2021.08.10
物忘れの改善に重要な生活習慣の見直しポイントとは?
「あの人の顔は出てくるけど、名前が出てこない」
「今、なにをしようとしていたか忘れた」
など、皆さんは、最近、物忘れが多くなったなと感じることはありませんか?
「もしかして、私、認知症なのかも」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
そもそも物忘れと認知症の違いはなんでしょうか。
物忘れは生活習慣により改善することができます。
今回は、物忘れと認知症の違いについて解説し、また、生活習慣の観点から、物忘れを改善する方法についてご紹介します。
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1.物忘れの改善のカギは生活習慣にあり
皆さんは、自分自身の生活習慣についてどれくらい把握しているでしょうか。
皆さんの考えや感情は行動となってあらわれ、日々の行動の積み重ねが、皆さんの生活を形成しています。
そのため、人生において食事、運動、睡眠の基本的な生活習慣に加え、どのような環境でどんな人と関わるのかが重要となります。
栄養のあるものを食べていますか?
きちんと睡眠はとれていますか?
座りっぱなしの生活を送っていませんか?
物忘れが頻繁に起こる方は、このような基本的な生活習慣が乱れている方に多くみられます。
そのため、食事、運動、睡眠などの根本的な生活習慣を見直すことが、物忘れの改善へとつながるのです。
2. 物忘れの改善ポイント5点
① 睡眠時間を1時間多くとってみる(睡眠習慣)
② 軽度な運動を数十分行う(運動習慣)
③ サバ、サンマ、イワシ、アジなどの魚類を取る(食習慣)
④ 人付き合いをするように心がける(対人交流習慣)
⑤ 日記をつける(知的行動習慣)
上記5つの観点から生活習慣を見直すことが重要です。
それぞれ詳しくみていきましょう。
①睡眠時間を1時間多くとってみる(睡眠習慣)
「睡眠の重要性」は至るところで耳にしますが、世の中には、寝ない動物は存在していません。
自然界で「睡眠」という行為は、敵に狙われる可能性が高くなるにもかかわらず、全ての動物が睡眠をとるということからも、いかに睡眠が重要であるかがわかりますよね。
物忘れのカギとなる、記憶の定着にも睡眠が重要であることが報告されています。
また、慢性的な睡眠不足は、脳のシナプスが破壊されることもわかっています。
普段の睡眠時間より1時間多く寝てみてください。
② 軽度な運動を数十分行う(運動習慣)
物忘れの改善には、適度な運動が効果的です。
運動することで「BDNF:脳由来神経栄養因子」という、脳神経や機能の発達を促進するタンパク質が放出することがわかっています。
また、BDNFはどんなエクササイズでも一定量増加し、筋トレやHIITなどのハードな運動だけでなく、ウォーキングのような軽い運動でも確実に増加します。
是非、ご自身が楽しくできる運動を見つけて、習慣化しましょう。
高齢者におすすめの運動については以下の記事で詳しく解説しております。
➡高齢者でも簡単にできる!健康を保つためにおすすめな運動の種類をご紹介
③ サバ、サンマ、イワシ、アジなどの魚類を取る(食習慣)
魚が脳に良いことは昔からいわれていますが、もちろん、物忘れの改善にも効果的です。
なんと、1週間にたった1回魚類を食べることで、脳のはたらきが14%もアップすることが報告されています。
この研究は、65歳以上を対象に9年間の食生活を調べ、脳をスキャンしたのですが、魚を最低でも週に1回食べていた人は、そうでない人に比べ、認知機能エリアが14%も大きくなっていました。
また、脳の記憶エリアは4.3%も大きいことがわかりました。
調理する際は、油で揚げずに、できるだけ低温で調理(焼魚、煮魚など)することをおすすめします。
物忘れの改善を助ける、または悪化させる食べ物についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
➡物忘れがひどくなる食べ物とは?食べ物から認知症予防について考えよう!
参考:Cyrus A Riji et al., Regular Fish Consumption and Age-Related Brain Gray Matter Loss, AJPM 2014(47) 444-451.
④ 人付き合いをするように心がける(対人交流習慣)
これまで、睡眠、運動、食事などの根本的な生活習慣の改善についてお伝えしましたが、実は、「人付き合いの習慣」も物忘れの改善に重要となります。
人間は社会的動物であるため、人との関わりのなかで生活しているため、社会的孤立は、さまざまな病気の原因となります。
また、高齢になり、物忘れが目立つ裏には、聴力の低下が関係しています。
聴力が低下した結果、相手の話している内容や単語がよく聞こえずに、なんとなく理解してしまう、うろ覚え、などの現象につながり、周りからみたら「認知症なのかもしれない」という誤解を招くこともしばしば。
そのため、聴力を鍛えるためにも、積極的に人付き合いを行い、人の声を聞くという習慣を見につけておく必要があります。
物忘れの改善のみならず、対人交流習慣を持つことは幸せな老後やQOLの向上には欠かせません。
老後の幸せとQOLについては以下の記事で詳しく解説しております。
ぜひこちらも合わせてご覧ください。
➡QOL(クォリティオブライフ)とは? 幸せな老後の考え方
⑤ 日記をつける(知的行動習慣)
日記をつけることが物忘れの改善に効果がある理由は、主に2点あります。
1点目は、今日一日の出来事を書くことにより、記憶が定着しやすくなるからです。
2点目は、自分自身の発見につながることです。
自分自身を見つめ直すことによって、自分はどんなことに興味があるのか、どんな出来事が嬉しかったのか、なにが辛かったのかなど、自分大切にしているものや価値観に気づくことができます。
この内観が、認知症の早期警告を示すきっかけになることが報告されています。
新しいことに興味がもてなくなり、世の中への関心が消えてしまった人は、その数年後にアルツハイマー型認知症や血管性認知症になる可能性が大きいことがわかりました。
つまり、日記により無気力感を発見することができるのです。
さらに、日記には多くの健康効果が報告されており、寝る前にその日にあった嬉しかったこと、よかったこと、感謝することなどを5件記録するだけで、幸福度が上がり、うつ状態も改善することがわかっています。
些細なことでも良いので、日記を是非取り入れてみてください。
参考:Jonathan Tay et al.,Apathy, but not depression, predicts all-cause dementia in cerebral small vessel disease,J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020 Sep;91(9):953-959.
