2021.12.13
高齢者の不安神経症の対応方法とは?症状の特徴や種類、適切な対応方法を解説します。
皆さんは、「不安神経症」という言葉をご存知ですか?
ストレス社会といわれている現在、不安神経症患者は増加傾向にあります。
また、不安神経症は若者に比べ、高齢者に多く、
「元気がない親を見るのがつらい」
「不安神経症への対応方法がわからない」
「どのように治療するのかわからない」
という声が多く挙げられています。
今回は、不安神経症の特徴や種類、高齢者の不安神経症の対応方法をご紹介します。
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1. 高齢者の不安神経症とは
不安神経症とは、不安や恐怖を過剰に感じてしまい、日常生活に支障をきたす病気のことをいいます。
人生において、誰しも不安や恐怖を感じることはありますよね。
例えば、大切な試験や面接、結婚式、健康診断など、人によって不安を感じるタイミングは異なりますが、不安の感情が生じることはごく普通のことです。
しかし、不安や恐怖をコントロールすることが難しく、コントロールできない不安がずっと続いてしまうと、パニック障害や社会不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、さまざまな疾患につながってしまうのです。
高齢者における不安神経症も重要な問題の一つです。
高齢になると、これまで自由に動かすことができていた身体が不自由になってきます。
また、認知機能の低下も顕著になり、周囲の人の助けが必要になってきます。
心身ともに不自由になっていく不安だけでなく、「老後の医療費が心配」「子どもに迷惑をかけたくない」など、老後の生活、将来への不安など、不安につながる要因が増え、心身ともに不安を感じやすくなってしまいます。
そのため、不安神経症は、若者に比べ、高齢者で多く見られることが報告されています。
また、高齢者の不安は、一時的なものでなく、慢性的なものであるという特徴もあるため、長期的なサポートが求められます。
参考: Anxiety disorders in older adults: a comprehensive review. Depression and Anxiety.
2.高齢者の不安神経症の種類
高齢者の不安神経症には、主に以下のような疾患が挙げられます。
抑うつ神経症
抑うつ神経症とは、軽いうつ状態(何もする気が起こらない、気分が落ち込むなど)が続き、さまざまな身体症状や精神症状が生じる障害です。
精神症状のなかには、何をするにも意欲が低下し、これまで好きだったものへの興味を失う、家族や友人などに心を閉ざしてしまうなどの行動が現れます。
身体症状には、食欲が低下し、吐き気がでてくるなどの症状に加え、めまいやふらつき、頭痛が生じることもあります。
また、人によっては慢性的な睡眠障害、倦怠感だけでなく、脅迫症状やヒステリー症状を伴うことが多いのも特徴です。
不安障害
不安障害とは、発作のような明確な症状が出なくとも、慢性的に不安な気分が続き、それが身体症状や精神症状として現れる障害のことをいいます。
高齢者のなかには、なんとなく落ち着かず、じっとしていられなくなる、漠然と不安を感じ、物事に集中できなくなるといった精神症状が現れます。
そのため、不安障害の方のなかには、介護施設で周囲の人ととうまくコミュニケーションがとれない、という方も珍しくありません。
また、精神症状とともに起こる身体症状として、吐き気、下痢、手足の震え、動悸息切れなどが挙げられます。
不安障害は慢性的なものであり、症状がわかりにくいため、「ただの心配性」と捉えられ、家族に気付かれないこともあるため注意が必要です。
心気症
心気症とは、医師による診察で明らかな身体的疾患がないにもかかわらず、病気について過度に心配し、自分には診断されていない身体的疾患があると思い込む精神疾患と認識されています。
強い思い込みにより、病院や医者を次々に変えてしまい、自らの体調に固執してしまうため、行動範囲や人間関係が狭くなり、孤立してしまうことが懸念されています。
心気症は、明確な精神疾患とは見なされておらず、根底にある発症メカニズムは明らかになっていませんが、不安障害と似た症状を示すことから、精神疾患の一部として考えられています。
3.高齢者の不安神経症の対応方法
高齢者の不安神経症への対応方法には、主に精神療法、薬物療法、環境調整が挙げられます。
ここでは、具体的な対応方法をお伝えします。
精神療法
高齢者の不安神経症に対する精神療法には、主に認知行動療法が用いられています。
