2021.10.05
認知症がおとなしくなる薬とは? 薬の種類やメリット・デメリットご紹介
皆さんは、最近、認知症で新薬が開発されたことをご存知ですか?
新薬により、認知症患者の認知機能の低下の抑制を期待することができますが、これらの薬には、人工的な化学的物質が使用されています。
そのため、皆さんがより良い選択を行うためにも、薬を使用することによるメリットとデメリットを理解することが重要になります。
今回は、認知症への対応方法に悩んでいる方のために、薬の種類や、メリットとデメリットをご紹介します。
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1.大人しくなる?認知症の方へ投与される薬の特徴
最近では、認知症の治療薬として承認されている物質も増えてきています。
ここでは、認知症と薬の関係、そして最近開発された新薬についてご紹介します。
認知症と薬の関係
世界では、約5000万人が認知症を患っており、この数は2050年までに1億5200万人に増加すると予測されています。
皆さんの脳には、学習や記憶に携わる神経細胞が1000億個以上もあり、それぞれの神経細胞が網のようにつながって存在しています。
しかし、脳内に「アミロイドベータ(Aβ)」という、有害なゴミが溜まることにより、神経細胞が徐々に死に至ります。神経細胞の死は、思考力や記憶力の低下を引き起こし、認知症を発症します。
現在、この有害なゴミに関する知見や、認知症の発症メカニズムについての理解は進んでおり、あらゆる予防策が示唆されていますが、治療としては対症療法のみで、神経細胞を保護する根本的な認知症の治療薬は見つかっていないのが現状です。
認知症に対する薬の効果
現在、認知症に効果があるとされている薬には、根本的に認知症の進行を止める作用はないため、薬を接種したとしても最終的に認知症は進行してしまいます。
また、記憶障害や行動障害を劇的に改善させるほどの効果も期待できません。
しかし、脳内で生き残っている神経細胞を活性化させ、覚えたり考えたりする働きをある程度保つことができる可能性があり、日常生活のイライラや不安を減少させることによって生活の質を上げる効果が期待できます。
新薬について
最近話題になっている認知症の薬に「アデュカヌマブ」という薬があります。
これは、軽度のアルツハイマー病患者を対象に、脳内に蓄積する有害なゴミである「アミロイドベータ(Aβ)」を標的とする抗体です。
臨床試験において、軽度アルツハイマー患者の脳内のアミロイドベータ(Aβ)を除去し、脳機能の悪化を有意に遅らせることができたと示されています。
現在、アデュカヌマブは、バイオジェンとエーザイ株式会社によって厚生労働省に新薬として新薬承認を申請しています。
参考:アデュカヌマブ 日本において新薬承認を申請 エーザイ株式会社
https://www.eisai.co.jp/news/2020/news202083.html
2.認知症がおとなしくなる精神治療薬の特徴
認知症の症状のなかには、中核症状といわれる、見当識障害や記憶障害の進行に加え、認知症患者の知覚や気分、行動障害などのBPSD(行動・心理症状)があります。
BPSDには、意欲低下や抑うつ状態などがありますが、これらの精神的な症状を緩和する薬として、代表的な精神治療薬をご紹介します。
精神治療薬の種類
精神疾患があらわれる症状として「うつ病」や「てんかん」などが挙げられます。
抗うつ薬としては以下の薬が一般的です。
<抗うつ薬>
- セロトニン再取り込み阻害薬
代表的な物質:paroxetine
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
代表的な物質:milnacipran
また、中年期の難聴は、認知症の症例の9%を占めるため*6、疾患負担が示唆されています。
難聴からくる不安障害にも抗うつ薬が用いられており、さらには、暴力や暴言に、抗てんかん薬が用いられています。
抗うつ薬
症状:うつ病、難病に対する不安障害
効果:落ち着かせる、やる気を出す
代表的な物質:paroxetine,milnacipran
抗てんかん薬
症状:気分の安定、痙攣(けいれん)
効果:筋弛緩作用、痙攣の抑制
代表的な物質:carbamazepine,phenobarbital
睡眠薬
症状:眠れない、寝つきが悪い
効果:不眠の改善、寝つきの改善
代表的な物質:benzodiazepine,nobensodiazepine
参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17459550/
精神治療薬のおもな副作用
精神治療薬は、著しく効果を発揮しますが、以下のような副作用も見られます。
<副作用の一覧>
- 抗うつ薬
吐き気、食欲不振、便秘、頭痛など