参考:Robert A. Emmons et al.,Counting Blessings Versus Burdens: An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life ,Journal of Personality and Social Psychology Copyright 2003 (84) :377–389
①〜⑤まで物忘れ改善ポイントとして5つの習慣をご紹介しました。
習慣化するためには、少なくとも週に4回、8週間の繰り返しが重要であることがわかっており、継続することが大切です。
3.脳トレアプリも物忘れ改善に効果的
最近では、「脳を活性化させる」「記憶力を向上する」などの理由から、脳トレアプリが人気を誇っています。
最近の研究によると、脳トレも物忘れの改善に効果的であることが報告されています。
脳トレには、脳の反応速度を鍛えるものや、短期記憶を鍛えるものなどさまざまな種類があります。
さらに、脳のワーキングメモリを鍛える、脳トレアプリとして効果的なものとして「Dual N-Back」があります。
これは、1日15分でIQが5ポイント上がると報告されています。
最近の脳トレアプリのほとんどがオフラインでも利用可能となっていますので、是非空き時間などにチャレンジしてみてください。
無料でできる高齢者におすすめの脳トレアプリを以下の記事で紹介しております。
ぜひこちらも参考にしてください。
➡高齢者・シニア向け「ゲーム」アプリオススメ5選!スマホで脳トレを
4.そもそも物忘れと認知症の違いは?
では、自然な老化の一つである物忘れと、認知症の物忘れはどのような違いがあるのでしょうか。
以下、詳しくみていきましょう。
物忘れと認知症の違い一覧表
老化による物忘れ (想起障害) |
認知症による物忘れ (記憶障害) |
体験の一部を忘れる 例:食事をとったことは覚えているが、メニューは思い出せない。 |
体験そのものを忘れる 例:食事をとったこと自体を思い出せず、ご飯を催促してしまう。 |
忘れたことを自覚している 例:買い物から帰った際に、買い忘れに気づく。 |
忘れたことを自覚できない 例:買い物に行ったこと自体を忘れ、また買い物へ行く。 |
生活に支障はない 例:日付や曜日、場所などを間違える。 道に迷うことはあるが、目的日にはたどり着く。 |
生活に支障がある 例:日付や曜日、場所などが分からなくなる。 自宅に帰ることができない。 |
上記は、物忘れと認知症の違いを示したものです。
記憶は、注目する(知覚)、憶える(記銘)、とどめる(保持)、思い出す(想起)の4つのステップによって構成されています。
老化による物忘れは、覚えているのにでてこない「想起」の障害になります。
一方で、認知症による物忘れは、「記銘」そのものができない障害になります。
このように記憶のステップに違いがあるのです。
また、旅行や、自分の歴史年表などの「エピソード記憶」、一時的にかける電話番号などの「作動記憶」は、年齢による影響を受けやすいことが知られています。
一方で、机をみて「これは机である」、リンゴをみて「これはリンゴである」と認識する「意味記憶」や、自転車の乗り方やお箸の使い方などの「手続き記憶」は、年齢の影響を受けにくいことがわかります。
そのため、エピソード記憶や作動記憶を忘れたからといって、認知症かもしれないと断言することはできません。
反対に、「意味記憶」や「手続き記憶」の物忘れがあるとすると、年齢による物忘れではない、つまり認知症の可能性を疑った方がよいということになります。
物忘れの危険度チェック方法
これまでに物忘れについて解説しましたが、皆さんが危惧されている物忘れが、どの程度危険なのか、簡単なチェック方法があるためご紹介します。
まず、図に示したように、物忘れの危険レベルは、体験そのものを覚えているかがポイントとなります。朝ごはんに何を食べたかどうかを忘れるのでなく、朝ごはんを食べたこと自体を忘れる場合に危険レベルは高くなります。
次に、手段的日常生活動作(IADL)評価である、4つの質問にそれぞれ当てはまるかどうかを確認してみてください。
質問に全て当てはまった方は、質問に1つも当てはまらない方に比べて、認知症リスクが300倍以上であると報告されています。
1 | 電車やバスなど交通機関を使って、一人で外出しているか |
2 | 自分で電話番号を調べて電話をかけることができるか |
3 | 貯金や家計の管理ができているか |
4 | 薬の管理ができているか |
認知症危険度チェック Barberger-Gateau P et al.,1993 より作成
5.まとめ
今回は、物忘れの改善ポイント5つをご紹介し、改善のカギは生活習慣にあることをお伝えしました。
また、加齢にともなう物忘れの際に必ずといってもいいほど気になる、「認知症による物忘れとの違い」及び「物忘れのチェックポイント」をご紹介しました。
また、少しでも認知症の疑いがある場合は、早期受診することが大切です。
早期発見のためにも、日頃からご自身の体験や出来事を周りの人と共有し、コミュニケーションを積極的にとることを心がけましょう。
ところで、認知症にはなりやすい人、なりにくい人の特徴があることをご存知でしょうか。
物忘れの改善において生活習慣の見直しが大切なことと同じように、認知症発症にも一定の特徴があります。
以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひ合わせてご参考にしてみてください。