2021.07.27
高齢者に見られる徘徊とは?言葉の意味と原因、その対策方法は?
認知症における代表的な周辺症状のひとつとして、徘徊があります。
徘徊は事故などの危険も伴ううえ、警察や近隣の人たちに迷惑をかけることも多いため、介護をしている側にとっては非常に大きなストレスとなってしまいます。
しかし徘徊にはそれぞれ理由があり、理解を深めて対策を取ることによって、ストレスや危険を軽減することができるのです。
この記事では徘徊の意味するものや原因、対策法を詳しくご紹介します。
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徘徊とは? その意味
認知症の周辺症状として現れる徘徊。
徘徊という言葉を広辞苑(辞書)で調べてみると、
引用:広辞苑
と書かれています。
また「徘徊る」は「たもとおる」と読み、「同じ場所を行ったり来たりする様子やぐるぐる回ること」を表します。
目的がなく、うろうろすることが本来の徘徊が意味するものなのです。
徘徊という言葉は、認知症の周辺症状を表す言葉として利用されることが多くなっていますが、本来の「徘徊」という言葉が意味するものと、認知症の周辺症状として使われている徘徊という言葉は、若干意味合いが異なります。
徘徊と散歩の違いは?言い換えるべきという動きも
徘徊と散歩の言葉本来での意味の違いはほとんどありません。
しかし、認知症の周辺症状として使われる徘徊と散歩で大きく異なるのは、徘徊は帰れなくなるということです。
散歩ではある一定の距離や時間を費やすことで終了となり、帰宅となります。
けれども徘徊は、認知症による記憶障害や見当識障害などによって、自分がどこにいるかわからない状態となり、帰るべき場所へ帰れなくなってしまいます。
徘徊といっても、ご本人にとっては理由や目的があり、徘徊の持つ本来の意味とは異なる部分があることから、厚生労働省では『ひとり歩き』といった言葉に言い換えるという動きも出てきています。
しかし介護の現場では、現在も認知症の症状のひとつとして徘徊という言葉が使用されているのです。
徘徊に伴う行方不明者の割合は20.1%
認知症の方が徘徊をするリスクには次のようなものがあります。
<徘徊のリスク>
- 怪我
- 事故
- 衰弱
- 熱中症・脱水症状・低体温症
また見当識障害や記憶障害から自宅や施設に戻れず、行方不明者となってしまう最悪のケースも実際に起こっています。
警察庁生活安全局がまとめた『令和元年における行方不明者の状況』によると、令和元年に警察に行方不明届が提出された86,933人のうち、約2割にのぼる17,479人が認知症の患者であると発表されています。
参考:令和元年における行方不明者の状況|警察庁生活安全局生活安全企画課
そうしたことから、徘徊は適切な対応をしなければ、危険な要素を多く含んでいる行動であることが伺えます。
徘徊の原因 なぜ徘徊をしてしまうのか?
徘徊は、「ご本人にとっては外出してしまう理由」があり、行なわれてしまいます。
その理由や目的を知ることで、対処法を見つけることもできるのではないでしょうか。
ここでは徘徊をする目的や原因として挙げられる、代表的な3点についてご紹介します。
1.出かけたあとで忘れてしまう
出かける前までは「~のために〇〇に行く」と目的があっても、出かけたあとで忘れてしまうことがあります。
これは認知症による記憶障害によるもので、経験したことそのものを忘れてしまう症状です。
一旦忘れてしまうと、その後に起こりうる行動には下記のようなものがあります。
<忘れた後に起こりうる行動>
- 自分が何をしようとしていたのかを忘れる
- 思い出すために延々と歩き続ける
- 見知らぬ場所に行ってしまって道に迷う
2.ストレスや、落ち着かないから出てしまう
認知症になると、周囲の環境の変化や居心地の悪さから逃れるために、移動しようとすることがあります。
これらが外出の主な要因となります。
<外出・移動しようとする要因>
- 日中ひとりで留守番をしていて寂しくなってしまう
- 引っ越しなどの新しい環境に慣れることができず不安になってしまう
- 家族とのコミュニケーションがうまくいかず逃げ出してしまう
特に新しい環境(引っ越し・施設入所など)には不安が強く、以前の家に帰ろうとしたり、その場から出てしまったりすることが見受けられます。
3.習慣で出かけてしまう
今まで自分が日常的に行なっていた習慣から、無意識に出かけてしまうことがあります。
<日常的に行っていた習慣の例>
- 会社へ行こうとする
- 子供を迎えに行こうとする
記憶障害によって過去の習慣がクローズアップされてしまうことが原因で、現在の状況を忘れてしまうのです。
認知症の特徴として、「現在よりも過去の記憶が鮮明である」ということが挙げられます。
若いころの記憶がより鮮明となり、徘徊の原因になるといえるでしょう。
出かけるのを止めるのは難しい。正しい対応は?