- 抗てんかん薬
眠気、食欲不振、脱力感、ふらつきなど
- 睡眠薬
物忘れ、ふらつき、転倒など
日常生活に及ぼす影響・注意点
これらの精神治療薬の服用は、日常生活に少なからず影響を及ぼすため、注意が必要です。
幻覚、妄想
精神治療薬の服用により、幻覚や妄想を引き起こす方もいらっしゃいます。
また、作用時間や効果の度合いには個人差があるため、精神治療薬の服用の際は、周りの方が本人の変化にいち早く気付いてあげられるようサポートしてあげましょう。
薬の管理に気を付ける
施設などで精神治療薬の服用を行っている場合、誤って他の人が服用しないように薬の管理に気をつけましょう。
また、小さなお子さんのいらっしゃるご家庭では特に注意が必要です。
3.症状がおとなしくなる認知症治療薬の特徴
認知症治療薬は、認知症の原因によって使用される薬が異なります。
認知症に対する薬物療法は大きく分けて、中核症状の進行を抑えることを目的とした「認知機能改善薬」と、前項目でご紹介した、行動・心理症状の軽減を目的とした「精神治療薬」に分けられます。
ここでは、中核症状の進行を抑えることを目的とした「認知機能改善薬」の代表的な種類と特徴についてお伝えします。
認知症治療薬の種類
認知機能改善薬には、以下のものが代表的です。
<認知症治療薬>
- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
認可されている薬:ドネペジル、ガランタミン、リパスチグミン
- NMDA受容体拮抗薬
認可されている薬:メマンチン
効果
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、学習や記憶、覚醒などに関わる神経伝達物質のアセチルコリンの分解を抑制し、脳内のアセチルコリン濃度を高めることで、中核症状の進行を抑制します。
同様に、神経伝達物質に作用する認知機能治療薬に、「NMDA受容体拮抗薬」があります。
これは、興奮性の神経伝達物質である、グルタミン酸に作用して、過剰な興奮を抑制することができます。
これらの認知機能改善薬は、あくまでも中核症状を比較的軽度な状態に維持するものであり、根本的に認知症の進行を抑制するものではありません。
参考:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1740677304000063?via%3Dihub
認知症治療薬のおもな副作用
これらの認知機能改善薬の副作用には、吐き気、食欲不振といった、消化管に対する副作用や、めまいやふらつき、歩行障害なども示唆されています。
<副作用の一覧>
- アセルコリンエステラーゼ阻害薬
吐き気、食欲不振、歩行障害
- NMDA受容体拮抗薬
めまい、眠気
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤とNMDA受容体拮抗剤は、作用する神経伝達物質が異なるため、これらを併用して用いることもありますが、適切な治療薬を担当のお医者様と相談して処方してもらうことが大切です。
日常生活に及ぼす影響・注意点
これらの認知機能治療薬の服用にあたり、日常生活に及ぼす影響と注意点を解説します。
ふらつき、立ちくらみ、歩行障害
高齢になると、骨がもろくなるため、店頭がきっかけで骨折したり、寝たきり状態になってしまったりする可能性もあります。
特に女性は閉経後、骨粗しょう症になりやすいため、転倒への注意が必要です。
食欲不振、便秘
薬は胃や小腸で吸収されるため、消化器の副作用が多くみられます。
体に合わない薬により食欲不振や便秘などが続く場合、お医者様に相談しましょう。
また、自己判断での薬の中断は行いようにしましょう。
4.認知症がおとなしくなる漢方薬の特徴
これまでご紹介した、認知機能改善薬や精神治療薬は、症状を抑えるための「西洋薬」といわれています。
最近では、身体全体を整える効果があるとして知られている「漢方薬」にも、認知症への効果があることが報告されています。
漢方を飲むと、なんとなく体の調子が良い、生理不順が治ったなどという言葉をよく耳にしますよね。
実際に、このなんとなく効果があるということは、科学的にも証明されつつあります。
ここでは、漢方薬の特徴、及び認知症と漢方薬の関係についてご紹介します。
漢方薬の種類
現在、中国伝統医学(TCM)で知られる多くの薬草成分が、記憶や認知機能の改善のため、認知症に効果がある漢方薬として使用されています。
実際に、認知機能を改善するとされる、139種類の薬草と236種類の成分が特定されています。
そのなかでも、記憶力を向上させると同定されている薬草トップ10をご紹介します。
記憶力を向上させる薬草トップ5
順位 | 薬草 |
一位 | 茯苓(ブクリョウ) |
二位 | 人参(ニンジン) |
三位 | 遠志(オンジ) |
