2021.03.16
親が介護施設へ入居するタイミングやきっかけとは? ~認知症・自立・在宅介護の3つの場面から事例を考える~
親の介護なんて、その時になって考えればいいや!
と多くの方が考えていることと思います。
高齢者介護に関わる者としては、できるだけ早い段階から、介護に関する知識を持っておく方がいいと思っています。
介護の知識として、制度のことや、認知症をはじめとした高齢者に多い特徴を知ることも大切ですが、そもそもご自分の親が、どんな老後の生活を希望しているのかについて、知っていますか?
これらを知らないと、突然訪れる「介護」に対して対応できません。
家族としては、お金のことや、面倒を観ることなど、自分たちの生活に直結する問題になりやすいので、早い判断を求められることもあります。
そんな場面で、判断材料もなしに判断できるのでしょうか。難しいと思います。
「介護に関する知識」と「親の想い」を知っておくこと。
これらは、まさに人生の「転ばぬ先の杖」と言えます。
今回のコラムでは、これらの視点から、介護施設への入居を検討するケースをココシニア編集部の方とご一緒に解説していきたいと思います。
管理職を担っていた有料老人ホームでは入居前の面談や家族様のフォローを行っておりました。現在はフリーランスで介護職や講師などさせていただいております。様々な介護施設や訪問介護の現場で気付いたことについて、今回の記事の中で触れています。ぜひご覧ください!
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1.認知症の親の介護施設・老人ホームへの入居タイミング・きっかけは?
入居のタイミングを解説するまえに、まずは認知症の症状や生活上の問題点、入居のきっかけとなることがらについて整理していきます。
認知症の整理
ココシニア まずは認知症の症状について理解したいと思っています。簡単に情報を整理していただけますでしょうか。
前川 アルツハイマー型など症状の種類はいくつかありますが、いずれも脳の病気とされていて、中核症状と呼ばれる症状がみられてきます。
「ここはどこ?今はお昼なの?」というような見当がつかなくなったり、物事を理解することが難しくなったり、ご飯を食べたのに食べたこと自体を忘れてしまうような記憶障害も見られることがあります。
そしてこれらの中核症状のために、本人と周りとのズレが大きくなってしまい、不穏で落ち着きがなくなったり、何かを探すように徘徊してしまったりします。
これらの行動のように、目に見える形として現れる状態を周辺症状(BPSD)といい、問題行動などと呼ばれたりもしています。
介護の場面では、この周辺症状が認知症ケアの課題として広く認知されています。
生活上の問題点
自宅で暮らす認知症の方に周辺症状が現れ始めると、
・自宅でもトイレの失敗が増える
・火の不始末が増える
このような生活上の心配が出るようになります。
認知症の方は食事をちゃんと取れていないことや、お風呂にちゃんと入っていないことも。
このようなケースの場合、誰かが本人の生活上の問題をフォローすることで身体状態や生活状況の改善を図れるようになります。
ココシニア なるほど。おひとりだとできない生活上の問題を、まずフォローすることが大切なのですね!
前川 はい、そうです。ただし、この誰がフォローするのか、の場面で家族だけでしようとすると大変になります。
家族としても、仕事や家事などをしながら生活しているので、絶えずフォローし、見守ることは難しい。
そんなタイミングで、いよいよ介護保険サービスを検討するようになります。
選択肢としては、在宅生活の継続、介護施設などへの入居、どちらかを選ぶことになります。
在宅生活を継続する際のポイント
在宅生活を継続する場合、介護保険サービスの中にも、介護スタッフや看護師などが自宅に訪問してくれるサービスが数種類あります。
ただし、常に誰かが常駐する訳ではないので、訪問してくれた人が帰ってしまった後は見守りができません。
その隙間に迷子になるなどの心配も残ります。
それでも、定期的に誰かがきてくれれば、早期発見にはつながります。
ココシニア たしかに。定期的に訪問してくれる方がいれば安心ですが、スタッフが帰った後は心配ですね…スタッフ不在時に安否確認を行うための解決方法はあるのでしょうか。
前川 介護保険サービスによる訪問に加えて、見守りができるカメラ付きの製品や、外で迷子になってしまう危険性に対してはGPS(どこにいるかわかる位置情報サービス)を搭載した製品を利用することで対処ができます。
こうした製品は家族のスマートフォンで確認できる仕様になっています。
実際に認知症の方であっても在宅生活を継続している方はいらっしゃいます。
認知症になっても在宅生活を継続するという選択は、できないわけではありません。
施設入居のタイミング・利点
とはいえ認知症の周辺症状が大変になり、火の不始末や不潔行動、行方不明などが頻回になると、家族としても在宅では安心できなくなってきます。
ここが限界に達すると、24時間体制で見守りをしてくれる介護施設などへの入居を本格的に検討する段階になると思います。
入居施設であれば「常に誰かがみてくれる」「本人は、そこにいてくれる」ことは保障されているので、安心感が得られます。
介護スタッフも看護師もいて、食事も出るので栄養管理もやってくれたりと、施設では安全な場所で幅広いサポートをしてもらえるで、やはり安心感はとても強いと思います。
ココシニア そこの安心感は施設ならではですね。
前川 そうですね。認知症の方については、家族のサポートだけで本人の自立を支えることは難しいので、在宅にせよ施設にせよ、介護保険サービスなどを上手く利用していくことが大切だと思います。
2.元気な親の介護施設・老人ホームへの入居のタイミング・きっかけは?
