフとともに、“個々の理想の老後の暮らし”について話し合い、QOLへの取り組みを進めていきたいですね。
生きがいを感じている人の方が健康で長生きするという調査結果もある中、幸せな老後の過ごし方として、生きがいもつことは非常に大切です。
以下の記事では、高齢期において生きがいを持つことの重要性を説明し、他の人はどのようなことに生きがいを感じているか、また自分にあった生きがいはどのように見つければ良いかについてわかりやすく解説しています。
ぜひこちらも合わせて読んでみてください!