徘徊は無理に止めようとすると、さらに状況が悪化し、行動が活発になります。
無理に止められたことで暴言や暴力につながったり、不安やストレスが増大してしまったりするからです。
しかし外出後のリスクを考えれば、介護をする側にとっては徘徊を止めたいと思うのは当然のこと。
では、どのような対応をするのがよいのでしょうか。
ここでは主に2つのポイントをご紹介します。
本人には外出する理由がある
徘徊にはご本人なりの理由があります。
そのため、できる限りその理由に耳を傾け、ご本人が何をしようとしているのか、どこへ行こうとしているのかを理解することが大切です。
きちんとした会話ができない場合もありますが、言葉の端々に出てくる単語にヒントがあるかもしれません。
外出の理由がわかれば、ご本人が抱いている不安やストレスの原因を取り除いたり、気持ちを理解したりすることも可能になります。
頭ごなしに怒ったり止めたりするのではなく、きちんと向き合い、ご本人の思いや行動を理解するよう心がけましょう。
行動を見守り、一緒に外出
本人が何をしたいのかが明確にならない場合は、一緒に外出するのもひとつの方法です。
散歩にお付き合いするくらいの気持ちで、危険がないか見守りながら出かけてみてください。
風景を楽しんだり、外の空気に触れたりすることでストレスが緩和され、外出した目的を忘れてくれる可能性もあります。
コミュニケーションがうまく取れなかったとしても、寄り添うだけで不安が取り除かれるのです。
付き添っていて万が一転倒してしまったら、こちらの記事も参照してください。
➡「高齢者が転倒してしまったら…対応方法から、予防、注意すべき後遺症まで紹介!」
徘徊からの事故を予防する対策方法
徘徊には多くのリスクが伴います。
徘徊の開始から時間が経てば経つほど、そのリスクの大きさも増大することとなるのです。
ご本人の安全を守るためにも、万が一のことを考え、備えておくことはとても重要です。
日頃からの心構えをはじめ、有効な対策方法をご紹介しますので、できることからはじめてみてください。
日頃からの心構え
徘徊が見られるようになったら、その行動パターンや様子をよく観察するようにしましょう。
<観察するポイント>
- よく行っている場所(お店・公園・公共交通機関など)
- その日に着ている服装
- 思い出のある場所
これらを知っておくだけでも、万が一のときの助けになります。
また本人にわからないように、洋服や持ち物に名前と連絡先を書いておけば、事故などに遭った際にはすぐに連絡をもらうことができます。
センサーを玄関に設置
家を出てしまうタイミングを知るために、玄関にセンサーやベルを取り付ける方法もおすすめです。
玄関に鏡を設置したり、本人の好きなもの(花・ポスターなど)を置いておいたりすると、出かけるまでの時間を少し稼ぐことができるケースもあります。
徘徊は開始からの時間の経過が重要になるため、いち早く徘徊のタイミングをつかめるような工夫が必要になります。
カギにひと工夫
外に出るドアのカギを簡単に開けられないタイプのものに変更することもひとつの方法です。
防犯目的で使用される玄関の補助鍵やサムターンカバーなどは簡単に取り付けることができます。
玄関から簡単に出られないとなると、窓から出ようとして転落する事故につながることも……。
必要に応じて玄関だけではなく、外に出られる窓に関しても窓のロックができるサッシ用の補助錠を取り付けると良いかもしれません。
注意しなければならないのは、居室に本人の同意なくカギをつけてしまうと、虐待や監禁の罪に問われてしまうということです。
閉じ込めることは身体拘束とみなされてしまうので、徘徊の対応に困ったら、まずは担当のケアマネジャーや、地域包括支援センターの人に相談しましょう。
安全のために鍵の設置を実施する場合も、各家庭においてどのようなカギが適しているのかなどを検討してから取り付けることをおすすめします。
GPSで居場所を確認
居場所がわかるGPS機能を利用するのも有効な手段です。
スマートフォンや携帯を利用する以外に、首からぶら下げるタイプのものや靴に取り付けるタイプのものなど、状況に合わせた機種を利用できます。
GPSがあれば、万が一徘徊から時間が経過してしまっても、現在地がすぐにわかるというメリットがあります。
正確な位置情報をつかむことができるので、見つけられる可能性も非常に高くなります。
SOSネットワークを活用する
SOSネットワークとは、地域の住民・自治体・警察・医療機関・企業などが連携し、行方不明者を迅速に発見できる体制のことです。
認知症の患者さんが行方不明になった場合は、警察を中心としたネットワークを活用し、発見できるよう地域の方々が捜査に協力してくれます。
SOSネットワークは、日頃から徘徊が見られることを知っておいてもらえば、万が一のときに多くの人が協力してくれる制度です。
介護者がひとりでできることには限界があります。
地域の人たちの力を借りて、高齢者の見守りをお願いすることも、安全を守るためには必要なことといえるでしょう。
外に出て行方不明になったときは、速やかに警察に
万が一、介護をしているかたが徘徊で行方不明になってしまった場合には、速やかに警察に届けてください。
時間が経てば経つほど命の危険も高まりますので、一刻も早く見つけてあげることが先決です。
高齢者は「人様に迷惑をかけてはいけない」「人に何かを聞くのは恥ずかしい」という道徳観念から、周囲にSOSを求めずに事態が深刻化してしまうことがあります。
日頃から地域でのコミュニケーションを密に行ない、何かあったときにSOSを出しやすい環境を作っておくことや、街中で困っている高齢者を見かけたらこちらから声をかけてあげるという意識も大切です。
徘徊させない・外出させないという負の解決策ではなく、周囲の力も借りながら地域全体で見守っていけるネットワークの構築が、高齢者の安心と介護者の負担軽減を生み出すのです。
そんな優しい社会を目指したいですね。
認知症についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
➡認知症の方が物事を忘れる順番は? 認知症進行への対応ポイント3つをご紹介
➡プライドが高い言動が出てしまう認知症のかたへの5つの対応。プライドの高さには個人差が出る原因とは?
➡認知症は何歳から? なりやすい人、なりにくい人の違いや特徴を知る