2021.06.30
特別養護老人ホームとは?入居条件や費用・保険適用について
入居待ちが長いといわれる人気の特別養護老人ホーム。
その人気の理由はどこにあるのでしょうか。
介護施設としての特徴やほかの施設との違い、入居基準、費用、入居待ちの状況などについてお伝えします。
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特別養護老人ホームとは
特別養護老人ホームとは、自治体や社会福祉法人などによって運営されることが多い、公的な介護施設で「特養」と呼ばれます。
施設の運営に補助金が使われるため、民間の介護施設に比べて費用が安いことに加えて、認知症や看取りにも対応する施設があることから人気が高く、常に入居待ちをするといわれています。
厚生労働省が定める介護保険が適用される公的施設は、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の他に、介護老人保健施設(老健)や介護療養病床、介護医療院があります。
老健は在宅復帰を目指すかた向けのリハビリテーション、介護療養病床と介護医療院は、在宅復帰が難しく長期的な療養を必要とするかた向けの施設です。
特別養護老人ホームの目的や役割について
特別養護老人ホームには、似たような名前の施設がいくつもあり、ややこしいという印象を受けることがあるかもしれません。
そこで、特別養護老人ホームの目的やその役割を知るところからはじめて、ほかの施設との違いを理解していきましょう。
特養の目的は「介護」
1963(昭和38)年に老人福祉法が定められ、高齢者福祉施設として特別養護老人ホームや養護老人ホームが規定されました。
特別養護老人ホームは、老人福祉法第20条の5に、その目的が定められおり、介護が必要なかたを受け入れる施設で、主な目的は介護です。
自宅での介護が難しいかたが必要なサービスを受けながら日常生活を送れるようにすることを役割とします。
このような特徴から、リハビリテーションや看取りに対応している施設もあることに加え、日々を楽しむためのさまざまなレクリエーションが提供されるのです。
同じ「老人ホーム」でも違う。養護老人ホーム、有料老人ホーム
特別養護老人ホームは、養護老人ホームや有料老人ホームとも異なります。
養護老人ホームは、生活環境や経済的な理由などにより、家庭での生活が困難な自立しているかたを受け入れる施設で、その目的は養護です。
社会参加など、高齢者が自立した生活を送れるようにすることを役割としています。
有料老人ホームとの大きな違いは、運営事業者とサービス、費用で、有料老人ホームは民間事業者によって運営されるため、さまざまなサービスがある一方で費用は高めです。
養護老人ホームは、心身または環境、経済的な理由により、家庭での生活が難しい高齢者を受け入れる施設になります。
特養の特徴は居室
特別養護老人ホームの大きな特徴として、居室が挙げられます。
多床型とユニット型の2種類があり、どちらも食堂やリビングなどは共用ですが、多床型は4人などの相部屋、ユニット型は個室です。
比較的費用が安いにもかかわらず個室が選べるということもあって、ユニット型が主流になってきています。
介護施設の種類や特性については、こちらの記事も参照ください。
➡厚生労働省が定める介護施設の種類を知る
入居基準や対象者について
特別養護老人ホームの入居基準や対象者について見てみましょう。
入居には、要介護度が影響します。
原則として、要介護3以上の認定を受けたかたですが、特例(例外)もあります。入居基準は次の3つです。
入居基準
- 65歳以上で要介護3以上のかた
- 特定疾病と認められた40~64歳までで要介護3以上のかた
- 特例により入居が認められた要介護1~2のかた
特定疾病とは、国が定める16種類の病気をさします。
要介護1~2のかたの場合、特例の条件は次の4つです。
いずれも家庭での介護が困難と認められる場合とされています。
特例条件
- 認知症で、頻繁に日常生活に支障をきたすような症状や行動、意思疎通の困難がある
- 知的障害や精神障害などから、頻繁に日常生活に支障をきたすような症状や行動、意思疎通の困難がある
- 家族などによる深刻な虐待の可能性があり、心身の安全・安心の確保が困難
- 単身世帯、同居家族が高齢または病弱などの理由から、家族などによる支援が期待できず、かつ、地域での介護サービスや生活支援の供給が十分に認められない
看護師不足で医療行為を受けられるところは少ない
特別養護老人ホームで医療行為を受けられるところは多くありません。
それは、特別養護老人ホームが介護に重点を置く施設だということに加えて、看護師不足もあるからです。
医師と看護師の配置基準はありますが、医師は常勤とは限らず、看護師も夜間に常駐していないことがあります。
医療の依存度が高いかたの入居を考えていて、医療行為が施設選びに欠かせない場合、医師や看護師、リハビリを担当する理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などがいるかどうかを確認しましょう。
施設によっては、看護師が常駐していない場合も、訪問看護ステーションと連携をとっているところもあるので、併せて確認しましょう。
通常の介護職員による医療行為は限られています。
認定特定行為業務従事者の認定を受けた介護福祉士が、講習を受け、医師の指示書や看護師による毎日の確認、委員会の設置などの基準をクリアできれば、喀痰吸引(痰の吸引)と経管栄養(チューブやカテーテルによる栄養剤の注入)は可能です。
もともと人気の特別養護老人ホームですが、さらに医療行為も手厚い施設となると、入居待ちが長くなる可能性は否めません。
早めの準備をおすすめします。
特別養護老人ホームの入居にかかる費用・相場
特別養護老人ホームの入居には、どのような費用がどれくらいかかるのでしょうか。
その相場を見てみましょう。
月額いくら?どれくらいの資産・預貯金があれば大丈夫?