四位 | 甘草(リコリス) |
五位 | 当帰(トウキ) |
漢方薬のおもな副作用
漢方薬の副作用は、胃もたれがありますが、基本的に飲むのを止めることで治まります。
また、人によっては、むくみや血圧上昇などが起こる方もいるため、自分にあった薬草を調合してもらうのが良いでしょう。
漢方薬の薬草のなかでも副作用を起こしやすいものを以下に挙げます。
<副作用の一覧>
- 防風通聖散、大黄甘草湯
腹痛、下痢、食欲不振
- 芍薬甘草湯
むくみ、血圧上昇
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/56/5/56_5_797/_article
日常生活に及ぼす影響・注意点
漢方薬の服用にあたり、日常生活に及ぼす影響と注意点をお伝えします。
効果が分かりづらい
症状に対して、人工的に化学合成し、強い薬理作用を発揮する西洋薬に対して、漢方薬は天然の薬草を使用しています。
そのため、症状に対する効果は、西洋薬に比べて弱くなってしまいます。
しかし、副作用もほとんどなく、使用しやすいのが特徴的です。
漢方薬の効果を高めるためには日頃の生活習慣も重要
漢方は、身体全体の調子を整えるため、少しでも症状がよくなるようにするためには、英気を養い、養生することが必要です。
まず食事、運動、睡眠の生活習慣が乱れを治すことからはじめましょう。
5.認知症がおとなしくなる非薬物療法の特徴
非薬物療法とは、薬物を用いない治療的な効果のあるアプローチ方法で、リハビリテーションのほかに、心理療法や運動療法、音楽療法などが挙げられます。
また、これらのなかにはグループ活動を通して行うこともできるプログラムもあるため、他の人とのコミュニケーションを促すことで、脳を活性化し、認知症の方の心身の健康を促進します。
非薬物療法の種類と効果
・認知機能のリハビリテーション
リハビリテーションは、個人の能力を最大限に引き出し、生活の質(QOL)を達成することを目的としており、そのなかでも認知機能のリハビリテーションでは、「脳トレ」といわれるような脳を活性化するゲームやパズル、麻雀などを利用して認知機能の維持や回復を目指します。
実際に、脳トレが物忘れの改善に効果的であることが報告されています。
高齢者におすすめの脳トレアプリについては以下の記事をご覧ください。
➡高齢者・中高年向け「脳トレ」アプリオススメ5選!スマホで脳トレを
・生活リハビリテーション
生活リハビリテーションは、食事や入浴、洗濯などの日常生活における動作そのものをリハビリテーションとしてとらえ、自立した生活を支援する考え方です。
介護従事者が、本人ができることや、やりたいことを見出し、日常生活の自立と身体的機能の維持、向上をサポートします。
特に、日常生活で役割を与えることや、出番を確保することで自分の存在意義を確認し、自発性を引き出すことが重要になります。
・音楽療法
音楽療法は、健康状態や課題のヒヤリングをもとにたてられた目標をもとに楽曲提供を行い、実際に対象者に歌ってもらったり、演奏してもらったりするなどの主体的なアプローチ(能動的音楽療法)から、音楽鑑賞などの受動的に行うアプローチ(受動的音楽療法)までさまざまです。
音楽療法士によるサポートのもと行われ、音楽を通して心身の障害の機能回復及び対象者のQOLの向上を目指します。
特に、認知症患者さんにおける音楽療法の効果は数多く報告されています。
高齢者におすすめの脳トレアプリについては以下の記事をご覧ください。
➡効果的な音楽療法のやり方とは?実践例付きで解説します。
薬物療法との比較
症状に対して、直接的な効果を発揮する薬物療法は、症状を緩和してくれる一方で、人工的な化合物の摂取は副作用などの危険が伴います。
さらに、高齢になると処方される薬が多くなり、複数の薬による副作用が起こりやすくなるため、注意が必要になります。
通常、摂取した薬は、胃や小腸で吸収され、血液にのって全身に運ばれ、効果を発揮し、肝臓で分解され、腎臓から排泄されるという流れを辿ります。
しかし、高齢者になると、肝臓や腎臓の機能が低下して、代謝や排泄までの時間がかかるようになります。
そのため、体内での薬の滞在時間が長くなり、薬が効きすぎてしまうことがあるのです。
このようなことを避けるためにも、非薬物療法をおすすめします。
また、非薬物療法を積極的に取り入れることで、認知症の進行を促してしまう「なにもしないでもいい」という状況を回避することができるのです。
6.まとめ
今回は、認知症がおとなしくなる薬、及び薬物療法のメリットやデメリットをご紹介しました。
薬物療法だけでなく、非薬物療法を組み合わせて治療を行うことも可能です。
認知症の治療法は、本人をよく観察し、本人の体調や様子に合わせて選択する必要があります。
もっと詳しく知りたい方は、ココシニアの認知症関連記事を参考にされてください。