2021.06.07
高齢者が頻発するこもり熱(うつ熱)とは?予防対策・発症時の対処方法を解説!
高齢者が熱を出すことはよくあります。
新型コロナウィルス感染症の流行により発熱患者の受診が以前より難しくなっている2021年時点では、どの程度なら病院に連れて行ったほうが良いのかなど、微熱が出ている高齢者の対処にお困りの方が増えています。
高齢者の熱が全て、感染症などの病気に伴うものというわけではなく、熱をうまく逃すことができないこもり熱(うつ熱)によるものも多いとされています。
この記事では高齢者のこもり熱(うつ熱)の概要、こもり熱と発熱との違い、こもり熱の原因や症状、そしてこもり熱の予防と起きた時の対策、さらに感染対策とこもり熱の関係などについてわかりやすく解説します。
この記事をご覧いただくことによって、高齢者の熱を見ても慌てずに対処をすることができるようになります。
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1.高齢者のこもり熱(うつ熱)とは?
こもり熱は、 身体から熱をうまく放散できないために体温が上がってしまう状態のことを指します。
医学用語では うつ熱(高体温)と呼ばれています。
こもり熱(うつ熱)の特徴
こもり熱は、微熱(37〜38℃)が特徴です。
38℃以上を超えることはありません。
適切な環境調整や水分補給などの応急処置を行っても38℃を超える熱が続く場合は、こもり熱ではなく、感染症など何らかの病気に伴う発熱を考えます。
こもり熱(うつ熱)と発熱の違い
Yuiコール×介護 高齢者のバイタルサイン留意点【正常値・異常値】とは?より作成
http://heiwa-net.ne.jp/care-nursecall/care/vital-signs/
そもそも人間の体温は、 一定の温度になるようにコントロールされています。
脳の中の視床下部(ししょうかぶ)にある体温調節中枢の働きによって、設定温度が決められています。
設定温度よりも体温が高ければたくさん汗をかくなど、身体から熱をいつもより多く放散して逃がし(放熱)、低ければ筋肉を収縮させて熱を発生させたり(産熱)、放散する熱の量を少なくしたりして、常に体温が一定となるように調整されています。
体温の正常値には個人差がありますが、腋窩(えきか;脇の下)で測る体温の平均値は、 成人で36.5℃前後とされています。
高齢者は若者と比べ平熱が0.2℃ほど低い傾向にあり、50歳以下の平均体温が36.89±0.34℃なのに対し、高齢者では36.66±0.42℃でした。
また朝と夜でも体温は異なり、夕方の方が少し高めになることが多いです。
こもり熱と発熱の違いは、体温調節中枢の体温の設定値が高くなるかどうかです。
こもり熱は体温の調節がうまくいかずに体温が上がるだけなので、体温の設定値自体は問題がありません。
それに対し発熱の場合は、炎症の原因であるプロスタグランディンという物質の働きにより体温の設定値自体が高くなってしまいます。
したがって、 熱の放散がうまくできていないこもり熱の場合は手足が非常に熱くなりますが、発熱の場合は、熱があるのに手足が冷たくなることがよくあります。
解熱剤がよく効くかどうかも、こもり熱と発熱では違いが見られます。
解熱剤はプロスタグランディンの働きを抑える薬です。
したがってプロスタグランディンの増加がない こもり熱には解熱剤は効果がない反面、発熱には解熱剤がよく効きます。
2.こもり熱(うつ熱)が生じる原因と症状
こもり熱が生じる原因とその症状について詳しく解説します。
こもり熱(うつ熱)が生じる原因
「こもり熱(うつ熱)と発熱の違い」でも説明しましたが、人間の体温は、体温調節中枢の働きで一定に保たれています。
高齢になると、体温調整機能が低下することにより、身体からうまく熱を逃して体温を下げることができなくなります。
体温調節機能が低下する理由の一つが、感覚の低下です。
暑さ・寒さに対する皮膚の温度センサーが鈍くなり、暑さ・寒さを感じにくくなります。
また暑さ・寒さに対する身体の反応も加齢により鈍くなります。
暑い時には本来は汗をかいたり皮膚の血流を増やして熱を放散するものですが、 高齢者は汗をかきにくく、また皮膚の血流もあまり増えません。
甲状腺機能の低下により寒がりな高齢者も多く、外気温が30℃を超える真夏の暑い日にも寒がってヒーターをつけたり長袖を着込む方もいるほどです。
さらに 高齢者は、脱水になりやすいです。
若者と比べてもともと体内の水分量が少ないのに加えて喉の渇きも感じにくくなっているため、水分補給がうまくいかず体内の水分量がさらに低下するためです。
脱水になるとさらに汗も出にくくなるため、放熱がうまくできなくなり、さらに熱がこもりやすくなります。
➡高齢者の脱水症状について詳しく知る