65歳以上の方の中で、介護を必要としている方(要介護認定を受けている方)は、およそ18%ほどいらっしゃいます。
裏を返すと、介護を必要としていない人は82%いらっしゃるということになります。(*1)。
実は元気な高齢者が多いことがわかります。
元気なうちから入居施設を検討すべき理由
ACP・人生会議のロゴマーク
元気な親御さんの場合、介護については「そのとき」考えればいいか、と後回しにしがちです。
実際に介護施設などを検討するタイミングとしては、体調が悪化した時や転倒による骨折など、突然訪れることが多いように感じます。
そして突然訪れたその時に、大慌てする家族の方も多いです。
ココシニア 万が一に備えて、介護のことを考えなくてはと思っているものの、ついつい後まわしになってしまいがちですね。
前川 こうした問題に対して、厚生労働省がACP(アドバンスド・ケア・プランニング)という取り組みを進めています。
ACPとは、親御さんが急変した時のこと、看取りのことなどを話し合っておくことです。
人生会議とも呼ばれています。
急変してしまうと、本人の気持ちを聞くことができなくなります。
延命したいのか。
静かに逝きたいのか。
自宅がいいのか。
施設がいいのか。
急変時には、一刻を争う場面もあるので、急にこれらの重大な決断をしなければならなくなります。
あらかじめ、ある程度でも決めておかないと答えを出すのは難しいです。
ココシニア 容態が重くなってしまったあとでは、本人の気持ちを聞くことができないから、事前に看取りや延命措置について話し合っておくこともとても重要だと思いました。
前川 看取りや延命の決断に対して悔いが残らないようにするためにも、何より親御さん自身が望む形で見送るために、事前に話し合っておくことをおすすめします。
話し合いの際に検討しておくべきポイント
最期を迎える場所として、自宅がいいという高齢者の方は多くいらっしゃいます。
しかし実際に介護が必要になっている場合はどうなのか。イメージをふくらませて検討していくことが大事かもしれません。
ココシニア イメージのふくらませ方がいまいちピンとこないのですが、話し合いの際に検討しておくことがよいポイントを教えていただけますか。
前川 まずはどんな介護サービスを利用することができるのか考えてみましょう。
たとえば、訪問サービスや定期巡回サービスを利用することで、在宅生活を続けることもできますが、介護施設や老人ホームであれば、看護師がいる事業所も多いので、介護も看護もあわせてサービスを受けることができるのは、大きなメリットといえます。
スタッフが居住しているそばにいるというのは、体調不良時や急変時には心強いです。
ココシニア なるほど。それに加えて、介護が必要になった背景によって、話し合う内容も変わってくるかと思いましたが、どうでしょうか。
前川 持病をお持ちの方などは、医療体制を意識して施設を検討する方もおられます。
看護師が24時間体制なのか、病院との連携はどうなっているかなど、あらかじめわかることはしっかり確認する。
入居施設の人員体制やコンセプトなどは、事前によく確認しておき、「どんな老後を送りたいか」を軸に検討されるといいのではないでしょうか。
食事にこだわる施設、医療体制が整っている施設、楽しみがある施設など特色が色々あります。
介護施設に入居される方には、配偶者を亡くして一人暮らしに不安がある方や、今は元気だけど将来に備えて入居施設を検討する方もいらっしゃいます。
介護が必要になったという理由だけが介護施設入居のきっかけにはなりません。
元気なうちは、介護が必要になるとか、看取りの時にどうするかなど、考えが及ばないこともあると思いますが、親御さん自身が納得いく人生の締めくくりをするためにも、残される家族に悔いが残らないためにも、事前の情報収集が大切だと思います。
3.在宅介護を行う親の介護施設・老人ホームへの入居タイミング・きっかけは?