入居にかかる費用は、基本的に月額利用料のみとなります。
ほかの介護施設によくある入居一時金などの初期費用はかかりません。
月額利用料は、入居者を扶養する家族などの収入に応じて決まります。
居室のタイプ別月額利用料の目安はおおよそ次のとおりです。
- ・多床型:約9万円
- ・ユニット型個室:約13万円
入居費用以外にかかる費用としては、医療体制の充実や夜間に常駐する看護師、個別機能訓練の人員、看取り対応が可能な施設には加算があり、サービスが手厚くなる分、費用負担が多くなります。
厚生労働省の「平成30年度介護給付費等実態統計」をもとに計算すると、1年間で利用者1人あたりにかかる費用の平均は約273万円でした。
また、看取りまで行う特養の平均在所期間は約4年となっています。
要介護度などにより個人差がありますので、あくまでも参考程度に留めてください。
参照:厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」
「介護老人福祉施設(参考資料)」
減免・補助金・介護保険適用の有無について
民間事業者が運営する有料老人ホームなどに比べて費用が安い特別養護老人ホームですが、それでも月額利用料に含まれない費用や介護保険適用外のサービスを利用した場合などには実費がかかります。
具体的には、次のようなものです。
実費一覧
- 食費
- 日用品代
- レクリエーションや趣味教養にかかる実費
- 理美容代
- 交通費など(おむつ代は月額利用料に含まれる)
経済的な負担が大きくなってしまった場合、費用の減免を受けられるように以下の4つの制度があります。
費用減免に関する制度
- 負担限度額認定
- 高額介護サービス費
- 高額医療・高額介護合算療養費制度
- 利用者負担軽減制度
負担限度額認定とは、特別養護老人ホームでかかる食費などの実費(自己負担額)を軽減できる制度です。
低所得者が対象で、収入に応じて実費の負担上限金額(限度額)が設けられます。
残りは介護保険から支払われます。2015年7月までは世帯分離をすれば入居者の配偶者はこの制度を利用できましたが、同年8月以降は利用できなくなっています。
高額介護サービス費とは、1か月あたりの介護保険の利用額が高額になった場合、負担が軽減される制度です。
介護保険では、介護保険が適用されるサービスを利用した場合、1か月あたりに自己負担する金額の上限が定められています。
自己負担額が上限を超えて高額になった場合、超過分が介護保険から払い戻しされるという仕組みです。
自己負担上限額は、収入によって変わります。
高額医療・高額介護合算療養費制度とは、1年間の医療費と介護費の自己負担額が高額になった場合に、負担が軽減される制度です。
利用するには一定の条件があります。
ここまでの3つはすべて介護保険が関係しますので、詳しくはお住まいの市区町村にご確認ください。
利用者負担軽減制度とは、低所得者を対象として、社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームの利用者負担の軽減措置です。
収入や扶養能力のある親族の有無などにより、利用できるかどうかが判断されます。
なお、介護保険サービスには医療費控除の対象となるものがあります。
確定申告をして所得控除を受けたいかたは、国税庁のホームページをご確認ください。
参考:国税庁「No.1127 医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価」
費用が払えない、生活保護受給者でも入居可能?
毎月の費用が払えないというかたや生活保護受給者でも、特別養護老人ホームに入居することは可能です。
公的施設ですので、低所得者が入居できるような料金体系になっていますし、経済的負担を軽減する制度もあります。
しかし、常に人気で入居待ちが発生しているため、すぐに入れない可能性があることを想定し、それに備えておくことも大切です。
特別養護老人ホームへの申し込み方法
特別養護老人ホームへの入居申し込み方法を確認しましょう。
必要な書類・手続き
入居の申し込みにはまず、入居希望施設から申込書を取り寄せます。
取りに行く、郵送を依頼することに加え、インターネット経由で入手できる施設もあります。
申込書を記入のうえ、必要書類を添付して提出してください。
介護保険証や介護認定調査表のコピーに加えて、医師などの意見書、直近数か月のサービス利用状況を示すものなど、市区町村や施設によって必要書類は異なります。
申し込みは施設ごとに必要です。
市区町村による審査結果を受け、入居することが決まったら、施設と相談して入居日を調整します。
健康診断書や身元保証書など、入居に際して必要な書類もありますので用意しましょう。
重要事項の説明を受け、契約書を交わしたら、入居手続きは完了です。
入所申込者の状況
特別養護老人ホームの場合、入居審査の結果で入居待ちの通知を受け取ることもあります。
入居待ち(入所申込者数)は、2019年末の時点で29.2万人という多さでした。
これは要介護3~5のかたの人数で、要介護1~2のかたの特例入所対象者数3.4万人を合わせると、32.6万人になります。
2015年4月の改正で入居基準が要介護3以上に引き上げられた結果、入居待ちは大幅に減りましたが、それでもこれだけたくさんのかたが入居待ちをしているという現状です。
【まとめ】特別養護老人ホームのメリット・デメリット
特別養護老人ホームをさまざまな面から見てきました。
施設の特徴や入居基準、費用などから総合的に検討してみると、その人気の理由がわかります。
最後にメリットとデメリットを簡単に振り返ってみましょう。
メリット
メリットはやはり費用(月額利用料)の安さです。
入居に際してまとまった金額の初期費用がかからないことや所得に応じた費用という点も魅力といえます。
補助金を受けている公的施設ですから、設備や人員、提供されるサービス、事業の安定性に対する安心感もあります。
認知症や看取りに対応し、入居者が終身で利用できるというのも大きなメリットといえるでしょう。
デメリット
特別養護老人ホームのデメリットといえば、原則として要介護度3以上のかたしか入居できないことや、医療体制のバラつき、限界が挙げられます。
しかし、それを差し引いたとしても人気の施設に間違いはありません。
入居までに時間がかかりますので、ほかの施設の検討も視野に入れておきましょう。
介護施設選びについては、こちらの記事も参照してください。