また、 高齢になると持病が増えてくるのも見逃せません。Shy-Drager 症候群や線条体黒質変性症(SND)などの多系統萎縮症、そしてパーキンソン病、頸髄損傷や全身性無汗症など 自律神経障害をきたす病気の場合、発汗低下による体温調節障害によってうつ熱をきたすことがあります。
これらの持病をお持ちの方は特に注意が必要です。
こもり熱(うつ熱)で見られる症状
- ・微熱(37〜38℃)
こもり熱の症状は、37℃台の微熱です。熱射病の場合を除き、38℃を超える熱が見られることはあまりありません。
- ・身体がだるい、脱力感、めまい、吐き気、頭痛など
脱水による 熱疲労(熱中症II度(中等症))の症状です。
- ・意識障害、けいれん、手足に力が入らないなど
熱射病(熱中症III度(重症))の症状です。38℃以上の高熱とともに呼びかけに答えない、身体全体の震えがあるなどの場合は 命に関わることがありますので、すぐに救急車を呼びましょう。
3.こもり熱(うつ熱)の対策・対処方法
こもり熱を予防するにはどうすればよいか、またこもり熱と思われる高齢者を見かけたらどう対処すれば良いかについて、主なポイントを具体的に説明します。
こもり熱(うつ熱)の予防・対策方法
- ・室温を適正に保つ
高齢者は暑さを感じにくく、寒がりなためクーラーを使いたがらないことが多いです。窓を開けるのすら嫌がる方もいます。
部屋の温度をこまめに測り、 室温が25〜28℃前後となるように調整してあげましょう。
- ・服や布団を着せすぎない
前項と同様に、寒がって真夏に 長袖の服を何枚も重ね着したり、冬物の肌着を何枚も着込む高齢者がいます。
「夜は寒いから」と布団を何枚も重ねて寝ている人もいます。
これらは体に熱がこもる大きな原因となります。
- ・水分を補給し脱水を予防する
高齢者は喉の渇きに気がつかないことが多く、自ら水分を補給することが減っています。
気がつかないうちに脱水となっている方も多いので、「喉が渇いたら飲む」ではなく、 時間を決めて定期的に一定量の水分を飲ませるようにしましょう。
こもり熱(うつ熱)が見られたときの対処方法
- ・まずは環境を見直す
こもり熱を疑う場合はまず、 環境を適正化することが大切です。
クーラーをつけて室温を下げる、外にいる場合は日影に移動し風通しの良い場所で休ませる、厚着をしている場合はやめさせる、締め付けの少ない夏物の衣服を着せるなどの対処を行いましょう。
- ・水分を補給する
脱水があると、汗をうまくかけないために体温が下がりにくくなります。
水分を摂れる状態であれば、 経口補水液や水などを飲ませて水分を補給しましょう。
- ・ぬるめの水を身体にかけて風を送る
水が蒸発する時に熱が下がっていきます。
冷たい水を体にかけると、体の表面の血管が収縮して、かえって熱が逃げにくくなります。
- ・熱が下がらない場合は病院の受診を検討する
こもり熱で体温が38℃を超えることはあまりありません。
上記のような適切な対処をしても体温が 38℃から下がらない場合は、何らかの病気のための発熱を疑います。
また、体力の低下や吐き気などで水分を口から補給できない場合は点滴が必要となります。
4.感染予防と熱中症
夏でも常にマスクなどの感染予防対策が必要な昨今、例年以上に熱中症を発症する危険性が高まっています。
さらに緊急事態宣言による外出自粛の影響などで、例年なら5月くらいから少しずつ行っている暑熱順化(しょねつじゅんか;暑くなりはじめの時期に少しずつ外に出て運動することで身体を暑さに慣らすこと)ができておらず、 熱中症になりやすい状態となっています。
マスクをしていると、マスク越しに吸い込む空気が温かくなるため、体内に熱がこもりやすくなります。
口元の温度が3℃ほど上がるという報告もあります。
また呼吸をするのに多くのエネルギーを使うため、心拍数や呼吸数が少し増え体温が上がりやすくなるとされています。
さらにのどの渇きも感じにくくなり、知らないうちに脱水が進んでいきます。
気温が急激に上昇すると、ますます熱の放散がうまくいかなくなり、熱中症になる危険性が高くなります。
夏場は感染対策にもメリハリをつけ、例えば 人のいない公園への散歩などの際にはマスクを外す、のどが乾いていなくても定期的に水分を補給するなど、熱がこもりにくいように配慮して熱中症対策を行いましょう。
発熱で気軽に病院にかかることが難しい現在、まずはご自身の平熱を知るということが大切です。
5.まとめ
高齢者のこもり熱とは何か、こもり熱が生じる原因と症状、こもり熱の対策・対処方法、感染予防と熱中症について解説しました。
新型コロナウィルス感染症の流行により発熱症状での受診が以前より難しい昨今、 こもり熱を起こさないこと、こもり熱と病気による発熱の区別をきちんとつけること、そしてこもり熱が生じてしまった場合の応急処置を覚えておくことが大切です。