在宅生活が難しくなるケースとしては、認知症によるご近所とのトラブルなどが起きてくる場合や、病気などの理由で、在宅での健康管理が難しくなる場合が多いと思います。
また、同居の場合など家族だけで頑張ろうとして潰れてしまうケースもあって、生活の中に介護保険サービスを入れてもなお、家族の心身の負担が強いような場合も、在宅生活を諦める理由になると思います。
介護疲れと負担を軽減する方法
家族には親との歴史があり、元気なころのことも知っているので、老いた姿や認知症の姿を受け入れることが難しいので、精神的にも辛く感じることがあります。
「なんでこんなこともできないの」
と現実を受け入れられないご家族の姿を何度も見てきました。
ココシニア いつも側にいた家族だからこそ、急な変化についていけないことはあると思います。そうした状況で、介護を行うのはとても苦しいですね…
前川 そうした時こそ、介護保険制度を利用して経験や知識のある介護をスタッフにケアを任せていただきたいと思います。
最近では、介護離職という親の介護のために仕事を辞めなければいけなくなるケースが知られるようになり、昨年はヤングケアラー(*2)という言葉も聞かれるようになりました。
10代や20代など若い人が家族の介護に追われているケースが増えているというのです。
これらのように、介護は家族でするもの、自宅でみるもの、と固定的に考えてしまうと辛くなります。
在宅介護を継続するために利用できる選択肢は、実はたくさんあります。
介護をアウトソースすることは悪いことでも何でもありません。
要介護状態にある方の暮らしを社会全体で支える仕組みこそが、まさに介護保険の理念でもあります。
なお要介護度が重ければ、障害者支援の制度を併用できる場合もあります。
介護度が重くなるほど、保険適用される多くのサービスを利用できますし、障害者支援の「重度訪問介護」を併用し、常時見守りができる体制を作ることができる場合もあります。
ココシニア そんなサービスもあるのですね。いろんな制度を利用すれば要介護度が重い方でも、在宅生活のハードルは下げられると思いました!
前川 ALS(筋萎縮性側索硬化症、身体が動かなくなっていく難病)の方であっても、自宅で過ごされる方もいらっしゃいます。
難病やガンの末期であっても、在宅の看取りをすることは不可能ではありません。
この体制ができれば基本的に1名が終日滞在できます。
サービスの併用はぜひ検討すべきです。
施設入居のタイミング・利点
一方入居施設であれば、少なくとも日中は複数人のスタッフがいます。
規模によっては夜間も複数人います。
急変時などの連絡体制は在宅でも作られていますが、複数名いることで迅速な対応を期待できるという点では、入居施設の安心感は強いかもしれません。
必要即応に看護を含めたケアを、ケアしやすい環境で提供してもらえます。
もちろん他の入居者の方もいらっしゃるので、常に複数のスタッフにみてもらえるわけではないですが、急変時などは応援を頼みながら実際に対応してきましたし、助けを呼べるのは介護職としても施設は心強い環境ではあります。
ココシニア やはり、施設入居は「安心感」というところに利点があると思いました。施設入居のタイミングについて考える際は、どんなことをポイントにすればよいでしょうか。
前川 まず在宅介護の限界点をポイントに考えることが大切だと思います。
在宅介護の限界点は、
・家族側の負担
・医療体制
・認知症
などの問題が大きく作用すると感じています。
様々な在宅サービスも検討しながら、限界点を超えないために無理をしないで、入居施設も視野に入れておくとよいのではないでしょうか。
4.まとめ
ココシニア 今回は前川さんに施設の入居タイミングときっかけについて、3つのケースに分けて解説してもらいました。
認知症が進行したり、将来の不安に備えたり、在宅介護が限界に達したり…
このようなきっかけが、入居タイミングになることを解説してもらいました。
在宅介護を継続するコツについては、在宅介護を支える様々なサービスを併用していくこと、安否体制を整えるためには福祉機器を利用できることを教えていただきました。
最後に、介護施設の入居とそのタイミングについて、アドバイスをいただけますでしょうか。
前川 いちように、在宅がよいか、施設がよいかと述べることはできません。
その時の状況や本人の価値観、家族の考え方が合わさり、みんなが納得できる介護の在り方が決定されるからです。
そのため、本人や家族と話し合って暮らし方を相談することが何より重要になります。
その際に、以下の視点から介護の在り方を考えるとよいでしょう。
・制度のこと、サービスの種類など事前の情報収集が大切
・訪問サービス、定期巡回サービス、障害者の重度訪問介護など在宅生活を継続するためのサービスがある
・入居施設では、安全な場で看護も含めた必要即応のケアをしてもらえる
・入居施設は、複数名のスタッフが診てくれる安心感がある
事前の準備があれば慌てずに済みます。
自分だけで抱え込まないで、周りや制度を頼って、ストレスを少なくできるような体制を作っていくことは、親御さんにとっても心強いと思います。
介護施設や老人ホームは、事業所によって様々な特徴があるので、事前にしっかり説明を聞いて、できれば見学もさせてもらうことが大切です。
少しでも、悔いのない決断をするために、日ごろから準備をしておきましょう。
ココシニア とても勉強になりました!
前川さん、ありがとうございました!
今回は、「介護施設入居のタイミングときっかけ」について解説をしていただきました。
介護施設への入居を検討する際は、施設でご入居者を支えるスタッフが、どんな人たちなのか気になることもあるのではないでしょうか。
たとえ施設の外観が豪華であっても、生活を支えるのはあくまでスタッフです。
以下の記事では、介護職の特徴や介護施設での暮らしについて、前川さんに解説していただいております。
ぜひこちらもご覧ください!
*1 東京都福祉保健局「2018東京の福祉保健」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/soumu/2018sya/02/p20.html
*2 一般社団法人日本ケアラー連盟HP
https://carersjapan.jimdofree.com/