認知行動療法は、「精神障害や心理的苦痛が、認知要因によって維持される」という考え方を前提とする治療法です。
具体的には、不安や心配の原因である出来事や、そのときの自分の感情を紙に書き出し、医師やカウンセラーと一緒に振り返るということりを行います。
これを繰り返し行うことにより、本人の考え方や物事の捉え方の癖が見えてくるようになります。
そしてこの癖を徐々に変化させることによって精神障害や心理的な苦痛からの回復を目指していきます。
認知行動療法は、疾患の回復力の高さと、再発の低さが報告されており、副作用もなく、予防的な治療としても有効な精神療法です。個人で行うだけでなく、集団や家族を対象に行うこともできます。
薬物療法
薬物療法には、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と呼ばれる抗うつ剤が使用されています。
これらの薬の効果として、不安障害から起こる痙攣の抑制や、気分の安定などが挙げられます。
薬物療法により、多くの人が不安をコントロールできるようになりますが、食欲不振、脱力感、眠気などの副作用もみられるため、薬物療法を取り入れる際は、低容量からはじめましょう。
また、長期服用した患者さんによっては、薬物中断により症状が悪化する可能性もあります。
薬物開始や薬物中断のタイミング、薬の量、期間など注意が必要になります。
治療によっては、薬物療法の長期間の継続が必要な場合もあるため、認知行動療法などの精神療法と併用しつつ行うことで、より効果的な治療となることが報告されています。
参考: The effect of cognitive behavioral treatment on the positive symptoms of schizophrenia spectrum disorders: A meta-analysis. Schizophrenia Research.
環境調整
不安神経症の対応法として、環境調整も重要になります。
日頃の食生活の見直しや、睡眠時間の確保に加え、日光を浴びる散歩や軽い運動するなど、少しずつ社会的な関わりを増やしていくことも大切です。
喫煙も不安障害との関連性も高いことがわかっているため、喫煙者の場合は、喫煙を控えましょうることをおすすめします。
また、不安神経症では、本人が自暴自棄になったり、自分を責めたりすることがないよう、周囲の人の支援が必要となります。
4.対応時の注意点
症状に対して、直接的な効果を発揮する薬物療法は、症状を緩和してくれる一方で、人工的な化合物の摂取は副作用などの危険が伴います。
さらに、高齢になると処方される薬が多くなり、複数の薬による副作用が起こりやすくなるため、注意が必要です。
薬物療法の注意点については以下の記事をご覧ください。
➡認知症がおとなしくなる薬とは? 薬の種類やメリット・デメリットご紹介
また、高齢者の不安神経症においては、社会性の回復を観点にアプローチすることもあります。
高齢者の不安神経症は高齢になったことによる孤独感と喪失感により引き起こされてしまいます。
そのため、人との関わりが少ない在宅での一人暮らしなどををしていると悪化してしまうことも。
そこでおすすめしたいのが介護施設への入居を通じた、生活リハビリテーション。
生活リハビリテーションは、食事や入浴、洗濯などの日常生活における動作そのものをリハビリテーションとしてとらえ、自立した生活を支援する考え方です。
介護従事者が、本人ができることや、やりたいことを見出し、日常生活の自立と身体的機能の維持、向上をサポート。
特に、日常生活で役割を与えることや、出番を確保することで自分の存在意義を確認し、自発性を引き出すことが重要になります。
介護施設への入居、集団生活の中で生じる社会的なコミュニケーションを増加させることは、高齢者の不安神経症への対応方法として、最適なものの1つとなりえます。
5.まとめ
今回は、高齢者の不安神経症についての概要と対応方法をご紹介しました。
不安神経症は、「考えすぎ」や「心配性なだけ」と思われることも多く、周囲の人に理解されにくいため、余計に症状が進行してしまうこともあります。
このようなことを防ぐためにも、周囲の人の積極的なサポートが必要となります。
また、精神療法や薬物療法など、不安神経症の治療法は、本人の体調に合わせて選択する必要があります。
医師やカウンセラーとの相談のもと、より良い治療法の選択を行いましょう。
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